2話 転機と異動は突然に 2/2
キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!
っていう回
「……おい、痛かったぞ」
……………
どうやら俺は疲れているらしい。剣が喋るわけない
「おい、まずは土下座して謝ったらどうだ? 全ては謝罪からだと私は思うぞ」
………どうやら症状は重いらしい。 剣がめっちゃ流暢に喋っている
「おい、無視するつもりか? よく聞けよ? 私は本来お前ごときが手にするのもおこがましい高貴なる……ドワぁ!」
剣を投げ捨ててツルハシを持ち上げる。ダメだ今日は帰らせてもらおう。現場監督だって許してくれるはずさ
「おい! どういう教育を受けたら喋っている相手を投げ捨てる? まず拾え、そして正式に謝罪しろ!」
声は未だあの剣から聞こえてくる。手元ならまだしもこの距離間、幻聴にしてはリアリティがある。まさか、幻聴じゃない?
「………『取り寄せ』」
手に戻ってきた剣をまじまじと観察する。一見普通の剣だ。柄の部分に装飾があるが、不自然さは無いただの剣だ
「あの、もしかして本当に喋ってます?」
「おお、やっと面と向かって謝罪する気になったか。 そうとも、私は魔剣。 喋りもするさ」
……がっつり会話している。つまりこれはホンモノだ。
これがホンモノだとすれば、上司に報告すれば金一封貰えるだろうか
「どうした?驚いて言葉も出んか?それはそうだろうなんせワタシだからな!」
「おい、何か言ったらどうだ?お前の生命力を見るに庶民だろう。庶民が魔剣と話す機会なんて滅多にないだろう?」
「おい、柄は丁寧に持てよデリケートな部分だからな」
…
………
……………うぜぇ!
高圧的な態度がイラっと来る。同じ高圧的な態度でも、さっきは上司だからガマンしただけだ。赤の他人?いや他剣?どっちでもいいが初対面でこれだけ高圧的な態度だとイラッとくる。
だが、それにしてもだ?
「魔剣?そんなものがこんなトコに埋まっていたんだ?」
勝手にグチャグチャ喋っている魔剣にそう尋ねる。
「ゴホン、言葉遣いに関しては今回は見逃そう、私は寛容だからな。それでお前の質問だが、………知らん。気づいたら埋まっていたのだ。埋まる前の事は昔過ぎて記憶はあやふやだ」
ここがどのくらい前に掘られたものかは知らないが、ここが掘られる前から埋まっているのだとしたら、コイツは何百年も昔から埋まっている事になる。
「それで、他に質問はあるか?」
質問して欲しそうに刀身が光る、何百年も埋まっていたのだとしたら人と話す事が嬉しいのかもしれない。なんか聞くこと……そうだ、
「そういえば、さっきお前を持った時に急に力が抜けたんだよ」
俺は最初に魔剣を持った時の脱力感を思い出した。
「お前が私に一撃を入れた時にな、ほんの少しだが傷がついた。刀身を修復するのにお前の生命力を使わせてもらった」
「俺の生命力を使った?そんなことできるのか」
「ふふん、すごいだろう!私は使用者の生命力を別の力に変える事ができるのだ。ここに居る鉄のミミズ、あれすら一刀のもと切り捨てる事が出来るだろう」
そんなことできるのか!それが本当ならコイツはとんだお宝だ。労働者を辞めて冒険者として活躍するのも夢じゃない。
「まあ、お前ごときの生命力では一振りで昏倒してしまうだろうがな」
………なんだって?そうなると話が変わってくる。
俺が使えないんじゃ意味がないじゃないか。
「まあ、私はそれでも構わんがな。私の性能が証明されれば、強者からより強者へと私は下僕を乗り換える事が出来る。おめでとう、お前が栄えある下僕1号だ。」
「ふざけんなよ?たかが剣のクセに、なにが乗り換えるだ」
「人間が剣を消耗品とするなら、人間を消耗品とするのが私さ」
「お前に断る権利は無い。私は剣だが道具ではないぞ?」
所詮剣が何かほざいている
「なんだ? その目は。よし、どちらが主人か教えてやろう。……こういう風になっ!」
魔剣がそういった瞬間だった。魔剣の刀身が赤く発光し、その後ダンジョン内に地響きが起こる。
なんだ!?何が起きてる!?
ドゴォォォォオ
轟音と共にそいつは現れた。
帰り道を塞ぐほどの巨体、冒険者の攻撃すら寄せ付けない鋼の外殻。
ダンジョンマニュアルで「一番気をつけなければならない生物」と紹介されていた魔物。
間違いないッ!アイアンワームだ!
キシャァァぁァ!
鉱石を砕くのに特化された鋭い牙を持った口が俺に向かって開かれる。
威嚇されてる!?俺、なんかしました!?
はっとして持っている魔剣を見る。
「オマエがなにかしたのか!?」
「ふっふっふ、主人への口の利き方も知らない下僕には痛い目を見てもらうしかあるまい。少しばかり『挑発』したのだよ。アイアンワームにな」
『挑発』だぁ? よッッけいなことしやがって!
「それでどうする? 私を振れば、お前の生命力を犠牲に助けてやるぞ? まあ、生命力を吸い尽くして死んでしう可能性もあるがなぁ!」
魔剣が「私、出来ますけど? どうします???」と言わんばかりに怪しく光る。
冗談じゃない、死ぬかもしれないんだ。
そ・れ・にぃ!
