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異能の目を持つので魔王に嫁ぎました  作者: りすこ
余聞

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骨の独り言 ―勇者からの手紙

スケルの最期のシーンになります。

 

 私はどうしても苦手なものがあるのです。それはズバリ、涙です。


 泣かれると困ってしまうのです。だから、近くにいる人には笑っていてほしい。そのためなら、多少、呆れられても道化を演じたい。変顔だって得意なんですよ? 骨になってしまったので、披露できないのが、悔やまれます。私の変顔、子供に大ウケです。いや、本当に。


 でも、困りました。

 本当に弱ってます。


 私が死ぬとなると、絶対に皆さん泣くでしょうから。


 感動のお別れのシーンなんて見たくありません。だって、泣いちゃいますもん。


 私、泣かれるのも嫌ですが、泣くのも嫌なんです。


 あぁ、そういえば一度だけラナ様の前で泣きましたね。ほら、ラナ様が買い物に初めて行った日のことです。あの時は、笑えるカンジだったので、泣いたんですよね。まぁ、嘘泣きですけど。カラカラ。


 それはともかく、私は困っていました。

 ミャーミャさん用の”女神様像”を作りながら、ため息を吐きます。


 あぁ、アーチは時間がかかりそうなので銅像にしたんです。と、いっても私には芸術センスはないので、簡易版ですけどね。


 ビーバー三兄弟とラナ様がおっしゃる業者さんが来てからおうち作りが一段落してしまったのです。と、いうか、あの方たち、私を見ると怯えるんですもん。ひぇっ、ぎゃっと。見てると面白いですけど、仕事がそぞろになるので、私はいない方がいいと思って銅像作りに取りかかってます。


 頭と顔と巨乳があれば、ミャーミャさんの人間版になるでしょう。なので、せっせと掘っていきます。


「はぁ……」


 おっと、またため息が。


 嫌ですね。ネガティブなんて似合わないんですけど。


 いっそのこと、家出でもしましょうか。

 死に場所を探す動物のように。

 どこか、いい場所でもあればいいんですけどね。

 あぁ、でも、道端とかで倒れていたら、ただの死体ですね。笑えません。


 正体不明の死体。事件の匂いがプンプンします。ついでに探偵でも出て来てくれれば完璧ですね。迷宮入り確実ですけど。カラカラ。


 行き倒れの死体が元勇者なんて誰も気づかないでしょうから、やはり止めときましょう。死んでも世間を騒がせるなんてとんだお騒がせ野郎になりたくはありませんから。



 よし。

 女神像完成です。

 猫耳がついているのはご愛嬌です。



 さて、やることがなくなってしまいました。

 どうしましょう……


 あ、そうだ。手紙をしたためましょうか。


 ほら、私って世話好きですから、皆さんの号泣を助けましょう。カラカラ。


 ……って、冗談ですよ。


 こんな機会でもなければ、本当の気持ちなんて言えませんからね。きちんと、思いを込めて書きましょうか。


 えーっと、ペンはどこですかね。

 ペンはっと……


 おっ。ありました。



 カキカキカキカキ……



 ――――……



 魔王様……あぁ、元魔王様になるんですね。ややこしい。名前を教えてほしいです。いいや、嫁バカ野郎で。


 嫁バカ野郎には、簡単には手紙なんて渡しませんよ。カラカラ。だって、あの人、私が死んだら怒って泣いちゃいますもん。嫌ですよ、男の号泣なんて。だから、気が紛れるように宝探し風です。え? 嫌がらせではないですよ? 決して、楽しんでませんよ? カラカラ。


 でも、宝探し風にするには嫁バカミジンコ野郎を追い出さなくてはいけませんね。


 困りましたね。

 どうしましょう……?


 と、思っていたら、意外な助け舟が出ました。


 ラナ様たちが里帰り出産をするためにお母様のところに行くというのです。ナイスです。お留守番すると言って残りましょう。その間に宝探しです。カラカラ。




 ラナ様が里帰りをされる日、なんとなくこれでお別れになるような気がしました。ホープ様を抱っこしたかったのですが、叶わなそうなので、代わりにお腹を撫でさせてもらいました。


 すると、ぽこんと返事してくださったのです。それに感動しました。あー……目の奥が熱い。なぜ、でしょう。


 誤魔化すようにラナ様に声をかけました。ラナ様は、出してくるなんて、面白いことを言っていたのに、おかしいです。目頭まで熱くなってきました。


 やっぱり、誤魔化すように嫁バカパパと腕組みをしました。


「パパになって戻ってきてくださいよ。あの遊び場で家族で遊んでくださいね」


 心底、そう願っているんですから。

 必ず叶えてくださいよ。



 ラナ様たちを見送っている途中で、空っぽの目から熱いものが流れてきたので、まずいと思って、屋敷に急いで戻りました。


「だからっ……嫌なんですよ……泣くのって……」


 込み上げる思いはなんでしょう。


 悲しみ?

 生への未練?


