表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

6話 相談は友人に

本作品の「友情・努力・勝利」成分は希薄です

 張り込みを始めて三日が経った。

 まあ、全く見つからないよね。

 だって相手は冒険者、ただでさえクエストをしている時間が長い訳だ。

 それに目当ての人物は魔力が高い(・・・・・)冒険者だ。クエストで一か月帰ってこないなんて事もあるかもしれない。

 正直、やめときゃ良かったと思ってる。

 ただ、ギルドの待合所で座って、入って来る冒険者を魔剣に見せる作業。これが三日だ。

 それに人の目だ。

 顔見知りの受付嬢曰く、他の受付嬢にも「ギルドに来るのにクエスト受けて行かない人」という風に顔を覚えられてしまっているらしい。

 他の冒険者にも「にいちゃん昨日も居たな!」と声をかけられた。

 その間、金は減っていくし、魔剣は喋ってるし、

 俺は今、苦行でもしているのだろうか。


 カランコロン


 ドアに付けられたベルが来客を伝える。

 これも何百回、いや何千回聞いただろうか。

 どうせ今回も違うんだ。


「むっ、いたぞ。アイツだ」


 なんだってッ!?

 急いで入口を見ると屈強そうな冒険者の三人組がそこに居た。


「かーっ! ギルド入ってようやく「帰ってきた」って気がするぜ」

「ジャレットはいつもそれだな、そんで毎回飲み屋で酔い潰れるまで飲むんだ」

「ローエンだって同じ様なもんだぜ、この前も「セリカさん、セリカさん」って。なぁイザベラ?」

「ふふっ、そうねラール。酔うとそればっかりよ、ローエン?」

「お、おい、本人に聞かれたらどうするんだ!」


 なんだか賑やかな奴らだ。ただ奴らの見た目、ジャレットと呼ばれた奴は重そうな鎧を身に着けてこれまた重そうな大きな盾を背負っている。ローエンと呼ばれた奴も剣を背負っていて、いかにも「やり手の剣士」って感じだ。もう一人は弓を背負った奴はラールとか呼ばれていたか?魔力が高そうっていうなら魔女っぽいイザベラと呼ばれた女の人だろう。

 女の人だと思うが一応、魔剣に確認しておこう


(なあ、あの中の一体誰なんだ?)


「4人、一体誰を指して言ってるんだ?」


 え、あの4人組じゃないのか?


「私が言っているのは、あいつらの後に入ってきた、あそこの小柄なのだ」


確かに4人組の後をついて、まるで隠れるように入ってきた小柄な奴がいる。

深々とフードを被っていて、性別までは分からないが、少年か少女の様に思える。


(本当にアイツなのか? 強そうには思えないが?)


「魔力量は体に比例するものではないからな」


そうなのか、知らなかった。

それはそうとアイツが受付に向かっている。名前が分かるかも。


「クロエさん、今回もお疲れさまでした! それでは報酬の3万オンス、確かにお渡ししました!」


ほ、報酬三万オンスだって!? とんでもないやつらしい。是非とも魔剣を売り込まなければ。

名前がクロエって事は……女の子か?


「あれ、もう次のクエストをするんですか? と言っても……個人依頼は今のところ来てないんですよね…… じゃあパーティの募集はないかって? それも無いですね…… そう言えば、今日の昼までパーティ募集していた方が西の地下迷宮へと行くと言っていました! 希望者が居たら後からでも紹介しろと」


クロエと呼ばれた少女は、頷くとそのままギルドを出て行った。

俺は急いで少女が今いた受付に駆け寄る。


「受付さんっ! い、今の女の子は!?」


「ああ、クロエさんですね? あんな年なのに凄い優秀な方で……なんでも最年少で王都の魔法学院に入学されたとか」


やっぱり凄いやつなのか!


