33話 いきなり置物!?
「魔術師相手のセオリーは接近戦に持ち込むこと……
つまり、俺の剣撃で攻め続ければいいということだ!
【ドロップ】姫様の支援もある以上、プレイヤーキラーの貴女に負けませんよ!」
(へー、そうなんだ!?
私もいつか魔法使いプレイをするつもりだから【ペンネドラゴ】さんのアドバイスは覚えておかないとね!)
自分が襲われているにも関わらず呑気に今後のことについて想いを馳せている【ドロップ】であったが、これは危機感が足りていないわけではなく少し離れた位置で戦闘を俯瞰しているが故である。
実際、【ペンネドラゴ】による剣の連撃は魔法使いである【アイ】のペースを掴ませていない。
【ペンネドラゴ】は相手が魔法を使うための待機時間を潰していっているため、レベル差を感じさせない互角の戦いを繰り広げているのだ!
「ちっ、思った以上にやるじゃないか……
これでただのスポーツ男子っていうんだからたまったもんじゃない。
これだけ剣を使いこなしているやつ相手に前衛無しの魔術師って不利でしかないんだよなぁ……
とりあえずこれ撃っておくか。
スキル発動!【ブリザードランスーLV23】!
重ねてスキル発動!【ホーリーランスーLV23】」
【スキルチェイン【ブリザードランスーLV23】【ホーリーランスーLV23】】
【追加効果が付与されました】
【効果が増加しました】
それに対応すべく【アイ】が放ったのは氷と光の魔法槍を生み出すスキルであった。
空中に浮かぶそれらは【ペンネドラゴ】が繰り出す剣撃を弾き、そのまま迎撃し始めた。
「ここで武器を生み出してきたとは!?
貴女も中々やるな……っ!
だけど俺には守るべき姫様がいる。
引き下がるわけにはいかない!
【フロートブレードーLV19】!」
浮遊する魔法槍に対抗してか【ペンネドラゴ】は予備で持っていたと思われる剣を浮かし、自身の剣撃に併せて左右から追撃を仕掛け始めた。
「ほう、【フロートブレード】か。
面白いスキルを取得してるんだな、お前!
魔法で生み出したものを動かすよりも操作が難しいっていうのに……
俺も刃物を浮かせた経験があるが、中々の精度だな!
それっ!」
【アイ】は【ペンネドラゴ】のスキル操作を誉めつつも魔法槍を操り自身の安全圏を確保しているようだ。
至近距離では剣と魔法の相性は剣に軍配が上がるため妥当な判断と言えるであろう。
前衛を擬似的に魔法槍に任せて【アイ】はジリジリと後ろに下がっていっている。
相手に気取られず立ち位置を調整する手腕は見事である。
そうして距離を取れば次の展開は【アイ】主導で動くこととなった。
「ここからはこっちが連撃でいかせてもらうぞ!
スキル発動!【アイスボールーLV30】!」
「くっ、近寄れないっ!!」
離した距離を再度詰めさせないように氷の弾丸を【ペンネドラゴ】へ連続で浴びせていく【アイ】。
【アイスボール】は氷系魔法の中でも一番始めに取得できる初期スキルである。
故に威力は他のスキルと比べて低めに設定されているのだが、初心者でも扱いやすいようにクールタイムが短い。
だからこそ【アイ】はこの場面で間髪入れず【アイスボール】を放ち威力ではなく戦いのペースを掴もうとしているのだと戦っている二人は理解していた。
「そらそら、どうした~?
さっきまでの威勢はどこに行ったんだ~?
このままだとお前を喰らってしまうのも時間の問題だな!」
「なんの……まだまだここからが本番ですよ!
【ドロップ】姫様の顔に泥を塗るような真似はしない!」
その一方で後ろから激戦に置いていかれている【ドロップ】は……
(な、なんか凄いことになってるよ!?
いっぱい氷が飛んでるし、それを防ぎ続けてる【ペンネドラゴ】さんも凄いっ!
ほぇ~、人ってあんなに速く剣を動かせるんだね)
トッププレイヤーの動きに圧倒されており思わず感嘆している状態で呆けていた。
動きが速すぎて【ドロップ】では戦闘に介入できるタイミングが限られてしまっているので当然と言えるが、【ドロップ】の命運がかかっているということも考えるとどうも緊張感が足りていないように思われても仕方ないであろう。
だが【ドロップ】はお得意のポーカーフェイスで表面上は緊張感が張り詰めており、鋭い眼光を滾らせている……ように他からは見えているので【アイ】も【ドロップ】の動向から目を離すことが出来ず、【ペンネドラゴ】も安心して戦闘に集中出来ているわけだ。
「(あの【お姫様】のスキル打ち消しを警戒しないといけないのは厄介すぎる……正直誤算だったぞ!)」
「(【ドロップ】姫様が後ろに居てくださるという安心感……ありがたいです!)」
実際、この戦闘で一度だけスキルで介入し【アイ】のスキルを取り消したこともあって、そのタイミングを窺っていると錯覚させているのだ。
……もっとも、【ドロップ】本人にその自覚はない。




