42話 いきなり奇襲!?
「まずは【ウィンドネイルーLV15】。
あのプレイヤーキラーを速攻で落とすか」
【サンマー=ジュージカン】の事前のアナウンス通りにバトルフィールドが森林と化したのをバトル開始の合図と認識したプレイヤーが【ドロップ】へと襲いかかってきた。
このプレイヤーは掲示板でもお馴染みの【魔術師】……堅物気質の【ジュモン】である。
その手には立派な杖が握られており既に戦闘準備を終えて攻撃魔法を使ってきたというわけだ。
この切り替えの早さは並みのプレイヤーでは実践できないため、予選でも猛威を奮った実力者というのが窺える。
そんな【ジュモン】に魔法で狙われた【ドロップ】はというと……
(あわわわわ!?
もう攻撃してきたよ!?
始まってからまだ5秒くらいしか経ってないのにズルいよっ!?)
……完全にテンパっていた。
相変わらずのポーカーフェイスで表情には出さないものの、心の準備が出来ていなかったためそのまま攻撃を避けることも守ることも、そして迎撃することも出来ずただ棒立ちで【ジュモン】の攻撃魔法【ウィンドネイルーLV15】によって生み出された風の爪によって切り裂かれてしまったのだ!
「……?
どうしたのか??
かの悪名高きプレイヤーキラーが無抵抗で俺の攻撃を受けた???
流石に怪しいな、カウンタースキルかチャージ系のスキルを警戒しておこう」
ただ攻撃を受けただけの【ドロップ】であったが、全く反応出来ていなかったが故に攻撃を受けても微動だにしなかったのでそれが逆に【ジュモン】の不審感を煽ったようである。
本来一般のプレイヤーなら攻撃を受けたら多少なりとも反応するはずなのだが、【ドロップ】には特殊な事情があった。
それは今【ドロップ】が操作しているアバターの前の所有者である【アイ】がパワーレベリングを施したため、ダメージや衝撃が軽減されていたのだ!
【ジュモン】と【アイ】は同じ【魔術師】であるため、そのレベル差が顕著に戦いに反映される。
たとえ【ドロップ】の実戦経験が髪の毛一本ほどのか細いものしかないとしても、鍛えられた身体は正直なのである。
「次は少し射程の長いもので高威力魔法を当てて一撃で葬ろう。
変にチマチマ攻撃しているとそれこそカウンタースキルで死にかねない。
前の公式イベントで手に入れたこの火炎宝杖に秘められた力を解放だ。
特殊技能【メテオヴォルケーノ】っ!
そして【プロミネンスサイクロンーLV17】」
反撃が無いのなら次の一撃で決着をつけるべきと判断した【ジュモン】は、【ドロップ】が【プリンセスドミネイト】で発生させた公式イベントの報酬である火炎宝杖に付与されていた特殊技能【メテオヴォルケーノ】を発動させた。
これは次に炎系魔法を使うときにおまけとして小型の炎隕石を上空から降らすという破格の効果がある。
基本的にプレイヤーが同時にスキルを使って攻撃することが出来ないので、この特殊技能は異質な強さを発揮しているのがよくわかる。
そして、【メテオヴォルケーノ】と同時に放たれた炎系魔法【プロミネンスサイクロンーLV17】は炎の竜巻を起こすスキルである。
上からは炎隕石、真正面からは炎竜巻が迫るという現実であれば目を覆いたくなるような絶望的状況に陥ってしまった【ドロップ】。
その心境はというと。
(隕石と竜巻っ!?
凄い迫力だよぉ……
でも、今の私ならヤれるよ!
ここで打ち勝たなきゃ格好いい自分になれないからね!
逃げずに立ち向かうよ~!)
「いいねいいねいいね!
派手なスキルだね!
これだけ迫力のある連撃が見れるなんて思ってなかったよ!
でも、私の方が強いよ」
【ドロップ】は自身の脳内でネジ曲がったプレイヤーキラーロールプレイを崩さないように戦いで悦びを得ている形を装っていく。
内心では覚悟を決めて若干おっかなそうな及び腰風ではあったのだが、それを悟られないほど感情の並みを押し殺して新たな感情を顔の表面に貼り付けていった。
「その強がりもいつまで続くのか見物だ。
俺の炎の連撃を一人で止められるのは不可能。
そのまま焼き殺されるといい!」
「強がり?
違うね、面白い光景に胸が踊ってるんだよ!
そして、それが強がりじゃないってことも証明してあげるね!
あはははははっ、スキル発動!【アイスフレアーLV28】【ライトフレアーLV28】」
【スキルチェイン【アイスフレアーLV28】【ライトフレアーLV28】】
【追加効果が付与されました】
【効果が増加しました】
「スキルチェイン???
なんだ、それ、は……っ!!!
ぐあぁぁぁぁぁっ!!!」
壮大なスケールで放たれていた炎隕石と炎竜巻であったが、それを放った【ジュモン】とまとめて氷と光の奔流に巻き込まれていった。
一つに纏められ上げられた氷と光の一撃はその場で大きな爆発を起こし、その圧倒的力によって攻撃もろとも敵対者を滅したのだ!
「……格好良く決められたかな?
少しでも【アルタルソース】さんや【ペンネドラゴ】さんたちに近づけるようにまだまだ頑張らないとね!
よ~し、やるよ~!」
【ジュモン】を爆殺した【ドロップ】はそう決意し、後ろを振り返ることなく森林を進んでいくのであった。




