41話 いきなりひと息!
「あいつ……一歩も動かずに勝ち残りやがった」
「化け物かよっ!?」
「どんだけレベリングして挑んできたのよ……」
「くっ、復讐できなかった!!!
ゴメンっ!!!」
(よ~し、予選は無事突破できたよ!
やっぱりあの【アイ】さんが勝手に鍛えたこの【魔術師】アバター……強すぎるよね!?
まさかこんなに簡単に勝てるなんて思ってなかったよ!)
あれから魔法を使い続け近寄ってくるプレイヤーたちを薙ぎ倒しながら、【ドロップ】は予選を難なく突破できた。
【ドロップ】のこのゲームでの戦闘経験が少ないとはいえ、流石にレベル差が激しいため予選レベルでは負けることはなかった。
だが、このレベル差があったとしても上位のプレイスキルを持つプレイヤーと戦えば互角以下の戦いを繰り広げることになるのは明白な戦い方であった。
何故なら特に移動などの立ち回りをせず、棒立ちで魔法スキルを使い続けているだけだったからだ!
レベル差が激しすぎて動く必要もなかった……と周りのプレイヤーたちに思われており、実際その側面もあるのだがアバターを同時操作している関係上【ドロップ】が出来る最善の作戦がこれだけだったというわけである。
つまり【ドロップ】は、スキルを使いながら動いていくということにかなり縛りを受けているのだ。
(予選は上手くいったけど、本番はここから!
他の予選を勝ち抜いてきた人たちばかりだから流石にこんなに上手くは勝てないよね……
しかもこの戦いの録画はいつでも見られるらしいから戦い方もバレちゃったからね。
でも、カッコいいプレイヤーを目指すんだからそれでも勝たなきゃ!
やるぞー!)
これまで【わがままお姫様】として接してきた【ペンネドラゴ】と【アルタルソース】という前線組に属するいわゆるカッコいいプレイヤーたちが今の【ドロップ】の目標となっている。
思わぬ出会いで良い刺激を受けたこともあり、それに向かって猪突猛進で頑張っている【ドロップ】は予選を抜けてもなおやる気を滾らせているというわけなのだ!
たとえゲームであったとしても出会いというのは人に大きな影響をもたらすものであり、アバターだとしても実際に身体を動かし表情豊かに接することが可能なVRMMOであらばなおのことその影響力は大きい。
そうしてメラメラと燃える闘志を燃やしていると、観覧席にいた【サンマー=ジュージカン】が前に歩み出て声高らかに言葉を発し始めた。
「これにて予選ブロックは全て終了となった!
【ドロップ】姫様も満足しておられるが、ここからの本選での戦いぶりが最終審査で大きな加点となることを忘れず異郷の冒険者たちには健闘してもらいたい」
【サンマー=ジュージカン】はここで人差し指を一本立てるようにして、さらに言葉を繋げていく。
「ここで1点補足させてもらうが、本選ではバトルフィールドを私のスキルにて一時的に変容させるため、より実践的な戦闘が異郷の冒険者たちに求められる。
【ドロップ】姫様の私兵団として活動するのであれば、その者にはいかなる環境、いかなる状況であっても柔軟に対応できることが求められるのだ。
特に【ドロップ】姫様は王国を縦横無尽に動き回ることを所望しておられるので、そこに適合しない者は相応しくないとこの場で去るといいであろう。
……では、各ブロックを勝ち残った者たちよ。
未だその闘志が冷めないのであればバトルフィールドに集いたまえ!」
【サンマー=ジュージカン】が進行の言葉を伝えると、プレイヤーたち数名が中央へと集まっていっている。
どのプレイヤーも戦いなれたような顔立ちをしており、落ち着いているように見える。
(あっ、【アルタルソース】さんもいるね!
それに王国防衛戦線でちょっとだけ見たことがあるプレイヤーも何人か生き残ってる!
やっぱりあの人たち強かったんだ……
まさか【アルタルソース】さんと戦うことになるなんて思ってなかったけど、やるからには優勝を狙うよ!
まだ私の方がレベルが高いから勝てるなら今が最後のチャンスかもしれないもんね!)
足早に移動するプレイヤーたちを他人事のようにぼーっと眺めていた【ドロップ】であったが、少ししてから我に返って心のなかで慌て始めた。
(あわわわ……私も行かないとだよね!?
ま、待ってよ~!)
【ドロップ】は慌てつつもポーカーフェイスでそれを外に出さず、あくまでも冷静に見えるようにして駆け足で集合地点へと向かっていった。
「おお……なんか笑顔で中央に向かってきてるぞ!?」
「こわっ、戦いが始まってないのにおっぱじめる気かよ」
「あれが戦闘狂、プレイヤーキラーってやつか!」
その光景を観客席から見ていた人たちが口々に【ドロップ】に心ない言葉をぶつけているが、これは【ドロップ】本人の行動や仕草というよりこの【魔術師】アバターを前に操作していた【アイ】のせいで起きている風評被害である。
今のは【ドロップ】が笑顔で駆けているだけで他に何か発言したり、攻撃したりと特別な仕草をしていたわけでもないことがそれを証明していた。




