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16話 いきなり聖女様!

 「皆さま方、この度は各国の姫様方に特別に集まっていただきパーティーを開催させていただきました。

 折角の機会ですのでごゆっくり親睦を深めていただきたく思います。

 ちなみにですが、パーティーの食事に使われております魚はこの港町セカドンの名産品となっております故、お気に召しましたら国に戻られた後にもご贔屓にしていただければと思います。

 では……乾杯っ!」


 「「「「乾杯!」」」」


 パーティーの開始を告げる音頭を取ったのはこの港町セカドンの領主である【ツヴァイ】伯爵であった。

 その挨拶の中に自身の領地の宣伝を混ぜていく辺り、抜け目のない野心家ということが伝わってくるであろう。



 それもそのはず、今回の目的の一つは港町セカドンのPRに各国の注目の的になっている【お姫様】たち自らに行ってもらおうという魂胆であるからだ。

 可憐な乙女たちが気に入った名産品であれば、その国の国民たちも自ずと興味を持つであろうという算段である。



 「ふんっ、どんな料理をワタクシに献上するのでして?

 半端なものでは満足しませんわよ?」


 (……うわわわわ!?

 凄い豪華な見た目の料理が次々に運ばれてきてるよ!?

 これ、本当に食べていいのかなっ!?

 気後れしちゃうよ……

 ……はっ、いけないいけない……

 今回は格好よく他の国の【お姫様】相手に立ち回るって決めたんだから!

 豪華な雰囲気に負けないように頑張るぞ~!)


 

 【ドロップ】はまるで宝石のように輝く料理たちに心のなかでは驚きつつもそのポーカーフェイスは崩してはいない。

 そして、手に持っている更に少しずつ載せられていく料理をつまみながら、今回集まった【お姫様】たちに目を配らせることにしたようだ。


 






 「これも没、これも没、これも没!!」


 まず【ドロップ】が気になったのはパーティーの最中なのにも関わらず、自ら持ち込んだであろう書類の数々を確認している赤髪のポニーテールの【お姫様】だった。

 年齢は17才ほどであり、華奢な見た目であるがキビキビと動く様子から身体は鍛え上げられていると端から見れば判断できるであろう。

 服装はチャイナ服を元にしたような見た目をしており、スリットからたまに覗く健康的な生足を付き添いの騎士がチラ見をしているほど魅力的である。



 「その資料は後で財務大臣へ打診を!!

 この資料の施設は一度建造を中止して地盤の整備を!!

 はい、まだまだ仕事は残ってますよ!!

 はやく次の資料をください!!」



 (えーっと……伯爵さんから貰った資料によると……

 あっ、あったあった!

 あの仕事が凄く出来そうな【お姫様】は【イーリン共和国】の【永桃】さんだね!

 まさか本当にパーティー中に書類仕事をする【お姫様】がいるなんて思わなかったけど……

 とりあえず忙しそうだから、後で声をかけようかな?)


 【ドロップ】はその姿に圧倒されながらも、事前に情報を得ていたため驚きは少なかったようだ。

 【ドロップ】でも突然のことでなければ対応できることもある。


 




 


 「あらあら……うふふ!

 相変わらず可愛いわね【ミスト】ちゃんは」


 「ふ、ふぇぇ!?

 そ、そんなことないですよ【カベルネ】様ぁ~」



 【ドロップ】が次に目をつけたのは少し豪華で綺麗な修道服のようなものを着た【お姫様】……【カベルネ】だ。

 母性溢れる表情を常に浮かべているが、それでもまだ18才。

 女性にしては少し高めの身長と、【ドロップ】のものよりも豊満な包容力を感じさせる胸がより母性を感じさせるのであろう。




 そして、その隣で頭を撫でられているのは【ミスト】という一見すると気弱そうな【お姫様】だ。

 頭に赤色のリボンをつけており、可愛らしい見た目をしているが気弱で小動物を思わせるような挙動をしている。



 (あの母性溢れる【お姫様】は……【カベルネ】さん!

 【アルフ聖教国】で【お姫様】としてだけじゃなくて、【聖女】としても崇められている2重に凄い人だね!

 私があの【お姫様】の立場だったら一瞬でボロを出していた気がするよ……

 ある意味ラッキーだったね!

 聖女なんて私には無理無理だよ~)



 実際に【カベルネ】姫を見た【ドロップ】はその立ち振舞いや、立場のことを考えて心のなかで安堵していた。

 【聖女】という清廉潔白な行動を求められる【お姫様】を務めることになった時のことを考えていたのである。


 

 (それで、隣にいる小動物みたいな可愛い娘は……【イチナミ帝国】の【お姫様】……【ミスト】さんだね。

 帝国って強そうな響きだけど、あの【ミスト】ちゃんはおどおどしていて可愛いな~!

