表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天災 志操堅固  作者: 蒼蕣
8/31

火山活動発生

「湊〜。早く早く」

「待て。まだ準備できてない」

湊は白いタキシードに身を包んでいた。

「見て見て。ちょ〜可愛いよ」

「ああ、そうだろうな。二人で選んだんだからな」

芽衣は純白のウェディングドレスに身を包んでいた。

「ねえ、私まだ湊からあれ聞いてないんだけど」

「式場で言ってやるよ」

「ええ〜。今言ってよ。ね?」

芽衣の瞳が何かを訴えて来る。

「はあ。大好きだよ、芽衣」

「私も。大好きだよ、湊。ううん、幸せだよ」

二人はそう言って笑いあい、太陽の日に照らされた外へ飛び出した。


「ん…」

湊はそこで目が覚めた。

「夢か…」

「変な夢見ちゃったな。人生最初の彼女と結婚する夢。いいけど、この関係がどこまで続くか不安だな」

湊はふと、違和感を感じてベッド横の置き時計に目をやった。

「母さんはもう出かけたか。九時だもんな。それにしても外が暗い気が…」

そうやってカーテンを開けるとそこには目を疑う光景が広がっていた。

湊はまずデジタル時計をもう一度見直した。そこには九時二十三分とくっきりと記されている。それなのにまるで夜のような漆黒の闇が湊の視界を埋めていた。太陽が見えない。しかしながら光り輝く星や月も見えない。言葉通りの闇が辺りに広がっていた。

「な、何だ。極夜か。いや、北極や南極ならともかく日本でなんて…」

湊は寝ぼけた脳を働かせて考えた。

「どうなってるんだ。超常現象なわけ…ん?」

湊は両目をこすって再度あたりの風景に目を凝らした。

アスファルトを見ると、あたり一面が小さな微粒子で覆い尽くされていた。その微粒子が地面のみならず大気中を覆っていて、その微粒子が太陽光を遮っていたのであった。

「何だ、砂か」

湊は手を窓の外に出した。

いくつかの微粒子が湊の手のひらに落ちた。

「これは、灰だ。どういうことだ」

湊は訳がわからなかった。

とりあえず、急いでリビングテレビをつけ、現状を把握しようとした。

テレビの電源を入れた途端いつもなら何気ないバラエティをやっているはずが、なぜかこの日はどこのチャンネルもニュースをやっていた。そのどれもがこの現象についての報告を行っていた。

その見出しには“富士山噴火。大気中に火山灰放出”とあった。

「富士山の噴火…だと」

湊はその場で呆然とした。

—まもなく首相の緊急会見が開かれます—

とアナウンサーが言うと、急にカメラが切り替わった。

すると、首相が真剣な眼差しでマイクを持った姿が映し出された。

—国民の皆様に申し上げます。今日未明、富士山が大噴火を起こし、大量のマグマと火山灰が放出されました。すでに山梨県、静岡県、長野県で緊急避難要請を発表しました。他県の皆様は慌てず、随時ニュースを確認してください。これから…—

「やばそうだな。富士山の噴火って。日本大丈夫か」

その時静寂をかき消すように、自分の携帯がけたたましく鳴り響いた。

ーもしもし湊。ねえ見た? 富士山噴火だってー

受話器をとった途端に芽衣の大声が耳に轟いた。

芽衣がいつも以上に驚き、そして焦ってる証拠だ。

「わかってるって。とにかくむやみに外出るなよ。灰を吸い込んだら大変だからな」

ーうん。湊も気をつけてねー

「ああ。じゃあ一回切るからな。母さんにも連絡取りたいから」

ーえ? お母さんそこにいないのー

湊はその場で後悔した。自分の母親が鳥取に行っていて自分は今家で一人だと言えば、心配でここに来るのは目に見えていた。この状況ではなおさらだった。

「いや、何でもない。とにかく…」

ーねえ、お母さん大丈夫なの?ー

芽衣が言葉を遮った。

「あ、ああ。だからこれから連絡しようと」

ーもしかしていつものおばあちゃんちに看病に行ったのね。それじゃあ、湊は今一人よねー

「い、いや…」

ーそうでしょ!ー

「は、はい」

圧倒された湊は思わずため息をついた。

ー待ってて、今すぐそっちに行くからー

「おい、人の話を聞け。今外に出るのはまずい」

ー大丈夫傘さして行くし。それにきっとお母さんもこの状況じゃ当分帰ってこれないだろうから。私そっちに泊まるからー

「と、泊まるってお前。こっちは…」

ーじゃあね、すぐ準備して行くからー

「お、おい!」

湊の返事も聞かず、芽衣は一方的に電話を切った。

湊は思わず、切れた携帯を睨んだ。

「たく…あいつは。とにかく母さんに電話だ」

湊はすぐさま携帯を持ち直した。

数秒間の着信音の後、聞き慣れた声を聞いて、思わず安堵の表情を浮かべた。

「もしもし、大丈夫か」

—うん。でも富士山の噴火のせいで飛行機が飛んでなくて、だから、新幹線で行こうと思うー

「え…」

湊は母親に帰って来るよう促そうとしたが、思いとどまった。それでは芽衣と鉢合わせてしまうと思ったからだ。

「わ、わかった。気をつけてね」

ーはいはい。そっちもなんか危なそうだから気をつけなさいよー

「あ、ああ。じゃあ」

切れた携帯電話を今度は悲しみの表情で浮かべた。

芽衣と一緒にいたいという欲に負けてしまったことを悔いていた。

「まあ、大丈夫だろ。こんな機会もう味わえないし」

湊は一人で静かに笑みを浮かべた。


しかしこの時はまだ誰も知らなかった。まさか日本列島に歴史上類を見ないあんなことが起こるとは…

みなさんこんにちは。補足ですが芽衣の”それにきっとお母さんもこの状況じゃ当分帰ってこれないだろうから”のお母さんとは湊の母親のことを指しています。芽衣は湊の母、そして自分の母親のことも”お母さん”と呼ぶので、今後同じような話が出た時どっちのことを指しているのかわからなくなる時があるかもしれません。申し訳ありません。

ところで飛行機は欠航しているのに新幹線が通常運行なのは変でしょうか。自分で書いていて少し現実味を感じられないなと思ったのですが、これはフィクションなのでご了承ください。では次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