これだけ煽られてるんだ、絶対にコイツの力を使いたくはない。
そんな俺の心情にお構いなしに、アイアンワームの牙だらけの口が接近する。
「さあ、さあッッ!」
魔剣ウザい声が冷静な思考を邪魔する。
死ぬかもしれない、でもコイツだけは使いたくない、その狭間で俺はとっさの行動に出ていた。
ヒュンっっ
グサッ
ギャァァぁぁッ!
無意識のうちに、魔剣を投げていた。
「おまっっ…何をする!」
魔剣はしっかりとアイアンワームに刺さっていた。どうやら切れ味は本物らしい。
それにアイアンワームを挑発したのは魔剣だ。俺は怒りの相手をアイアンワームに差し出しただけだ。
だがどうする?逃げ道は痛みにのたうつアイアンワームの向こう側だ。
「おいっ! この私の扱いを間違えるなよ!」
そんな声がアイアンワームから聞こえてくるが、あれにかまっている暇などない。今はとにかく助かる方法を考えなければ。
チャンスはアイアンワームの気が突き刺さっている剣に向いている今だけだ。
「おいっ! 無視するな! 聞こえているのは分かっているんだぞっ!」
「私を怒らせればどうなるか分かっているのか!」
「お前など私にかかれば一太刀だぞ!」
………
「おい貴様ぁ! 聞こえt「うっさぁぁぁいっ!!」
集中が削がれる!
「なんだ聞こえているんじゃないか! 私を何故投げた! はやくコイツから抜くんだ!」
しょうがない、とりあえず魔剣を黙らせよう
「『取り寄せ』!」
手に魔剣が戻ってきた。戻ってきた魔剣は早速喋りだす。
「なんだ、便利な技能を持っているじゃないか。そういえばさっきも使っていたな」
比較的おとなしくなった魔剣は無視してこの先の事を考える
そうだ!良い事を思いついた
「おいッ!アイアンワーム!こいつを見ろ!」
俺は魔剣を構えてそう叫んだ
「やっとやる気になったか下僕はやく私を振るんだ」
俺はアイアンワームが剣を見ているのを確認すると、明後日の方向におもいっきり魔剣を投げた。
まるで犬に棒きれを投げてやるように。
「うおいッ!だから投げるなと言っているだろうが!」
当の魔剣は綺麗に地面に刺さっている。おお、それだけ見れば伝説の剣にも見えなくもないぞ、魔剣よ。
俺の作戦通り、俺を無視してアイアンワームは魔剣を追いかけていった。
やった!逃げ道があいたぞ!
見るとアイアンワームは魔剣に牙を当てている、だが魔剣の硬度も相当らしく中々かみ砕けないようだ。
「おい……まさか置いて行く気じゃないだろうな?」
「言われなくても置いて行くかよ!『取り寄せ』!」
そう、言われるまでも無くコイツは置いて行かない。魔剣を上司に献上することでどうにかこの騒動を穏便に済ませてもらうんだ。
アイアンワームに追いつかれないよう必死に走る。
しめた!この横穴の終わりが見えてきた!ここの先には現場監督が居たはずだ。
現場監督だ! たすけてっ!
もはや頼もしく見える現場監督の元へ駆け寄る。
「どうしたッ!騒がしいぞ!………ってオマエっ! そりゃアイアンワームじゃねえか! 要らねえちょっかいかけやがったな!」
違うんです! 俺じゃないんです!この魔剣が!
現場監督の誤解を晴らせないまま、現場監督は「おいっ!お前ら逃げろ!」と他の労働者に避難を指示している。
お願いッ! 聞いてッ! クビになっちゃうッ!
そんな俺を放って現場監督もさっさと避難してしまう。
「おい、追いつかれたぞ。いいから奴に一太刀浴びせるんだ」
「ばかっ!誰が死ぬかもしれない様な事をやると思ってるんだよ!逃げるに決まってるだろ!」
もたもたしているうちにアイアンワームに追いつかれてしまった
それに現場監督の姿ももう無い
俺も早く逃げなければ!魔剣の言う事は聞くだけ無駄だ。
「それならこちらにも考えがあるぞ!?ハアァァ!」
魔剣が連続して赤く発光る。
オマエっ…まさかッ!
嫌な予感は的中し、ダンジョン全体が激しく揺れる
ボコォォォボコォォォボコォォォ
そこらの壁から何体ものアイアンワームが俺、いや正確には魔剣を狙って姿を現す。
「ふっざけんなァァァア!」
絶叫して駆け出した。出口まで走り抜けないと確実に死んでしまう!
無我夢中で今日来た道を走り続ける。
見えた! 出口の光だ!
ダンジョンの出口には外の光。希望の光にも見えてきた。
外には逃げ延びたダンジョン労働者達が見える。どうやら逃げ遅れているのは俺一人だけらしい。
ドッゴォォォォン ガラガラガラ
ダンジョンが崩落したようだ。アイアンワームが無理にダンジョン中に穴を掘ったせいだろう。
なんとか無事に脱出することが出来た。
顔を上げると呆気に取られてダンジョンの入口を見る労働者達、現場監督、
………そしてアイアンワームを凌駕するほどの怒りの表情で俺を睨む、上司のダンジョン開拓課がそこには居た。