承認欲求
「おっす、湊。今日は芽衣ちゃんと一緒じゃないのか」
「悪いか」
ボソッと湊は返す。
「いや、相変わらずクールに演じてて何よりだ」
小学校からの同級生、新島淳は頭は悪いが、人当たりがよく、スポーツ好きで、だれからも好かれる存在であるとクラス中で評判である。
ゆっくりと歩く湊に合わせて歩く速度を緩めた淳は表情が薄い湊の顔を覗き込んだ。
「何だ」
「いや〜大変だなと思ってさ。そのキャラ保ってるのも」
「別になりたくてこうなったわけじゃないし」
「そっちの方がモテると思って始めたんだっけか」
「そんなんじゃない。人付き合いが嫌いだから人が寄ってこないようにしようと思っただけだ」
「でも結果として芽衣ちゃんと付き合ってるんだろ」
「まあ…」
今までの生返事から打って変わって気持ちがこもった返答をした。
「にやついちゃって、青春だね〜」
「うるさい」
「そうやって冷たく突き放してもまた寂しくなって自分から近づいて来る。めんどくさいな」
「そう思うんだったら近寄るなよ」
「そんなこと言っちゃっていいの? 寂しがり屋のくせに。お前の本心知ってるのは俺と芽衣ちゃんぐらいじゃないのか」
「ふん」
「まったく、もっと素直になれってんだ」
その後しばらく二人は黙り込んだまま、学校に向かって歩いた。
「おい、見たか!」
「何だよいきなり」
「今朝のニュースだよ」
「のどれだ」
「ほら、インドかどっかの病院で患者が数十名死んだってニュースだよ」
「それがどうした」
「何でも、そこで臨床実験が行われてて、その副作用による毒で死んじゃったて噂だぜ」
「それで」
相変わらず気持ちのこもっていない返事を湊は繰り返した。
「しかもその毒はどういう原理か死んだ後も人体に残り続けるんだって。怖くねえか。だからさっさと焼却しちまったって」
「そんな毒を難なく患者に投与したり、その患者を燃やしちまう人間の方が怖いよ」
「まあ、そりゃあそうだけど。何でそんなことしちまったんだろうな」
「さあな、どうせ地位とか名声とか金とかが欲しかったんだろうな。どんな実験か知らねえがその薬が今まで不治の病と恐れられてた病気を治せる効果が見つかれば、それこそ世紀の大発見。瞬く間に出世するだろうからな」
「出世のどこがいいんだ」
「そうだな。人間だれでも人より優れてるだったり人から認められたいっていう自己顕示欲があるからな。その欲に理性が喰われれば人も鬼と化すってところか」
「何だ、その小説家みたいな言い方」
「お前だって何で部活で野球やってる?」
「それはスポーツが好きだから」
「だったら他のテニスやらバスケやらでも一緒じゃねえのか」
「それは…野球が一番得意だから」
今まで深く考えず即答していた淳もこの時ばかりは少し戸惑った。
「そうだろ。それは誰かに自分の力を見せびらかしたい。言い換えれば誰かに自分の実力を認めてもらいたいってことだろ。それにテニスやバスケだったらお前より数倍優れている奴がいるかもしれない。そいつより劣っているかもしれない自分が恥ずかしいんだ。惨めな思いをしたくないって言う本音が隠れてる」
「そんなこと…」
「得意と好きは方程式みたいなもんだ。好きなものは必然的に得意なものになって他人に認められたくなる。お前、勉強苦手だろ。何でだ」
「それは嫌いだから」
「そうだな。お前は勉強が苦手、なぜならお前より数倍できる奴がお前の周りいるからだ。そんな自分が嫌、その結果勉強自体も嫌いになるってもんだ。ま、簡潔に言うと人間ってのは結局自分自身が一番大切な存在ってわけだ」
「…」
淳はあっという間に萎縮してしまった。
「安心しろ。それが悪いなんてだれも言ってない。なんてたって全員やってることだからな。俺だってお前と似たようなもんだ。みんな本能的に他人よりも優れている、自分が正しいと思い込んじまってる。それが人間ってもんだから」
「よし。わかった。つまり俺は今まで通りの俺でいいってわけだな」
淳は再び生気を取り戻したように大きな笑みを浮かべた。
「あ、ああまあ。お前って単純だな」
その時、学校のチャイムが遠くの方で聞こえた。
「やべっ、遅刻だ」
「お前が小説家風に何時間もカッコつけて語るからだぞ」
「うるさい。とにかく走るぞ!」
二人は全速力で学校へ向かった…
みなさんお久しぶりです。ご機嫌いかがですが。突然ですが、一つ聞きたいことがあります。このサイトに自分の小説を投稿して三年ほど経ちました。これからもゆるりと投稿を続けてゆくつもりですが、今後五年、十年と経過して自分の小説の幼稚さが抜けるか不安です。二十代、三十代にもなって子供っぽい物語を書いていたらと思うと気が引けてきます。『鍵穴の人間』を書いていたときは中学生でしたので、それも許されたかもしれませんが、私も今や大学生です。文章力、語彙力、表現力ちゃんと上達しているのか心配です。この作品を通して是非みなさんのご意見お聞かせください。