30話 いきなり黒幕登場!?
「ワタクシの騎士がこの場にいるのであれば安心ですわ!
高貴なワタクシを守るためこのまま平穏を乱す不届き者たちを懲らしめつつ、モンスターからの襲撃を防いでくださいまし!」
「御意!」
「うわ……【ペンネドラゴ】君気合い入ってるね~
お姫様の前でいい格好したいって感じかな~?」
「【アルタルソース】には黙っていてほしいんだが……」
【ドロップ】が叱咤したことにより【ペンネドラゴ】はより気合いを入れたが、それを見た【アルタルソース】は若干引き気味の様子である。
これは、好みの女性にカッコいいところを見せたいという男性の心情と、その露骨な様子を見た女性の心情が表れた形となったのだ。
「……っと、モンスターが一気に攻めてきたみたいだね~!
私はもう少し前で迎撃してくるよ~
【ペンネドラゴ】君はそこのお姫様をお願いね~」
「流石にプレイヤーキラーもNPCは狙ってこないと思うが、一応警戒しておこう。
健闘を祈る!」
そうして【アルタルソース】と【ペンネドラゴ】は立ち位置を変えるようにしてそれぞれの役割を交代したのだ。
先ほどまで最前線で戦っていた【ペンネドラゴ】と、後方で戦っていた【アルタルソース】では消耗度合いが違うため、最大戦力である【ペンネドラゴ】を一度休ませるという意味合いもある。
(くぅ~、こういうお互いを信頼している戦友ってカッコいいね!
まさに私の憧れの姿だよ!
私も元々作っていたカッコいいアバターで普通に冒険してたらあんな感じになれてたのかな……)
そんな二人の考えは全く読み取らず、【ドロップ】は二人のカッコよさに痺れていた。
【ドロップ】が元々作っていたアバターデータはそんな【ドロップ】の願望を込めて作ったものであるが、それは今の可愛らしい姿に変えられてしまい【お姫様】という立場のため他のプレイヤーたちのように自由気ままに冒険できないのである。
……と、そこに刹那的な殺意が刺さり始めた。
「……っ!?
奇襲か!?」
それをいち早く察知した【ペンネドラゴ】が聖鞘ファートスを手に取り【ドロップ】の前で思いっきりその鞘を振り抜いた。
(えっええっ!?
何々なに!?)
得意のポーカーフェイスで表情にこそ出していないが内心何が起きたのか分からず動揺する【ドロップ】だが、その横を冷たいものが通り抜けていった。
(これは……氷?
【ペンネドラゴ】さんが弾いたのはこれだったんだ!
でも、どうして氷が……?)
状況を噛み砕いていく最中の【ドロップ】であったが、それを待ってくれないのがこの戦場である。
【ペンネドラゴ】によって防がれた氷攻撃は明らかに【ドロップ】を狙ったものであったからである。
「不届き者め、【ドロップ】姫様を狙うとはなんと卑怯な!
姿を現せ!」
「……ちっ、これで仕留め損なったなら隠れてる意味もないか。
全く、立派な騎士様に守られて良かったじゃないか【ドロップ】姫様。
とりあえず邪魔な騎士様は一旦隔離させてもらおう。
スキル発動!【アイスプリズンーLV30】!
さらに繋げてスキル発動!【ライトプリズンーLV30】!
スキルチェインだっ!」
【スキルチェイン【アイスプリズンーLV30】【ライトプリズンーLV30】】
【追加効果が付与されました】
【効果が増加しました】
「くっ、分断されるっ!?」
謎のプレイヤーキラーによって作り上げられた壁によって【ペンネドラゴ】が隔離され、攻撃も音も完全に遮断された状態になってしまった。
……つまりここにいるのは【ドロップ】と謎のプレイヤーキラーの二人だけとなっているのだ!
「えっ、嘘……!?
そんなことってあり得るの!?!?
もうとっくの前に無くなったはずじゃ……
だって、あれは……あの人は……」
【ペンネドラゴ】の呼び掛けに応じて姿を現したのは粗暴な口調のプレイヤーだった。
ご丁寧にその【ペンネドラゴ】を隔離した上で姿を現すという用意周到っぷりであるが、荒々しさが言動から滲み出てきている。
だが、その粗暴な口調に対して姿は容姿端麗であった。
青髪で長髪、高身長のスラッとした戦いやすい体型の姿である。
手には杖を持ち、先ほど氷を飛ばしてきたことから【氷魔法】のスキルを持った【魔術師】のジョブに就いているプレイヤーである。
ところでこの姿に聞き覚えはないだろうか?
「私じゃん!
私が……私が全身全霊で作り上げたアバター!!
どうして貴方がその姿をしているの!?」
そう、【ドロップ】が一時間かけて作り上げたはずのアバターをしたプレイヤーが目の前に立っているのだ!
これには【ドロップ】もポーカーフェイスを維持することが出来ず、さらには【お姫様】ロールプレイで取り繕うことすら出来なくなっていた。
「それに、男の貴方が私が作った女アバターを使うっていうのも余計納得いかないよ!」
そして、【ドロップ】が作り上げたアバターということは女性の姿であるということでもある。
まるで男性のような口調をした荒々しい様子もまた【ドロップ】を混乱させる要因の一つとなっている。
だが、そんな【ドロップ】の糾弾に対して、謎のプレイヤーキラーは動じることもなく淡々と言葉を返していく。
「俺が男……?
あー、口調のせいかよく言われるが俺はれっきとした女だぞ!
俺のような可憐な乙女を男と間違えるなんてお前の目は節穴か?
アバターもお前が丹精込めて作った、こんなに綺麗な見た目だっていうのによ!」
ちなみにだが、【ドロップ】の憧れの姿はカッコよさが優先されているため作り上げたアバターもカッコいい姿を体現しており、女性アバターであるが少し中性寄りでもあったため誤解を加速させる要因になっていたのである。
「そうなんだ、ごめんなさい……
普通に男だと思ったよ!」
「それは俺に喧嘩売ってるってことか?
こんなことばかり言ってるから、いまいち締らない雰囲気になったのが解せないぞ!
いかにも黒幕っぽい感じで出てきたつもりだったんたけどな……はぁ……」
それが【ドロップ】クオリティである。




