21話 いきなりメイド!
「姫様、失礼いたします」
「どうぞお入りなさい」
【ドロップ】が自室でステータスを確認したりして寛いでいると、メイドの【カノン】が訪れてきた。
この【カノン】は【ドロップ】がこの【ブレイクドリームオンライン】を始めて一番はじめに出会ったNPCである。
「姫様、私が冒険者ギルドで手回しをしている間に大立ち回りをされたとお聞きしたのですが……
まさか姫様自ら港町セカドンへ向かわれるとは想定外でした。
大臣のサンマー様も顔面蒼白で、城内が慌ただしくなっていましたよ」
メイドの【カノン】は【ドロップ】が城を抜けて突拍子もない行動に出たことを諌め始めた。
【ドロップ】のお世話係という立場ではあるが、それ以上にお目付け役という意識があるのであろう。
それもそのはず、国内外問わず【わがままお姫様】として名が知れているほどのわがままを無理にも通す……という設定の【ドロップ】のお世話係はその行動を抑えるためのストッパーとしての役割も期待される。
その中で抜擢されたメイドの【カノン】はたとえ相手が王族であろうとも意見を忌憚なく伝える義務があるのだ。
「あら、ワタクシの行動が間違いだったと仰られるのでして?
メイドの立場でありながら随分な言い様ですわね!
今回の港町セカドンへの視察は大成功でしたわよ!
その顔についている目や耳は何を見て聞いていらしたのかしら?」
(わ、私だってこうなるって思ってなかったんだよ!
誰だって、流れに流れていつの間にか他の町に行くことになっちゃうなんてこと予想できないよね!
たしかに【カノン】さんと顔面蒼白になった大臣の【サンマー】さんには悪いと思うけど……)
しかし、この【ドロップ】反省していないのである。
迷惑をかけてしまったであろう人物たちへの申し訳なさは心にあるものの、自分が行動の起因になっていることについては悪びれていない。
それどころか自分の成果を全面的に押し出して正当性を主張し始めたのだ!
悪役令嬢ロールプレイのためかなりキツイ物言いになっているが、今回は珍しく【ドロップ】の心情が反映された言い訳弁解口答えとなっている。
「相変わらず姫様はわがままですね……
ですが、今回の成果については私も聞き及んでおります。
国交を活発化させたということで港町セカドン領主の【ツヴァイ】伯爵様が感激の想いを姫様に送ってきておりましたので」
【カノン】は胸元から手紙を取り出し【ドロップ】へと手渡した。
シンプルな便箋であるが、それでもって上品さを感じさせるものだ。
港町を思わせる潮の香りがついているのは、自分の領地に誇りを持つ【ツヴァイ】伯爵の拘りであろう。
「……大袈裟な書面ですこと。
結局は【ツヴァイ】伯爵の思惑通りですのに」
「そう仰らないでください姫様。
その成功は姫様の働きがあってこそです!
国交の活性化は港町セカドンの発展……そしてファートス王国の発展に繋がるものですから誇られるべきですよ」
「……というわけでワタクシの行動は不問ですわね!」
「はっ!?」
会話を進めていくなかで【カノン】は【ドロップ】に乗せられてしまい【ドロップ】を褒めちぎってしまっていた。
その流れで【カノン】は【ドロップ】についてさらに追及することは出来なくなってしまったのだ。
それに気がついた【カノン】は思わず苦笑いをしてしまっていたが、そこで話を止めるわけにもいかず更なる用件を伝えようとしていた。
「……そういうことにさせていただきます。
それでは今日の予定ですが……今回の件について姫様はファートス王への報告の義務がありますので、こちらを直接報告していただくことになります」
(お、王様への報告~!?
そんなの聞いてないよ!?
【ツヴァイ】伯爵さんとの会話でも凄く疲れたのに、それ以上の身分……それも王様相手なんて心と身体が持つか心配だよ~
えぇっ、本当にどうしたらいいの!?!?!?)
案の定、突発的な出来事への対応は何の心構えも出来ていなかった【ドロップ】では混乱に陥ってしまうのは仕方ないことであろう。
だが、【ドロップ】の特徴であるポーカーフェイスはそんな心の乱れを一切外へ出さず、あたかも王様への報告……それが当然のことであるというように泰然自若な様子で【カノン】の次の言葉を待っているように見せかけていた。
ちなみにだが、【ドロップ】本人にそんなつもりはなく、偶然そうなってしまっただけである。
「王様への報告は午後からとなっております。
それまでに内容のまとめや成果物の準備などをしていただく形となっております」
(うーん、何をどうしたらいいんだろう……
とりあえず【イチナミ帝国】の【お姫様】の【ミスト】ちゃんからもらったスキルと宝石は見せるとして……
あとはこれとかこれかな?)
【ドロップ】は報告材料になりそうなものを必死に探しながら時間を過ごしていくのであった……




