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少し、好き。

前髪

作者: AI子

俺はどうやら、最近増子に嫌われているっぽい。

挨拶しても返してこなし、顔も合わせようとしない。どうしても言わなくてはいけないことは、LINEで簡潔に送ってくる。

嫌われるようなことをした覚えは、、確かにある。


口がつい滑っちゃったんだ。

それにすぐに謝ったんだぞ。

でもそれ以来、まともに顔を見せてはくれない。


「あー今日も挨拶全敗だな。」

そんなことをぼやきながら、この寒い道を手を擦りながらとぼとぼと帰る。一人で。独りで。

一週間前までは一緒に帰っていたのに。なんならそのままどっちかの家に行って遊んだりしていたのに。

隣が空いてるってこんなに堪えるものだったなんて。

「明日は挨拶返してくれるといいんだけどなぁ。」

ドラッグストアのドアをくぐって、普段は見もしない場所に向かいながら思った。


田渕は本当にバカ野郎だわ。

そう思いながら、おでこ全開の短い前髪を引っ張る。

「あと、お母さんのハサミの腕を信用した私が愚かだった。」

懺悔しても前髪は伸びない。


一週間前、前髪がウザくてピンで上げていたら、お母さんが切ってあげる。と新品のすきバサミを持って現れた。

眉毛が隠れるくらいって言ったのに。思いっきりジャキンって音が聞こえたんだから。

ヘアピンアレンジの動画を見てもこんなに短くちゃ差せない。

友達は、スッキリしていいじゃん。とか、顔だしたほうがいいよ。とか慰めてくれたのに、アイツときたら。


「うわぁ、新種のカッパかと思った。」

そう言って笑って頭をクシャクシャにしてきた。田渕の大きな手に揺さぶられて短い前髪はうねってもっと短くなっていた。


私は、怒りよりも悲しみの方が勝ってしまってその場でポロっと涙が出てしまった。

いつもみたいにバカ言って笑わしてくれようとしていたのは長い付き合いで分かっていたはずなのに。カッパじゃねーよ!ってツッコミができたて笑いあえたらよかったのに。


なんでだろう。

田渕に言われるのはキツかった。すぐに謝ってきたけれど、それ以来顔が合わせられない。

涙なんて見せたことなかったのに。いつも楽しくやっていきたかったのに。


吐いた息が白く煙になってすぐ消える。そんな朝だった。

「マジでごめんなさい。これ、父ちゃんに聞いて効くって聞いたから買ってきた。」

次の日、田渕は、おおよそ男子高校生には不要と思われる渋い顔したおじさんのスプレーを渡してきた。でかでかと、『信じる者は毛が生える!』の広告付きの育毛剤だった。


「こんなの効くわけ無いじゃん。乙女の髪だよ。」

「髪なら、おっさんでも、乙女でも関係なくないか?」

「乙女が育毛剤使うわけないじゃん!」

「え、結構高かったんだぞ。」

「お父さんに渡せば。」

「自分が買うのと、息子に渡されるのとでは、ダメージの度合いが違うから俺には渡すな。って言われた。」

「おー、切実。」

「だから使えって。」


違う、そんなんじゃない。物じゃなくて。言葉が欲しいのに。いつもは気があうって言われてんのにこういう時だけに鈍いんだから。私はやきもきして、つい本音を口にした。

「物じゃなくて、これ見てどう思うかってことが聞きたかったの!似合うとか、可愛いとか言って欲しかったのに!」

前髪を指差して田渕を問い詰めた。


少し考えたように首を傾げながら、「俺的には、短かろうが、長かろうが、増子は増子だし。似合うもなんも、お前がお前ならそれでいいじゃんって思っただけだよ。」

と本当に思ったまんまを答えた。


「、、それに嫌いな奴なら一緒にいないっての。」と、なんとか聞き取れるくらいの小さな声も聞こえた。


似合うって言われるより、可愛いって言われるより嬉しかった。

まったく、遅いんだよ、言うのが。

バカ。

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