23話 いきなり越権行為!
「視察についての報告は以上か?」
【カラメッラ三世】は厳格な表情を保ちつつも、まだその先の話があるという含みを持たせた先の促し形で【ドロップ】の話を進めさせようとした。
土産品はあくまでも前座であるということは【カラメッラ三世】も【ドロップ】の承知の上だからである。
(やっぱり本題はこっちだよね!
流石に私でもこの王様が何の話を聞きたいかくらいはわかってるよ!)
【ドロップ】は得意気になりそうな表情を自慢のポーカーフェイスを保ちながら、口を開いていく。
「いえ、ワタクシからまだ報告がありましてよ!
父上には【ツヴァイ伯爵】主催の国家間交流パーティーについてお話しようと思っておりましたわ!
父上譲りのワタクシの社交性を存分に発揮して来ましてよ!」
王様がNPCのため父親譲りというわけではないのだが、その言葉通り【ドロップ】は積極的に他国の【お姫様】に話しかけていたというのは事実である。
「父上もご存じのように、【アルフ聖教国】【イチナミ帝国】【イーリン共和国】の3国との国交が活性化しましたわ!
ワタクシがこの3国の【お姫様】に働きかけて国家間の移動制限を緩くしてもらいましてよ!
【ファートス王国】の制限は港町セカドンの港をどのように使うのかがネックでしたが、その領主である【ツヴァイ伯爵】が乗り気でしたのですぐに解決しましたわ」
事実、【ドロップ】が港町セカドンに到着しなくとも【ツヴァイ伯爵】はパーティーを開催することを既に決めていたため、その後の流れはパーティーが始まる前に手配が終わっていたのである。
しかし、【ツヴァイ伯爵】だけの手腕やネームバリューではここまでスムーズに行かず、断る国や対応を後回しにする国が現れる可能性は非常に高かった。
【イチナミ帝国】は鎖国に近い状態であったため、特に交渉が失敗する確率が高かったと言えるであろう。
しかし、国のトップに近い【お姫様】である【ドロップ】が何の前触れもなく港町セカドンに来訪したため、この計画は一気に解決へと向かうこととなったのだ!
もしスキル【プリンセスドミネイト】が発動していなければ、プレイヤーたちの行動範囲は増えたとしても1ヶ国だけであったのは想像が容易である。
そんなことを知らない【ドロップ】は全面的に自分の成果であると自信満々に【カラメッラ三世】へと報告している。
結果として、良くも悪くも【ドロップ】の威勢の良さを助長する要因となったのだ!
「ふむ……人材の一時的流出が起きているのはデメリットだが、それ以上に財政が活発化しているのは喜ばしい。
【王様】同士での決め事ではここまで速やかな動きは無かったであろう。
新たに決めるというよりは、あくまでも口約束での国家間交流の活発化を図ったのは我が娘ながら見事な手腕と誉めておこう!
よくやった!」
(やったね!
これは素直に喜んでいいやつだよね!
冷や冷やしたけど、思ったよりも優しい反応ばっかりだからちょっと考える余裕が出てきたよ!)
だが、その思考をした次の瞬間には王様が厳しい言葉を吐き出した。
「だが、【お姫様】としての裁量を越えているかどうかと言われると明確に越えていないと断言できないのも事実だ」
(あっ、あれ~?
もしかしてあそこまでの大立ち回りはダメだったパターンなの!?
そんなっ!?)
内心余裕をもってほくそ笑んでいた【ドロップ】は急遽心のなかでテンパっていた。
【ツヴァイ伯爵】から頼まれていた動きだったため【ドロップ】としては問題ないと思い込んでいたが、それはあくまでも【ツヴァイ伯爵】の思惑通りなだけであって、口約束とはいえ【王様】である【カラメッラ三世】の許可を取らずに他国との決め事をしてしまったのは越権行為と咎められてもおかしくはない。
ちなみにだが、【カベルネ】は【アルフ聖教国】、【ミスト】は【イチナミ帝国】、【永桃】は【イーリン共和国】……それぞれの【王様】から許可を得て海を越えてきたため、【王様】から許可を得ていなかったのは【ドロップ】だけなのである!
……他国の【お姫様】たちは【ドロップ】が許可を得ずに大見得を切っているとは知らないため、正式に国家間交流が活発化しているというアウト寄りのグレーな動きであった。
(ううっ、せっかく上手く行ったのにまさか【王様】から直接許可をとらないとダメだったなんてね……
【アルタルソース】さんや【ペンネドラゴン】さんたちみたいに格好良くキメるのは中々上手くいかないよぉ……)
内心でどんどん気持ちが落ち込んでいっている【ドロップ】であったが、その反面【カラメッラ三世】は優しい表情を浮かべていた。
「……今回に限っては上手くやってくれたので不問としておこう。
可愛い我が娘のことである故にな!」
この【カラメッラ三世】、実に子煩悩である!
NPCとして想定されていた【ドロップ】がわがままお姫様と呼ばれていたという事実がそれを証明しており、威厳を保ったまま話している反面で娘に対してはかなり甘い。
今回に限っては……と言っているが、【ドロップ】が自由気ままに行動できているのはこの男の甘さが由縁であるとも言えるのだ。
(な、なんだか知らないけどやったね!
プラスマイナス計算してでプラスってことだからオッケーだったってこと……かな?
これ以上墓穴を掘る前にそろそろ退散しておこうっ!
マイナスが増えたら怒られちゃうからね!)
「寛大な処置をありがとうございますわ!
ワタクシからの報告はこれで以上でしてよ!」
「……そうか。
では、また何かあれば謁見してくるのだぞ」
「心得ておりますわ!」
娘が退室していくのを名残惜しい表情で見送る【カラメッラ三世】。
その表情は【王様】としての威厳はなく、まるで捨てられた子犬のような寂しそうな表情であったと誰もが言うであろう。




