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7話 友達は大切に

 

「勘弁してくれ、俺にはイマジナリーフレンドなんて居ないんだ」


「剣が喋るなんて発想、高レベルのソロ冒険者(ぼっち)にしか思いつかないです。

 大丈夫、理解できてますから」


 今までの事……文字に起こすと犯罪の臭いがするが、

 俺は今、この地下迷宮まで後を付けていた少女に絡まれていた。

 ていうか、高レベルのぼっちってなんだよ……


私の友達(ジン)もそう言ってます!」


 このクロエの空想上の友達(イマジナリーフレンド)と俺が同じ名前(ジン)だったらしく、

 やけにフレンドリー話しかけてくる。

 クロエ本人が鬱陶しい訳じゃない。

 ほぼ無色の男が少女を連れて歩いているというのがマズい。


 コレが本当に悪人だったら、自分を警戒しない少女なんて誘拐して奴隷商に売り渡したりするんだろうがさすがに俺には良心がある。

 それに友達がいないなんて言っている子を突き放すわけにもな。

 とりあえずクロエが飽きるまで話を聞こう。


「あなたの(トモダチ)は何て言ってるんですか?」


 ……やっぱ、それだけはやめて欲しい。


「とりあえず……話そうか……」


 近くの飲食店に入る。

 迷宮街には腹をすかせた冒険者の為に数多くの飲食店が立ち並んでいる。

 俺達は飲み物を二つ注文して席へと座る。


「それで、その……言いにくいんだが、本当にイマジナリーフレンドなんていないんだ」


 俺は真剣な目でクロエにそう言った。まずは俺の誤解だけでも解いておきたい。

 その上でこの少女の相談に乗るくらいならできるだろう。


「…………」


 あれ、クロエの様子がおかしい。さっきまであんなに喋っていたのに。


「……本当は、本当はジンなんていない事分かってるんです!

 でもそれしか話し相手がいないから……

 空想ででも話し相手が欲しかったんです……!」


 突然、クロエは涙ながなにそう語り始めた。


「魔法学院に入って、誰にも話しかけられず、次第にに引きこもって、退学して……」


 やばい、思ったより悲惨な人生を送っている。


「そんな時に励ましてくれたのがジンでした……「頑張るでヤンス」って……」


 いや語尾っ!

 クロエの中のジンは一体何者っていう設定なんだ?


「そ、そうか、でもこんな年で冒険者なんて凄いじゃないか」


「そ、そうですか? えへへ」


 よかった、何とか泣き止んでくれたようだ。

 このまま号泣でもされてしまったら大変だった。


「お待たせいたしました~、ご兄弟で冒険者ですか?」


 そんな時、ウエイトレスが飲み物を持ってきた。


「ご兄弟で冒険者されてる方、時々いらっしゃるんですよ~、

 ほらここのダンジョンはあまり難易度が高くないから。

 お兄さんの方が「妹の特訓だ~!」なんて言って」


「………」


 ウエイトレスの話にクロエは相槌も打たずに黙っている。

 どうしたんだ?せっかくの喋るチャンスなのに……


 あこれ違うわ、コミュニケーション力の高い店主との接し方が分からないで頭が真っ白になってるだけだ


 クロエは目を挙動不審に動かしている。

 黙り続けるクウエイトレスの笑顔も引きつっている。

 挙動不審な少女と男が同席……

 やばい、変な想像されかねん!


「いやっ、ただの友達ですよ! ばったりここで会って……」


「トモダチ……えへ、えへへへ」


 俺の「トモダチ」という言葉を聞いてクロエがニヤついている。

 ウエイトレスも事案では無いと判断してくれたのか、笑顔に戻る。


「それではごゆっくり~!」


 ウエイトレスが去ったテーブルには未だに一人でニヤつくクロエが残っていた。


「いや、それにしても、一時はどうなるかと思ったよ

 氷の少女なんて呼ばれてるから、てっきりあの場で氷漬けにされるかと思った」


「それは……私がずっと黙ってるから……

 話しかけられても何を喋っていいのか分かんなくって……」


 まいった、どう喋っても暗い方向へ話が行きそうだ。


「あれ? でも気に入らない奴は氷漬けにされるって……」


「それは噂に尾ひれがついて、そのせいでますます人も寄って来なくなって……」


 おっとぉ? また暗くなりそうだ

 クロエには話を暗くする才能でもあるんだろうか?


