「レイア、君との婚約は破棄させてもらう――「ちっ魅了魔法がとけたか!」」
「レイア、君との婚約は破棄させてもら――」
「ちっ、魅了魔法がとけたか!」
これはよくある悪役令嬢が王子から婚約破棄されるだけの話。悪役令嬢が王子と出会ってすぐに魅了魔法をかけて無理やり婚約していただけのありきたりの話だ。
「えっ魅了魔法……? お前俺にそんなものかけてたの?」
「恋した相手に魅了魔法をかけるのは淑女の嗜みですわ」
「まじで!? 淑女こわっ!?」
周囲の既婚者男子達は思わず妻に視線を向けるが、れっきとした淑女達は口にした。そんな嗜みあってたまるかと。
「はぁ……魅了魔法作戦が失敗してしまったというなら作戦β洗脳魔法作戦に移るしかありませんわね」
「なっ!? お前今度は俺を洗脳するつもりか!?」
「違いますわ、まったくそんなお粗末なことをする訳がないでしょう?」
「お、おう違ったのかすまない……」
「王子だけじゃなくて国中を洗脳するんですのよ」
「なお質悪いじゃねぇか!!!」
王子だけ洗脳したらすぐにばれて国家反逆罪に問われてしまうが、国中の人間を洗脳すれば罪に問える人間は居なくなるのだ。なんて合理的な作戦なんだろうか、と悪役令嬢は自画自賛する。
それを聞いた大臣は口にした、頼むから恋愛沙汰で国中を巻き込まないでくれと。
「国をわたくしの傀儡にされたくなければ婚約破棄を取り消してください! さぁ早く!」
「お前それおもいっきし恐喝だからな!!」
「10秒以内に返事をくれないと洗脳魔法を使いますわ。10……9……3……21」
「はええよ!!! お前途中思いっきり数字飛ばしただろうが!!」
「ちっ、細かい男ですわね。器が知れますわよ」
「お前俺のこと好きなんだよな??? なぁ???」
「顔は好きですわ」
「顔以外は……?」
「顔は好きですわ!!!」
「お前声を張り上げれば押し切れると思ってんじゃねぇぞ!」
側近達はまぁ確かに顔と地位以外取り柄ないしなこの人と思ったが、怒られたくないので黙っておくことにした。
「魔法の準備は整いましたわ。これから皆様には【私と王子は愛し合っている】【レイア様最高】【ピーマンは滅べ】という風に思い込むようになります」
「いや、最後必要かそれ?」
「わたくしピーマンだけは苦手ですの。見るのも不快なレベルで。ですから国を挙げて滅ぼそうかと」
「個人の好き嫌いで種を絶滅させようとすんな!!」
「分かりましたわ。では【巨乳はきもい】で我慢しておきます」
「いや、どんだけ巨乳を目の敵にしてるんだよ」
「では王子、わたくしと貴方の後ろで隠れてヒロインぶってる胸に無駄に脂肪が集まっているマイさん、どちらのオッパイを触りたいですか?」
「え、そりゃ巨乳――じゃなかったマイのだろ」
「やっぱり巨乳は滅ぼすしかないですね」
「レ、レイアさん貧乳が好きな殿方もいますよ?」
「あぁ????? デカ乳女が知ったような口きくの止めてくれませんか???? 思わず王子に即死魔法を唱えそうになったじゃありませんか」
「とばっちりやめろ!!!」
というかお前胸が小さいことを気にしてたんだなと王子が口にすると、レイアは顔を赤く染めて俯いた。その姿に王子はちょっとキュンとした気がしたが、きっとこれは魅了魔法の所為に違いないと必死に自分に言い聞かせていた。まぁ魅了魔法がとけたからこんな騒動が起きてるわけなのだが。
「好き好き大好きラブずっきゅん。皆私にメロメロになっちゃえ~」!
「うわっきつ。お前歳を考えろよ」
「煩いですわ!! 呪文だから仕方ないでしょうが!!! あっ……」
「おいなんだその不吉な呟きは!」
レイアの足元に描かれた魔法陣からぷすぷすと煙が立ち込めており、あからさまに魔法が失敗していた。
「ちょっと王子にキレてたらうっかり魔法を失敗したというか、なんと言いますか……。ま、まぁ大した影響はないですわ。ちょっと王子だけ洗脳の対象外になっただけで……」
「お前それ一番大事なとこじゃねぇか!! 何の為に洗脳魔法なんて物騒なもん使ったんだよ!!」
「恋愛は周りを固めることが重要ですのよ?」
「レイア様最高! 息子よレイア様との結婚式はいつ挙げるのだ?」
「しねぇよ!!」
「レイア様最高です! あー私が好きな王子様とレイア様が愛し合っているなんて最高だわ」
「お、おいマイ? 俺が好きなのはレイアじゃなくてマイなんだが……」
「ご結婚おめでとうございます!!」
「やめてくれぇえええ!!!」
「ふっ計画通りですわ」
「絶対違うだろうがああああああああ!!!!」
その後王子の頑張りにより洗脳魔法は解けることとなる。だが王子はまだ知らない洗脳魔法が解けたところで今度は好感度反転魔法、貧乳萌え魔法、そして最強の魔法幼馴染が傍にいると性欲最大限向上魔法が待ち構えていることを。王子の戦いはまだまだ始まったばかりだった!
雪先生の次回作にご期待ください