12話 いきなり観光!
(えっと……港町セカドンに着いたけどクエストクリアのアナウンスは出ないね……)
「あれ~?
まだクエストクリアじゃないのね~」
【アルタルソース】と【ドロップ】は同様の疑問を持っていた。
ボスモンスターのような相手を倒して目的地にたどり着いたのにも関わらず、それでクエストがクリアされないのでは達成感も出てこないので困惑してしまうのであろう。
現に他の護衛プレイヤーたちも頭を捻ったり、仲間内で議論を始めたりしていることからもその考えが一般的な悩みであるということは否定のしようがないものであると証明している。
そうではあるが、その一方で金髪の鎧を着た青年【ペンネドラゴ】は、困惑している【アルタルソース】に向かってしたり顔をしながら口を開き声を発した。
「当然だろう。
【ドロップ】姫様の出したクエストは【わがまま姫様の港町視察】という名前だった。
つまり、到着だけではなくてここから【ドロップ】姫様が直々に港町を見て回る必要があるんだろう」
その考えを聞いた【アルタルソース】ははっとした顔をした後、してやられたという表情をしている。
「くぅ~わがままお姫様の考えを読み取りきれなかったな~
【ペンネドラゴ】君に負けっぱなしみたいな気分だよ~」
【アルタルソース】は素直に敗北を認め、【ペンネドラゴ】を称賛していた。
【ペンネドラゴ】のどこか見透かしたような行動や物言いに対して一定の敬意を持った証拠であろうか。
そして、【ペンネドラゴ】の発言に驚くもう一人のプレイヤーがいた。
クエストを出した本人である【ドロップ】だ。
NPCに擬態するというロールプレイの関係で驚きの表情こそ隠していたが、内心は非常に驚いていた。
(あっ、そうだったんだ!!!
完全に着いたら終わりだと思ってたけどそれなら納得だねっ!
やっぱり【ペンネドラゴ】さんは頼りになるよっ!
流石は【騎士】に選ばれるだけはあるよねっ!)
自分の出したクエストに関することであるが、全く理解していなかった【ドロップ】は【ペンネドラゴ】の推測を真に受けていた。
つまり、別に【ドロップ】の意図がクエストに含まれていないということなので【ペンネドラゴ】の深読みであるのだが不幸にもこの場にいる誰も指摘することは出来なかった。
そして、今クエストについて理解した動揺を隠すべく、【ドロップ】はプレイヤーたちに【ペンネドラゴ】の言葉を借りつつも大声で伝えていく。
「ワタクシの声を聴きなさい!【拡声ーLV2】!
コホン……ワタクシはこれからこの港町セカドンが、ファートス王国の繁栄に繋がる町であるのかこの足で直々に見て差し上げますわ!
気になるものを見つけ次第ワタクシに報告してくださいまし?
そして怪しい者、不審な不届き者がいれば遠慮なく排除しなさってよ!
ファートス王国の姫であるワタクシが許可いたしますわ!」
【ドロップ】は大袈裟なジェスチャーを交えながら演説をした後、サービスと言わんばかりにウインクをプレイヤーたちのいる集団に向かって投げかけた。
そんな【ドロップ】のリップサービスに対してプレイヤーたちの反応は……
「小悪魔系ロリ姫様キタ━(゜∀゜)━!」
「これは捗る!……何がとは言わないけどw」
「こういうのも悪くないな!」
「よっし、これって護衛の継続ってことだろ?
張り切ってやるか!」
「奉納クエストでもあるのかな?
珍しいものでも探してみるか」
「姫様だから狙われてもおかしくない……つまり暗殺者とかも出てくる可能性があるのか……」
「なにっ!?
それはなんとしても食い止めないとな!」
「……ふん」
クエストそのものに対する意気込みを見せるもの、【ドロップ】の可愛さに魅せられたもの、己の欲望を満たさんとするものがそれぞれ三者三様の様相をこの場で示しあわせることとなっていた。
「じゃ、私はわがまま姫様がお気に召すものでも探してこようかな~
このまま【ペンネドラゴ】君といると負けが続きそうだからゆっくり一人で動いてみるよ~」
「その方が俺は気が楽だからいいが……
代わりに護衛は俺が受け持った!
俺の目が黒いうちは【ドロップ】姫様に手は出させない」
【ドロップ】の目の前で交わされる【ドロップ】ガチ勢二人による行動の示し合わせが終わり、奇妙な信頼関係も生まれたところで【ドロップ】は今後自分がどう動くか悩んでいた。
(港町の調査って何を見ればいいんだろう……
やっぱり船とかかな?それとも名産品とか見た方がいいのかなぁ……
うーん、悩ましいよっ!)
NPCに擬態している以上、行動には出せないが気持ちが大きく揺れているお姫様。
最終的には、その時目に入ってきたあるものに目を奪われてそれを見に行くことにしたのだった。
「ここが海の幸がいただけるという食堂でして?
ワタクシの口に合わないものを出したら許しませんわよ!」
【ドロップ】がやってきたのは港町セカドンの海辺にある大衆食堂であった。
店の名前は【シーフードショップ シュリンプ】である。
簡素な造りの建物であり、店先には店の名前が書かれた看板と暖簾がかかっているくらいで特に変わった店というわけではない。
そうではあるが、【ドロップ】はいくつかの打算でこの店を選んだ。
そうして躊躇うことなく歩みを進め、店の中へと入っていった。
「えぇっ!?
ファートス王国のお姫様がなんでこんなところに!?」
「ここってそんな凄い店だったのか!?」
「ひぇぇ、おそれ多い……」
「へぇ~、ファートス王国のお姫様ってこんなに可愛らしいお方だったのね!」
【ドロップ】が店のなかに入ったことによって、店内は阿鼻叫喚の様相を呈していた。
それもそのはず、一国の姫が何のアポイントメントもなく大衆の飲食店に現れたら誰でも驚くことであろう。
「……【拡声ーLV2】。
コホン、ワタクシのためにこの店で一番の料理を持ってきなさい!
精々このワタクシを満足させるものを準備してくださいまし?」
(ふふん、ちょっとわがままお姫様っぽいセリフでしょ!
こういうのちょっと言ってみたかったんだよねっ!)
ここぞとばかりに【わがままお姫様】ムーブで、自らの役割を全うしようとする【ドロップ】であった……