 違うんです。


 楽しかったから。


 あの人たちとの暮らしが。

 あの人たちと笑えるのが。


 私は幸せだったんです。





 ――あぁ、やはり……お別れ、しとけばよかったですね……





 ひとしきり泣いて、言えなかった思いをもう一度、したためます。宝探しも仕込んで。


 彼らが少しでも笑うように、願いを込めて。



 そして、それは唐突にきました。

 ちょうど、色々、やり終えてひとりティータイムをしていた時です。



 右手に違和感がありました。


 白い、骨だけの手を見つめると、不意に理解しました。



 ――本当に、お別れだ、と。



 ぐにゃりと歪む視界。

 掻き鳴らされる不協和音。


 身構えると、耳元で悪意の塊が話し出した。



 “――可哀想な勇者”



 クスクス笑う声はさっき聞いた声にそっくりでした。


 はっ。悪趣味にも程がありますよ。

 “彼女”さん。



 “――勇者と担ぎ上げられて、あっけなく魔王に殺されて。自分も、他人も希望を取り上げられて、憎い魔王は殺せずじまい。クスクス……”


 “――そんな魔王に同情して、彼らといることが幸せだと自分で自分に言い聞かせて。本当に可哀想……”


 “――魔王は、あなたの優しい心を搾取し続けた。花嫁も……それなのに、あなたは許せるというの? どんだけお人好しなの? バカなの? ねぇ!”


 “――格好つけちゃって、一人でメソメソ泣いて、ざまぁないわ! それでも勇者なの!?”




「言いたいことは、それだけですか?」



 首元を寛げた。

 その拍子に右手が崩れた。

 手がなくなったのを一瞥して、口角を上げる。


「あなたに会えて光栄ですよ。心底、会いたかった。――この手で殺したいくらいにね」


 外を見るため、窓枠に左手をつけると、今度は左手が崩れた。サッシに白い残骸が溜まる。


 “――はっ! 死に損ないが、何言ってんのよ! あんたは、何もできなかった! 勇者になりそこねたのよ!”


 不協和音を聞いていた右耳から音が聞こえなくなった。右目は、もう何も映らない。頭からヒビが入り、ザラザラと白い粉を撒き散らしている。それでも構わない。口はまだ動く。


「だから?」


 “――はぁ?”


「あなたは根本的に思い違いをしています」


 右腕を上げる。その拍子にボロっと、肩から腕が崩れ落ちた。脆い体を気にせず、左目だけは森を見据える。



「私は勇者ですよ」



「絶望する魔王を導き、何も持たない花嫁を導き、あなたのお人形を正気に戻しました。この世界に裏から光を照らしました。そうしてきたという自負があります」



「――これが勇者といわず、なんというのです?」



 右膝がくずれた。バランスを崩し、左膝をつくと、それも崩れる。残った左腕を窓枠にかけて、顔だけは上げる。こんな人の前で俯きたくはない。


 笑ってやろう。


 最大限の皮肉で、今度は私が笑ってやる。



「残念でしたね。あなたの思い通りに何一ついかずに。さぞかし悔しいでしょうね」


 “――うるさい!”


「そもそも、私を勇者にしたのが間違いだったんですよ。計算違いもいいところでしたね」


 “――うるさい! うるさい!”



 さぁ、笑え。


 今の私の笑みは剣と同じ。


 切り裂くように振りかぶれ。



「――ざまぁみろ、です。”彼女”さん」



 金切り声が聞こえ、その瞬間、全身が崩れる感覚した。


 ここまでですか。


 まぁ、いいでしょう。


 言いたいことは言えたので。


 なんか、スッキリしました。


 一矢報いたでしょう。


 さて、(わずら)わしいのはいなくなりましたし。


 ここいらで、幕引きといきましょうか。



 それでは、皆様。



 また、来世で。




 ――――






 ラナ様へ


 まずは、ご出産おめでとうございます。

 ラナ様のことだから、元気な子供を産むと信じています。そして、旦那様の名付けもできると信じています。私の目には幸せな三人家族しか見えていませんよ。


 ラナ様が花嫁に来てくださって本当に良かったです。あなた様は最高の花嫁様です。


 あなた様を中心に私たちは家族となれました。憂いしかなかったはずなのに、あなた様は当たり前のように私たちを家族として扱いましたね。今から思えば、それがどれほど幸せなことだったか……言葉にするのは難しいです。


 あなた様とお会いできてよかった。

 いつまでも、あなた様が幸せで笑っていることを願ってます。



 あなた様の家族 スケルより



 ―――――




 元魔王様へ


 あ、怒ってます? クソ野郎がって。これでも100年の付き合いですからね。あなた様のことなど、お見通しですよ。ははっ……。はぁ、すみません。本当は手が震えてるんです。言いたいことがたくさんあるのですが、言葉になりません。



 だから、宝探しにしました。


 以下の暗号を元に旦那様の書庫に手紙を仕込みました。


 夫婦で協力して解いてくださいね。そして、大いに泣いてください。号泣はウェルカムですよ。


 あ、暗号は「だ、い、す、き」です(笑)


 では、また来世で。


 会えたら、いいですね。



 あなた様の従者 兼 親友 スケルより



 ――――――


 ミャーミャさんへ



 ミャーミャさんへの手紙が一番、困りました。お元気で?っていうのも変ですしね……だから、短いですが、ご了承を。


 いつか、生まれ変わったら、またミャーミャさんに会いに行きたいです。


 その時は勇者としてではなく、ただの村人あたりがいいですね。


 私はあなたのことを覚えてないかもしれませんが、それでも女神となったあなたに会いに行くと思います。そんな予感がするのです。私の予感、結構当たるんですよ?



 それに、それぐらいの奇跡があったっていいと思うんですよね。



 それまで、あなたの顔から笑顔が消えませんように。もし、消えたとしてもまた私が倒しにいくのでご安心ください。村人がいいですが、あなたが我を失ったら、また勇者として馳せ参じましょう。



 それでは、また、いつか。



 あなたの勇者 クラウスより


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