白い家
「あ、ごめん湊。待った?」
「ああ」
放課後、湊はいつものように校門前で彼女の芽衣を待っていた。
そこに芽衣が友達数人を連れて現れた。
「そう言う時は、今来たとこだから大丈夫って言うんでしょ」
「事実を言ったまでだ」
「芽衣、今日も彼氏と帰るの?」
芽衣は後ろを振り向いた。
「うん。ごめんね」
「いいよいいよ。二人の邪魔しちゃ悪いし。じゃあ、また」
「うん」
芽衣は手を降って友達を見送った。
「別にわざわざ俺と帰んなくてもいいんじゃないの?」
「いいじゃん。私たち学年違うんだから会う機会少ないし。沙織たちとは学校でいっつも一緒だし」
なんか含みのある言い方だな。仲悪いのか。と口に出したくなるところをもう一度飲み込んだ。
「んじゃあ帰るぞ」
そう言うと、芽衣が湊の左腕に絡みついて来た。
「おい、あんまりそっち引っ張るな。カバン持ってて重いんだから」
「ねえねえ、それより今日うち来るよね」
芽衣が輝く目を向けて湊を見た。
「…しかたがないか」
港は思わず目を背けた。
「ふふ、やっぱりね」
芽衣は湊に寄り添いながら、クスクスと笑った。
「いいよ、入って」
数分後、二人は芽衣の家に着いた。
「…お邪魔します」
「どうぞ」
湊は軽く挨拶をして、芽衣に続いて家に入った。
「はい、スリッパ」
「ああ。ありがとう」
芽衣が用意した熊の頭がついた子どもっぽいスリッパを履き、幸せそうに鼻歌を口ずさむ芽衣の後を追った。
「お邪魔します」
もう一度挨拶をして、リビングに入った。
湊は芽衣と付き合い始めてまだ一年も立っておらず、芽衣の家に入るのもほんの二、三回目だった。
リビングの他にダイニングとキッチンで仕切られているこの部屋は清潔な印象を与える白を多く取り入れている。
白いソファに白いクッションが二つ、白いファーが目立つカーペットにガラス張りの丸テーブル。その目の前には白いテレビ台と大きなテレビ。ダイニングルームでも白いダイニングテーブルに白い椅子が四つ。テーブルの中央には白いテッシュボックスが置かれている。キッチンも油汚れ一つ見えない純白さが目立った。何よりこの部屋の神々しさをより一層際立てせているのが、白いカーテンで遮られた部屋の頭上で激しく発光しているLEDライトであった。
「相変わらず、眩しいなここは」
「それより、何する? ゲーム? おしゃべり? テレビ?」
「勉強」
芽衣の期待を大きく裏切った湊はカバンを置くと、部屋を出て、洗面台に向かい、手洗いうがいをした。
「もう、何で彼女の部屋に来ても勉強なのよ」
後をついて来た芽衣は頬を少し膨らませていた。
「そんな顔をしても俺には通じない。それにここに来たのは別にお前とじゃれ合うためじゃないしな」
湊は動じず芽衣の横を通り過ぎた。
「ってそんなかっこつけてるけど、本当は私が隣にいるだけで十分ってことだよね」
「…」
「あれれ〜。湊が言い返してこないってことは図星だったってことかな〜?」
芽衣は意地悪そうな顔をして湊の顔を覗き込んだ。
「いいから勉強やるぞ。い、一緒に」
「もっと甘えていいのに。まあいいや。やろう」