 私から声をかけに行きやすそうだし、この娘から話しかけに行こう!)




 そう思ったが吉日、【ドロップ】はゆったりとした動きで【カベルネ】と【ミスト】が二人で話しているところに割り込んでいった。


 「ワタクシの国【ファートス王国】へようこそ。

 精々、存分に楽しんで行くといいですわ!

 この国は最高ですもの、他の国には負けませんわ」


 (こ、こんな感じで挨拶はどうかな?)


 【ドロップ】は内心恐る恐る引っ張り出した挨拶を他の【お姫様】たちに披露した。

 【ドロップ】としては会心の出来であったが……



 「ひっ、ひ~!?

 す、すみませんすみません~!」


 小動物のようにおどおどしていた【ミスト】は、【ドロップ】の上からの物言いに怖がって半泣き状態になってしまっているようだ。

 

 (あれれっ!?

 泣いちゃったよ……

 こういう時って、どうしたらいいの!?

 予想外だったよ……とほほ)


 そんな悪役令嬢ムーヴをかましてしまった【ドロップ】の目の前で半泣きになっている【ミスト】の壁になるように、聖女でもある【カベルネ】が前に立ち塞がった。



 「あらら……よしよし~!

 【ミスト】ちゃん、泣き止んで落ち着いてください~

 ……あなた様は【ドロップ】様?

 これは丁寧なご挨拶ありがとうございます~

 私は【アルフ聖教国】の【お姫様】であり、【聖女】の【カベルネ】ですよ~

 こっちの【ミスト】ちゃん共々よろしくね~」



 半泣きになっている【ミスト】を宥める【カベルネ】は【ドロップ】に対して警戒心を一瞬見せたが、すぐに切り替えて返しの挨拶で形式上の挨拶を終えたようだ。

 


 「それで【わがままお姫様】が私たちにどんな用事ですか~?」


 「あら、ワタクシの異名のことを知っているとは感心ですわね?

 それでしたら気兼ねなく話が出来そうですわ。

 【アルフ聖教国】も【イチナミ帝国】もワタクシの国とはまだまだ疎遠ですので、()()()お話をと思いまして声をかけさせていただきましたわ!

 ワタクシから声がかかるなんて光栄に思ってもよろしくてよ?」


 「そ、そんな言い方……

 あ、あわわわわ……」


 「随分な上から目線の物言いですね~?

 これが【わがままお姫様】と呼ばれる由縁ですかね~」


 (うっ、散々な言われ方だよ……

 でも急に設定とは別の態度だったらもっと警戒されてただろうし、仕方ないけど……

 悲しいよ、本当はもっと仲良くしたいのに~!)


 

 【ドロップ】の根幹は善良でしかないので、色々な人物と仲良くしたいという想いがあるのだが、【ファートス王国】の【お姫様】である【わがままお姫様】というロールプレイから逸脱すると起きる周囲からの疑惑の目を発生させないために泣く泣くこのような物言いとなってしまうである。


 

 「でも~、知りたいという要望を無下にするわけにはいきませんよね~!

 私の国……【アルフ聖教国】は主神【アルファ】様を信奉する信徒が集まって成立した国ですよ~

 他国ではあまり見られない信仰系統のスキルを獲得しやすい風土にあるとも言われています~

 例えばこのように~

 【慈悲の光LVー45】~!」


 

 【カベルネ】は信仰スキルの実演をするために、両手を身体の前で組んで祈りを捧げると【ドロップ】を癒すように光が降り注ぎ体力が回復したログが画面の端に現れた。

 【ファートス王国】では他人にバフをかけたり、回復させるスキルの獲得がシステム的に制限されているため、【ファートス王国】で今活動しているプレイヤーたちがこの様子を見ていたら前のめりで【カベルネ】を質問責めしていたであろう。


 だが、そんな事情を知らない【ドロップ】はというと……



 「ほどほどに気持ちいいですわ!

 あなた様、中々見どころがありましてよ!

 ワタクシの国に来てくださいましたら重宝しますのに」


 「それは私が他国の姫でなかったら……可能だったかもしれませんね~

 そんな私を欲しがるのも【わがままお姫様】だからなんでしょうか~?」





 別方向に警戒されつつある【ドロップ】であったが、本人は全く気がついていない。

 ポーカーフェイスは得意だが、他人の心情を読み取る力が長けているわけではないのが完全に災いしているのだ。

 

ふーみんさんにドロップちゃんを描いていただけました!

ありがとうございます!


挿絵(By みてみん)

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