「それでも受付嬢さんが「優秀だ」って言ってたぞ? てっきり氷魔法の使い手かと」


「頼られてるのは戦いができるからじゃないんです」


 そう言ってクロエは前に手を出す。

 クロエの手のひらに魔法陣が浮かび上がる。


八芒魔法陣(オクタグラム)それが私の特殊技能(ユニークスキル)です。

 知ってるかもしれないですけど、魔法には本来は魔法陣を書かなきゃ発動できないものがあって……

 例えば鑑定魔法だとか、複雑な魔法はほとんど。

 戦闘魔法は苦手なんですけど、そういう魔法は小さい頃からできるので、

 貴族とか商人に頼まれて、壺だとか宝石だとかの真贋を鑑定してるんです。」


 まず八芒魔法陣なんて特殊技能があることすら知らなかった。

 鑑定なんて鑑定士がちゃんとした設備でしかできないもんかと、思ってた。

 なんなら『鑑定』っていう特殊技能かなんかがあるのかとすら思ってた。


「あれ? それじゃこいつも鑑定できるのか!?」


 そういって魔剣をクロエに見せる。


「ジンさんのともだt…剣ですか?」


 一瞬「ともだち」って言おうとしてたな?

 まだ俺が魔剣の事をイマジナリーフレンドとして見てると思ってるようだな?


「これ、ただの剣じゃなかったんですか?」


「いや、魔剣っていうのは多分本当なんだ。

 コイツの声が聞るってのもウソじゃない。」


 クロエの目が少し曇る、

 この目はアレだ、「私は認めたのにアナタは認めないんだ」っていう目だろう。


「じゃ、じゃあやってみます」


 そう言うとクロエは魔剣に手を向け、さっきの様に手のひらに魔法陣が浮かび上がらせた。


「これは……やっぱりタダの剣、いや、違う……?

 魔力の反応が、どんどん大きくなって……!」


「くすぐったいわッ!」


 魔剣がいきなり声を上げた。


「気持ちよく寝てるって時にこちょこちょと……なんだ、まだこの少女と居たのか」


「寝てたって? お前、剣なのに寝るのかよ」


「当たり前だ、私だけでは生命力を得ることが出来ないからな、寝て温存するのだ」


「へぇ、そうなのか……ハッ!」


 そこまで言って気づいた、目の前にクロエが居たんだった。


「え、ジンさん、喋って、え?」


 完全に動揺している。

 いきなり目の前で剣と喋りだしたら誰だってそうなるだろう。


「いきなりすまなかったな、だけどホントに魔剣がしゃべってるんだ」


 それを聞いて魔剣は「当たり前だろう、()()()だぞ?」とか言っている。

 無視しよう。


「で、でも確かに漏れ出る魔力に波のようなモノを感じます。

 これを解読すれば……!」


 そう言ってクロエは再度、魔剣に魔法陣を向ける。


「ムッ、私をくすぐっていたのは小娘、貴様か。

 私の眠りを妨げるとはいいどky「本当にしゃべってる!?」」


 今度はクロエが声を上げた。


「私が喋っている途中だろうが! 小娘、貴様コイツと同様、礼儀がなってないようだな」


 コイツって俺の事かよ? 剣に礼儀なんて必要ないだろ


「す、すみませんっ! 初めて話すのに私っ」


「ほほう、直ぐに謝罪できるとは……見どころがあるな。

 小娘名前はなんという?」


「ク、クロエですっ」


「そうかそうか、いい名じゃないか」


 俺を放っておいて二人で話してら、別にいいけど。


「あのう、魔剣さん「名称不詳(アンノウン)と呼べ」

 すみませんっ アンノウンさん、ジンさんの友達なんですか……?」


 だから違うって、クロエは魔剣をどんな目で見てるんだ?


「よくわからんがクロエ、こいつは私の下僕だ。」


「そ、そうなんですかっ? じゃ、じゃあ、ジンさんの一番の友達は私……?」


 クロエさんッ!? 魔剣以外にも友達いるからねっ?

 消極法でクロエさんしか残らない訳じゃないからね?

 魔剣は魔剣で、「コイツの友人なぞ見たことも無いからそうなるだろうな」

 なんて勝手なことを言っている。


「でも夢だったんですよね……仲間とクエストに行くの……」


 魔剣のお墨付きを得てか、クロエはもはや自分の世界に入ってしまっている。


 くそぅ、クエストに行くのを断れる雰囲気でもない……

 俺は魔剣の買い手を探さなきゃいけないのに……



 ……こうして俺に、初めての冒険者仲間が出来た。

やっとここから冒険者っぽいことできるね

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