表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能の目を持つので魔王に嫁ぎました  作者: りすこ
最終章 希望を生む

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/71

希望が生まれる

 作業着を着たビーバーが三匹。私の目の前にいる。


 スケルは木が足りないとかで森に行ってしまったので、おうちの近くには、私一人だけだ。その間にこのビーバーがやってきたわけだ。


 作業着の格好といい、お風呂やキッチンの発言といい、もしかして水回りの作業員の人?


「ん? なんだ? 下ばっかり見て、俺の靴になんかついているか?」


 それではっとした。これは大きさが違うタイプのやつだ。どうしよう……鏡の前に立ってもらわないと、目線が合わない。


「ん? あんた、妊婦さんかい?」

「え? はい」

「そりゃあ、いけねぇや。気持ち悪くはないかい?」

「そこの木材にすわりなさいって」

「ほらほら早く」


 ビーバー三匹に促されて、休憩用に置いてあった木材に腰かける。どうやら、とってもいい人たちのようだ。


「妊婦さんがこんな所で何してるんだい?」

「あ、えっと……家作りの手伝いをしてます」

「おなかが大きいのに?」

「そんなことをさせるヤツはどこのどいつでい」


 キーキー怒りだすビーバーにどう説明しようか迷う。


「ありがとうございます。でも、好きでやっているので大丈夫ですよ」

「いけねぇ、いけねぇや」

「そうだよ、お帰りよ」

「命を育ててるんだ。ゆっくりしなよ」


 そう言って、今度はワイワイ騒ぎだす。どうしたものか困っていると、スケルがやってきた。


「おや? その方々は?」


 スケルの声に三匹のビーバーは殺気立つ。


「おめぇか! 妊婦さんを働かせているやつはっ! ……って、ホネェ!?」

「もし転んだらどうするんだっ! ……ってガイコツ!?」

「そうだ! そうだ!……って、モンスター!?」


 スケルを見て一気にビビりだすビーバーたち。そんな様子をやっぱり気にすることなく、スケルはあぁ、と声を出す。


「もしかして、ミャーミャさんが言っていた業者様ですか?」


 ビーバーたちは、スケルが話すたびに、ひぃぃっと声を出した。笑っちゃいけないと思うんだけど、全く同じ驚き方が可愛らしくてつい、クスリと笑いが零れた。でも、このまま怯えられたら、会話にならない。それはスケルも感じてくれたのか、「ミャーミャさんを連れてきますね」と言って、森に入っていった。


 ホッと胸を撫で下ろすビーバーたち。額の汗を拭うしぐさまでまるっきり同じタイミングだ。


「妊婦さん、ありゃあ、なんだい?」

「なぜ、ガイコツがしゃべってるんだい?」


 くるりとこちらを見たビーバーたちに、説明をする。


「あの人はスケルですよ。私の大事な家族で、このうちを作ったのもスケルなんですよ」


「えぇ? 家族だって?」

「家を作ったって?」

「……そりゃぁ、驚いてすまなかったなぁ」


 一斉にペコリと謝るビーバーに首を振る。


「いいえ。こちらこそ、仕事に来てくださってありがとうございます。誰も引き受けてくれなくて、困っていたので」


 そう言うと、ビーバーたちは首を振る。


「いいってことよ。家を作るのは俺らの仕事だしな」

「そうそう。風呂がないとか困るだろ?」

「うんうん。なんたって、ボインちゃんの頼みだしな」


 んん?

 今、下心が思いっきり見えたような。


「皆様、こんにちは。遠いところをわざわざありがとうございます」


 ニコニコとやってきたミャーミャにビーバーたちの顔がデレッとだらしなくなる。彼らの視線の先にあるのは……胸元だ。


「いいってことよ。仕事だからな!

 でへへ」

「そうだよ。わざわざ、足を運んでくれたのは、ミャーミャちゃんなんだからよ。むっふむっふ」

「今日も綺麗だね。あまり、そんな格好をしちゃいけないよ。悪い男に捕まっちゃうよ? ゲヘヘ」


「ふふっ。皆さんが来てくれるというので、張り切ってめかしこんで参りましたのよ」


 ミャーミャがそう言うと、ビーバーから歓声が上がる。目がハートマークになってそうなほどの歓声だ。()せん。


 やはり胸か。胸が好きか。私も好きだよ。自分にはないからね! こんちくしょう。


「ラナ様。ここは私にお任せください」

「あ、うん」


 そう言うと、ミャーミャはすっと瞳を細め、小声で私に言う。


「大丈夫ですよ。あの方たち、ちょろいので」


 ひぃぃ! 悪女だ! 本物の悪女がここにおる!!


