11話 いきなり横取り!
「ようやくお出ましでして?
ワタクシの【騎士】にしては遅い登場ではありませんこと?」
(たっ、助かった~!
ナイスタイミングだよ【ペンネドラゴ】さん!
そして何この登場シーンっ、格好良すぎだよっ!
主を守る【騎士】ってシチュエーションがこんなに嬉しいなんて思わなかったよ!)
口ではNPC【わがままお姫様】ムーヴとしてのちょっと欲張りな言い分をしている【ドロップ】ではあるが、内心では【騎士】として駆けつけてくれた【ペンネドラゴ】に対して胸がバクバクしていた。
まるで自分が少女漫画の主人公になったかのような夢のシチュエーションに遭遇してしまったのなら、うら若き乙女であればそんな心持ちになってしまうのも仕方ないことかもしれない。
そんな【ドロップ】に対して、【ペンネドラゴ】には余裕がなくオーガキングによる攻撃を聖鞘ファートスを盾のように扱い防いでいっている。
オーガキングの巨体によって上方から勢い良く振り下ろされた棍棒を流れるように受け止める姿は、誰が見ても流麗であると答えたであろう。
「【ペンネドラゴ】が来たぞ!?」
「お前を待ってたんだよぉ!」
「というか盾じゃなくて鞘で攻撃防いでるのヤバくない?
あの攻撃の重圧って盾でも防げなかったはずだろ……」
「あれが噂の聖鞘ファートス……興味深いンゴねぇ……」
「強すぎぢゃん!?」
【ペンネドラゴ】の戦いかたは、豪快なように見えて非常に繊細なものであった。
片手剣による鮮やかな剣捌きと、聖鞘ファートスによるガードを織り混ぜながら戦うのは一見すると双剣で戦っているように見えるが、実際は片手剣と盾を持っているようなものだ。
今の聖鞘ファートスには攻撃力補正がかかっておらず、守りにしか使えないため巨体から放たれる棍棒をこの鞘で受け止めるほか無い。
普通のプレイヤーであれば受け止めきれないが、【ペンネドラゴ】はダントツでランキング一位を獲得するようなVR適性を持つプレイヤーである。
「お前の攻撃……止まって見えるぞ!
俺の姫様に手を出そうとしたわりにはその程度かっ!」
【ペンネドラゴ】は棍棒による攻撃をほとんどジャストガードで防いでおり、鞘であっても規定以上の攻撃を耐えきることが出来ているのだ。
本来なら盾で戦った方が【ペンネドラゴ】としても戦いやすいはずだ。
しかし、【ペンネドラゴ】は聖鞘ファートスの成長武具という言葉と【ドロップ】から下賜されたアイテムであるという点から、この鞘と共に戦うことを決めておりこの戦いの最中であっても鞘を手放す気はない。
そして、このようにして堂々とオーガキングのヘイトを集めていれば【ドロップ】への攻撃を逸らせるのと……
「オーガキング、今俺たちを警戒してなくね?」
「舐められてて草」
「でも、これって……」
「チャンスぢゃん!」
「いけっ、【ファイアボールーLV4】!」
「無防備な相手に攻撃するの楽しすぎワロタwww
【クイックジャブーLV1】」
「うおおおおおお!!!
【スラッシューLV3】!」
そう、他のプレイヤーたちの攻撃チャンスである。
オーガキングは大型のモンスターではあるが、攻撃範囲がそこまで広くないため対峙しているプレイヤーが倒れなければ他のプレイヤーたちは攻撃に専念できるのだ。
そのことに気がついたプレイヤーたちは各々の判断でスキルを起動してオーガキングへと攻撃を加えていく。
その光景は数こそ減らしてはいるものの、オーガキングとの戦闘開始時の一斉攻撃に酷似しているほどの鮮烈な密集攻撃となった。
剣や槍、矢や魔法など様々な攻撃によって体力が削られていくオーガキング。
こうなると誰がラストアタックを決めるのかという話になってくるが……
「あと一撃で決着がつくな。
俺の一撃、姫様に捧げよう!
【ス「あれ~、いつの間にか【ペンネドラゴ】君がいるみたいだね~?」何っ!?」
ここで道から外れた木々の茂みから【ペンネドラゴ】の声に被せるようにして別の声が響いてきた。
「でも、今回のクエストは私が発生させたものだから、せめてラストアタックはいただくよ~!
【スパイラルスピアーLV8】っ!」
「しまった!?」
【ペンネドラゴ】は声によって気を取られスキルを発動し損ね、オーガキングからの攻撃を再び受け止めることとなった。
その好機を活かした茂みからの声の主は……【アルタルソース】だ!
【アルタルソース】は茂みから一気にオーガキングへと迫り、そのまま槍を回しながら突き刺して、オーガキングの胴に真円を刻み込んだ。
そして、胴にぽっかりと穴の空いてしまったオーガキングはそのまま倒れ込み、光の粒子となって消え去っていった。
「ふふん、悪いね【ペンネドラゴ】君~!
でも、今回の【ドロップ】姫様同行人は私なんだよね~」
「くっ、やっぱり登場が遅れたのが痛手だったか……
いや……今は無事ボスを倒せたことを祝う方がいいか!」
したり顔の【アルタルソース】に対して一瞬悔しげな表情を浮かべた【ペンネドラゴ】であったが、次の瞬間には気持ちを切り替えて周りにいるプレイヤーたちと勝利の余韻を楽しみ始めた。
「……ラストアタックは取れたけど、ちょっと負けた気分だね~
【ペンネドラゴ】君は振る舞いも【騎士】ってことか~
いや~、流石だね~
ま、ボスのラストアタック報酬はちゃっかりもらっておくけど……」
そんな【ペンネドラゴ】の姿を見た【アルタルソース】は皮肉を吐きながらも、どこか自嘲するような雰囲気を出している。
(ほっ、何とか勝てたよ……
私特に何もしてなかったけど、あそこで少しでも何かしてたら攻撃の方向が私になっちゃっただろうから仕方ないんだけど……やっぱり悔しいよ!
せめてもっと強くならないと!)
複雑な人間模様が繰り広げられるなか、【ドロップ】も己の弱さを改めて自覚することとなった。
今回はほとんどお荷物の状態で護衛をされていたが、いつかは自分だけで戦えるように……そんな意気込みが表情から感じられた。
【個人アナウンス】
【【ドロップ】が level up!】
【【ドロップ】のレベルが3になりました】
(何もしてなくてもレベル上がっちゃったよ!?
これは噂に聞くパワーレベリングってやつだよね。
上がっちゃったものは仕方ないし、ありがたく経験値もらっちゃお!)
己の弱さに向き合ったが、楽観的な【ドロップ】は上がったレベルに対してすぐに喜びはじめた。
単純と言えば単純ではあるが、取り返しがつかない以上は【ドロップ】のように素直に喜ぶことが精神衛生的にもゲームを楽しめる人材なのかもしれない。
そんな三者三様な反応を示しながら、【【ドロップ】姫様一行】は港町セカドンへと足を踏み入れたのだった。




