32話 いきなり光のぶつかり合い!
「くっ、【ドロップ】姫様!
無事ですかっ!?」
氷と光の壁を撃ち破り現れたのは鎧を着こんだ爽やかな青年騎士……【ペンネドラゴ】である。
焦燥感に囚われた表情を浮かべ剣を振り下ろして【ドロップ】の側に控えるとチラリと【ドロップ】の身に危害が及んでいないことを確認していく。
安否を確認して終えると周囲に聞こえるほど大きな吐息を漏らしながら安堵し、そこでようやく表情を緩めていった。
「狼狽えるとはワタクシの騎士にあるまじき振る舞いですわ!
騎士たるもの、常に毅然とするものでしてよ!
……しかし、ワタクシの身を案じていたという点で今回は特別に許しますわ」
(いや、本当は凄く嬉しいんだけどね!
【ペンネドラゴ】さんごめんなさい!
こんな風にしか言えないよ~!)
心の中では素直に感謝の念を抱いている【ドロップ】であったが【わがままお姫様】ロールプレイを貫くと決めた以上、今さら【ペンネドラゴ】へコロリと態度を変えるわけにはいかないのである。
故に少し突き放したような物言いになってしまうのは仕方ないことかもしれない。
「おいおい、コテコテのツンデレムーヴかよ!
いい趣味してるじゃんか。
でも、俺は今からそんな可愛い【お姫様】を殺すぞ!
騎士様、俺を止められるか試してみるか?」
「当然だ、【ドロップ】姫様を守るのが俺の生き甲斐になってきたからこそ、ここで失うわけにはいかない!」
「そちらの異郷の冒険者……【アイ】様はこの王国への魔物の進行を企てた侵略者ですわ!
ここで確実に仕留めておくことがファートス王国の崩壊を食い止める鍵になりましてよ!
さあ、ワタクシの騎士【ペンネドラゴ】。
やっておしまいなさい!」
「御意!」
「……(えっ、なんで知ってるんだコイツ……? 俺そのこと漏らしてなかったよな……?)」
自分の行動を読まれて若干動揺する【アイ】であったが、別にこれは【ドロップ】が【アイ】の思惑を見破ったというわけではなくただのでまかせである。
【ペンネドラゴ】と【アイ】を戦わせるための口実であるが、【アイ】は【ドロップ】に口裏を合わせると事前に言っているため否定することが出来ない。
しかも、それが真実であったため【アイ】は【ドロップ】が裏の事情を知っていてハメてきたと思ってしまったというわけだ。
「先手はもらった!
【スラッシューLV26】っ!」
虚を突かれ動きが遅れてしまった【アイ】を横目に【ペンネドラゴ】は【スラッシューLV26】を放っていく。
【スラッシュ】は斬撃系統スキルの中でも基礎となるもので威力も控えめであるが、その分モーションが小さく出が早い。
一瞬の隙を突くためには大技よりも小回りの利くものがいいと咄嗟に判断した【ペンネドラゴ】の判断である。
「うおっ!? 危ないなっ!?
これ、髪の毛少し切れたんじゃないか……?
間一髪逃げられたが下手すら直撃してたかもしれないと思うと末恐ろしいぞ……
それにしてもそのレベルで基本技をあえて使ってくるセンス、嫌いじゃないな!
お前、リアルで戦闘技術とか嗜んでる口だろ?」
「あいにく俺はただのスポーツ男子学生だ。
そして、今はリアルのことなんて関係ないでしょう。
今の俺は【ドロップ】姫様を守る忠実な騎士、それだけで充分っ!
【セイクリッドスラッシューLV14】っ!」
続けて【ペンネドラゴ】が放ったのはジョブ【騎士】に就いたものが取得できる聖属性の斬撃を放つスキルである。
眩い銀光を放ちながら繰り出される横凪ぎの斬撃は【アイ】の胸元を完全に捉えた。
「ま、筋はいいが経験が足りてないよな。
スキル発動!【アイスフレアーLV28】!
重ねてスキル発動!【ライトフレアーLV28】!」
【スキルチェイン【アイスフレアーLV28】【ライトフレアーLV28】】
【追加効果が付与されました】
【効果が増加しました】
それに対応すべく【アイ】が放ったのは氷と光の放射魔法である。
杖から放たれた力の奔流が【アイ】の胸元を抉ろうとしていた【ペンネドラゴ】の剣を弾き、そのまま【ペンネドラゴ】本人へと向かっていく。
(わわっ、危ないよっ!)
「ワタクシを忘れておりませんでして?
そんな無礼者はワタクシにひれ伏しなさい!
【拡声ーLV10】!【威圧ーLV10】!」
【スキルチェイン【拡声ーLV10】【威圧ーLV10】】
【追加効果が付与されました】
【効果が増加しました】
「うっ、ぐっ、魔法が中断させられただとっ!?
それにスキルチェインかよ!
この世界のプレイヤーで俺だけの特権だと思っていたが、何故お前がそれを使えるんだ……?」
「それはワタクシがワタクシだからですわ!
【わがままお姫様】と呼ばれているのは伊達ではありませんのでしてよ!」
「流石は【ドロップ】姫様っ!
見事な支援です、命を救われましたっ!
やはり貴女は俺が仕えるに相応しいヒトです」
「オーホッホッホッ!
当然でしてよ!」
攻撃は【ドロップ】によって中断されたが戦況は振り出しに戻っただけであり、ここからが本当のスタートであると言えるだろう……