「人嫌いなのか臨時パーティを組んでも全く喋らないそうで、今みたいに一人でクエストに行かれる事が多いですね」


「ありがとうございます!」


それだけ聞いて、俺は急いでギルドを出る。何としても話しかけなければっ

人混みの中、何とか少女を見つけ出して後を追う。


落ち着け、俺。ここで大切なのは誰にも気づかれない事だ。

やっている事は「ストーキング」+「見知らぬ少女に話しかける」だ。

衛兵に見つかったら、職質されかねない。


話しかける機を伺う。

少女は西の地下迷宮行きの馬車に乗るようだ。そういえばそんな事を受付嬢と話していた。

ええい、仕方ない。運賃を支払い俺も馬車に乗る。


馬車で20分、他の冒険者が乗っているのもあって、全く話しかけられなかった。

だが、冒険者のヒソヒソ話を聞いて分かったことがある。

あの女の子が『氷の少女』と呼ばれている事、

これから行くダンジョンはあの子が行くにはレベルが低い事、

そして気に入らない冒険者は氷漬けにされるという事。


おっそろしい。氷漬けってなんだよ。

ますます慎重に話しかけなければ。


それにしてもこの辺りは栄えているな。

エンドルに劣らない位に人がいる。

ダンジョンに入る冒険者目当てに宿屋が建ち、飲食店が建ち、生鮮市場が建ちという風に発展した、いわゆる迷宮街(めいきゅうがい)というヤツだろう。


だが、そんな迷宮街に立ち寄ることも無く、少女はさっさとダンジョンへ入ってしまった。


ダンジョンの中に人気(ひとけ)はない。つまりそれだけ深く広いという事だろう。


ダンジョンに入ってしばらくした頃だった。


「ここらに冒険者はいないみたい……」


少女が口を開いた。独り言だろうか?


「うん、違う道を行った方が良いかも……」


いや、誰かと話してる? そういえば高位の魔術師は遠くの相手と話す魔術を使えると聞いたことがある


「いや、近くに生命反応がある……人間?」


俺の事だろうか、ストーキングがバレたらまずい、急いで物陰に隠れて様子を窺う


「ジン、どう思う?」


唐突に、少女がそう口にした。

俺の名をなんであの子が!? まさか、俺に気付いて!?

だとしたらヤバイ、氷漬けにされるかもしれない。

いっその事当たって砕けろで話しかけてみるか?


(おいッ 本当にアイツがお前の新しい持ち主になりそうなんだよな!?)


「はぁ? 何を言っている、あやつが私を使いきれる訳なかろう」


はあッ!? 話が違うじゃねえか!


「私は「魔力が高い」と言っただけだ。特段、生命力が高い訳でもない」


「なんだって……ッ!?」


「誰ッ……!?」


しまった、声を出してしまった! 気づかれてしまったようだ。

少女はこちらに杖を向けて戦闘態勢に入っている。


敵意が無い事を示すために俺は両手を上げて少女の前に出る。


「後を……付けていた?」


「いや、そういう訳じゃ……」


もちろん後を付けていた訳だが、とっさにそう言ってしまった。


「なんで……大声をだしたの?」


まだ警戒を解いてくれないようだ。

イチかバチか、本当のことを言ってみよう。


「この剣と……話していたんだ」


そう言って魔剣を見せる。


「そう……」


少女はそう言って杖を降ろす。

もしかして、話を信じてくれたのか?


「と、とにかく悪かったな、俺は帰るよ」


 来た道をそそくさと戻ろうとした時だった


「そ、その剣の名前はなんていうんですか」


 ん? もしや魔剣の事を信じてくれてるのか?

 なにやらブツブツと独り言をつぶやいている

「こんなところで見つけるなんて」

 やはり魔剣の事について何か知識を持っているのかもしれない


「イマジナリーフレンド……」


 ちがったーーーっ! とんでもない誤解をされてる!

 街で「アイツは剣と喋る可哀そうなヤツなんです」なんて広められちゃ敵わない!


「剣の事を「喋る」だなんて……この人にも友達がいなんだ……勇気を出してイマジナリーフレンドフレンドにならなくちゃ……!」


 イマジナリーフレンドフレンドってなんだよ、空想上の友人がいる仲間って事か? 

 ヤバい、係わるべきじゃないと俺の勘が言っている。 いや大声を上げている!


「いや、もう帰るよ! 何か邪魔しt「な、名前だけでも!」


……どうやら簡単には返してもらえないようだ


「ジンって……いいます」


「……ッ! わ、私の友達と同じ……!」


さっき友達がいないって……まさかさっきの『ジン』ってコイツの空想上の友人(イマジナリーフレンド)の事か!?


「わ、私、クロエっていいますッ……!」


ここで知っていますとも言えない。「そう……なんですか」と答えておく


「あ、あの……あなたのその(トモダチ)はなんていう名前なんですか……?」


魔剣(コイツ)をトモダチというなっ


「ふむ、コイツは下僕であって友達ではないが、お嬢さん私の名前は『名称不詳(アンノウン)』と呼びたまえ」


魔剣は魔剣で聞こえないのに自己紹介なんてしている。その名乗り気に入っているんだろうか


「コイツは……まあ、ナナシだ。……ていうか本当! 魔剣が話すのは本当だから!」


「ふふ、否定されるとムキになっちゃいますよね」


クロエは「分かります」という風に微笑んでいる。

違うからッ 本当に違うからッ!


こうして誤解が晴れないまま、俺はダンジョンを出てもクロエに付きまとわれるようになった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