35話 いきなり動き始めた運命の歯車!?
お待たせ致しました!
「念願のアバターを取り返したし、これからは安心してプレイできるね!
本当は取り戻したアバターでプレイしたいんだけど指名手配されてるみたいだから、この【お姫様】じゃないとまだまともにプレイ出来ないのが悲しいよ……」
喜んだり悲しんだり一人で忙しそうな様子を見せる【ドロップ】であるが、このゲームを始めた瞬間に奪われてしまったアバターの扱いに悩んでいるようだ。
一度【魔術師】のアバターでログインしたところ、ログインした瞬間に他のプレイヤーに付け狙われてキルされてしまったので、再びそちらでログインするのを躊躇っているらしい。
それもそのはず、【ドロップ】のアバターを奪っていた謎のプレイヤー【アイ】はプレイヤーキラーとして悪名を広めていたため、同じ姿となった【ドロップ】は中身が別物であろうとも多数のプレイヤーから恨みを一身に受け止めざるを得ないのである!
……この状況を知れば流石に誰もが同情するであろう。
「う~ん、考えても仕方ないし悪役令嬢【お姫様】として何とか裏から手を回すしかないよね!
指名手配とかされてるのかな……?」
【ドロップ】はあれだけ執拗にプレイヤーたちから狙われていたのは、指名手配されていたからだと当たりをつけていったようである。
そう決めつけた【ドロップ】はそこからの行動が早かった。
「【カノン】~【カノン】はどこにおりまして~?
あなたの主【ドロップ】が呼んでおりますわよ~!」
恥も外聞も知らないと言わんばかりに王城の自室の扉を開けて廊下へ顔をひょっこりと出すと、大声で【ドロップ】の専属メイドである【カノン】を呼びつけようとしたのである。
当然【わがままお姫様】のロールプレイは忘れずお嬢様口調に切り替えている。
そして【わがままお姫様】の要望にすぐさま応えられるよう近くに控えて雑務をこなしていた【カノン】が神風のように……それでも廊下に足音を響かせない見事な疾走で【ドロップ】の下へと駆けつけてきた。
「姫様、お呼びでございましょうか?
何かにつけて私を呼びつけるのは止めて欲しいのですが今回はどのようなことを申しつけられるのでしょうか」
「あら話が早くて助かりましてよ?
ワタクシ、指名手配犯の名簿が見たいのですわ!
一刻も早くワタクシの手元に用意してくださいまし?」
(こんなこと急に頼んだら流石に怪しまれるかな……?
でも【お姫様】だとこのお城から自由に抜けだせられないから図書館で調べものするしかないんだよね……
【カノン】さんが動いてくれると助かるんだけど)
そんな【ドロップ】の不安は当然である。
一国の【お姫様】が突如指名手配犯に興味を持ち始めたら何事かと思うことだろう。
例に漏れずNPCである【カノン】もそのように思考するはずだったが……
……ここで【ドロップ】の運命の歯車が再び動き始めたのだ!
【スキル【姫のわがまま】が発動しました】
「……わかりました。
この【カノン】が姫様のために国中を駆け巡り集めて参りましょう。
では私はこれにて失礼します」
不自然にも思える間が空いたあとにメイドの【カノン】は【ドロップ】のわがままを全面的に受け入れ、一目散に自室に戻ると【ファートス王国】の各所へ連絡を取り始めた。
メイドの自室にしては設備が整いすぎているが、【わがままお姫様】である【ドロップ】のわがままに付き合いきれる人物は代えがきかないため、他のメイドたちとは別格の扱いをされているのだ!
それを妬む者も当然いるが、【ドロップ】に付き合わされている忙しない【カノン】の姿を見て溜飲を下げているため表立って批判するものはいない。
そのように動かされた【カノン】であったが、【ドロップ】の持つ特別なスキル【姫のわがまま】によって無条件に欲しいものを用意せざるを得なくなってしまったのだ。
「あらら、また【姫のわがまま】が発動しちゃったよ……
また使えるようになるまで時間がかかるし流石に勿体なかったかな?
でも、ランダムで発動しちゃうから私じゃコントロール出来ないし仕方ないよね!
うん!」
そう、万能に思えるスキル【姫のわがまま】であるがスキル所持者である【ドロップ】が任意で発動することが出来ず、会話の流れで何かを欲した際に低確率で発動するという曲者なのだ!
効果としては便利であっても、自分が望んだ時に使えないのは非常に不便である。
しかし、今回は結果としてメイドの【カノン】に何故指名手配犯のリストという物騒なものを欲しているのか詮索されずに頼みごとをすることが出来たので不幸中の幸いであろう。
【ドロップ】本人もそれで納得している様子のためこれ以上考えることは止めて、次の行動を起こすようである。
「あとは……何回かあった大臣さんにどうしたらいいのか聞いてみようかな?
確か名前は……【サンマー=ジュージカン】だっけ?
変な名前だけど賢そうな人だったから頼りになるよね!
これまでもアドバイスみたいなものもくれたし今回も色々と教えてもらっちゃお!」
一人でテンションを上げてから廊下へと繰り出し、そのまま王城をキョロキョロしながら闊歩していく【わがままお姫様】の姿が至るところで見られていたのであった。
なお、【サンマー=ジュージカン】大臣はその噂を聞きつけてからしばらくは身を隠しながら時が過ぎるのを待っていたとか……




