28話 いきなり南の魔術師幼なじみたち!
ーーーーーー南の戦場ーーーーー
【ドロップ】たちが次に赴いたのは南の戦場、鳥類モンスターが空から押し寄せる非常に防衛の難しい戦線である。
他の戦場でならば活躍できるはずの近距離攻撃武器を扱うプレイヤーの攻撃が全く届かないため、早々にこの戦場に見切りをつけて去ってしまっている。
だからこそ、ここに残されたプレイヤーは弓などの遠距離攻撃が可能な武器を扱うプレイヤーか、魔法を扱うことができる【魔術師】たちがこの戦場を支えているのだ。
「前衛がいないというのはこれほど苦しいものなのだな。
【並列詠唱ーLV18】【ファイアボールーLV12】【サンダーウォールーLV7】」
そんな南の戦場の中心人物の一人【ジュモン】は次第に増えるダメージに焦りを隠せないようだ。
レアスキルである【並列詠唱】によって攻撃魔法と防御魔法を同時に繰り出しながら鳥モンスターを撃墜させていっているのだが、マジックポイントの回復を待ちつつの攻撃のため戦場の維持までしか行えていないのだ。
そんな【ジュモン】と背合わせでモンスターの撃退を行っているのは全身がローブによって隠れている怪しげな人物【∽漆黒堕天使∽】である。
「どうした我が好敵手よ、その程度の頑張りで報酬を狙っているというのか?
笑止、我がさらにその上を行きその報酬を掠め取ってやろう!
我の闇と光の魔法で∽地に伏すがいい∽!
【並列詠唱ーLV15】【ダークボールーLV15】【ライトボールーLV15】」
【∽漆黒堕天使∽】は左右の手から光と闇の魔力弾を撃ち出し、次々とモンスターを撃ち落としていっている。
「……きゃっ!?
痛~い!?」
不審な見た目とは裏腹に、ダメージを受けて甲高い声で驚く【∽漆黒堕天使∽】。
だが、しかし【∽漆黒堕天使∽】は気づいていないが、被ダメージを最低限に抑えられているのは【ジュモン】の頑張りによるものだ。
【∽漆黒堕天使∽】が攻撃に割いているマジックポイントの半分ほどを、【ジュモン】は攻撃に使わず毎回防御魔法の起動に回しているからである。
だからこそ、【ジュモン】は焦っているのだ。
(幼なじみのこいつはいつも猪突猛進だから守ってあげないとすぐ落ちるのが難点だ。
攻撃力が高いのは結構なことだが、今後継続戦闘が出来るようにしてもらわねば)
【∽漆黒堕天使∽】と【ジュモン】は幼なじみであり、同じ戦場を選んだのもその縁があったからだ。
ランキングのことを考えれば【∽漆黒堕天使∽】を放置しておくのが得策だが、王国を守るという点や幼なじみを見捨てるしのびなさもありサポートに努めているわけである。
「せめて、この戦況を一瞬でも変えられる何かがあればいいのだが……
そんな都合のいいことなど易々と起きたりしないだろう」
「ククク、それはどうかな?
宴の始まりのようだぞ」
【∽漆黒堕天使∽】が指差した方を見ると、そこには豪華絢爛な馬車から降りてきた桃色の髪の少女……ファートス王国の【お姫様】である【ドロップ】の姿があったのだ。
「……【ドロップ】だと?
この戦場でわがままお姫様がいったい何をするのか」
「いずれ分かる、いずれな……っ!」
(これ、分からずそれっぽいことを言っているだけだな。
いつもの中二病の発作だろうが、そろそろ卒業して欲しいところだ)
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そうしてプレイヤーたちの士気が少しだけ上がり始めたところで、【ドロップ】が口を開きスキル【拡声】によって拡張された声量で話し始めた。
「オーホッホッホッ!
ワタクシが参りましたわ!
異郷の冒険者たちは身を粉にして戦っているかしら!」
(東と同じ口上だけどいいよね?
この方がNPCっぽいっし!
別に手抜きとかそういうわけじゃないんだよ!)
【ドロップ】は心のなかで自分に言い訳をしながらもお得意のポーカーフェイスを維持してプレイヤーたちへと続けて語りかけていく。
「今からワタクシの力でこの南の戦場にいる異郷の冒険者たちに力を与えましょう。
傾聴しなさい、【わがままの加護】!」
【ドロップ】がそう宣言すると、この南の戦場にいるプレイヤーたちの身体がピンク色のオーラに包み込まれ始めた。
「うおおおお!!」
「なんだか魔力が満ちてくるぞ!!!」
「これなら勝てる!勝てる!!」
プレイヤーたちは満ち溢れる力に歓喜しながら次々に魔法を放ちはじめ、鳥モンスターたちを追い返しはじめた。
破竹の勢いである。
「これがわがままお姫様の力というわけか。
掲示板の皆が熱中するのも少しだけ分かったような気がする」
「ククク、我の闇の右腕と光の左腕が疼く……
今なら世界すら滅ぼせると言っても過言ではない!」
「いや、過言だろう……
はぁ……気が重い」
(うんうん、皆頑張ってるね!
本当は私もここにいる人たちみたいに魔法を使いたいんだけど、それはお預け……
いつか絶対使えるようにするんだから!)
【ドロップ】は今後の抱負を強く改めながら次の戦場へと足を運ぶため、移動を再開するのだった。