 冷や汗をたらし、固まる私にミャーミャは今度はにこっと愛らしく微笑む。そのギャップに言葉に失い、私は森の中へと入っていった。



 手玉に取られまくっているビーバーたちは仕事はよくしてくれた。仕事が終わるとミャーミャに抱きしめられた、うっひょーい!と目をハートマークにしていた。


 そんなこんなでお母さんたちのおうちができた。


 そして、またも意外なことが起きた。


 森の外で暮らすようになったお母さんが保護官にアプローチしてきたのだ。


「いつもご苦労様です! モンスターの捕縛なんて皆様、大変、勇気のある方なのですね! 尊敬しちゃいますわ! さぁさぁ、お疲れでしょうから、お茶をどうぞ! あ、クッキーもありますよ? 甘いものは好きですか? しょっぱいもの好きなら塩クッキーも作りますので、好みを教えてくださいね!」


 と、いつものように息つく間もなく喋り倒していた。森の外に大きなテーブルを置いてティーパーティまで用意してある。保護官の人々は、なんだこの人は……と面食らい最初は断っていた。


 しかし、お母さんはめげなかった。


「ふふっ。いつか皆さんとお茶できたらいーわー」


 そんな風に笑うのだ。それを見て、感動すると共にちょっと落ち込んだ。


 だって、私が色々、考えてもできなかったことをお母さんは易々とやってしまう。お母さんの行動力が羨ましく思えた。


 お母さんみたいな人が、もしも旦那様の花嫁だったら……もっと明るく楽しい日々にできたのかなと、思ってしまう。私は社交的ではないし、愛想もない。

 なんだろう。情緒不安定だ。おなかが大きくなってきて、身動きがとりづらいせいだろうか。ネガティブモードだ。うおおお。


 そんな気持ちを気づいてくれたのは、やっぱり旦那様だった。夜、またもお呼びがかかった。つんのめりそうなおなかを抱えて、横で旦那様が歩いている。むすっとしている私に旦那様は手を繋ぎながら、覗き込んでくる。


「ラナ、どうした? 変な顔をしているぞ」


 変な顔とは失礼な。


「……ちょっと物思いに耽っているだけです」


 つい可愛げのない態度をとってしまった。ダメだな。甘えている。


「なぜ、物思いに耽る? 体調が悪いのか?」


 本当に分からないという風に旦那様は聞いてくる。私は答えられなかった。だって、こんなの八つ当たりだ。嫌な感情を撒き散らすわけにはいかない。


 ため息を吐かれて、歩き出す。そのまま、旦那様の部屋に着いて、ゆっくりソファーに座らされた。自分は座らず、床に膝をついて、顔を覗き込んでくる。両手を繋がれ、どうした?と優しい瞳が訴えかけてくる。気遣うような態度をされると弱る。モヤモヤを吐き出したくなるから。


 私はふぅと、一息吐いてなるべく落ち着いて口を開いた。


「ちょっと、落ち込んでいました」

「落ち込む?」

「はい……お母さんみたいに、なんでも明るく楽しそうにできる人なら……旦那様も……」


 そう言いかけて、言葉に詰まった。旦那様が見たことがないくらい怒った顔をしていたからだ。


「お母さんのような人が俺の花嫁ならよかったとでも言うのか……?」


 うっ。なんか、どす黒いオーラを感じる……言葉にせずともなんか伝わってくる。――まだ、俺の好きが足りないのか?と。


 はぅっ! なんか地雷を思いっきり踏んだ気がする。まずい、爆発する!


「いやっ……あのっ……ごめんなさい」


 冷や汗をかきながら、とりあえず謝る。でも、地雷を踏んだ後でどうしようもない。すでに遅い。遅すぎた。


「ラナ」

「は、はいっ!」


 びくりと震えると、意外にもため息を吐かれた。


「二度とそんなことを考えるな。俺の花嫁はラナだけだ。ラナじゃなきゃ、俺がダメだ。ダメになる。また絶望の淵に追いやられる。もう、ラナなしじゃ生きられない。わかってくれ」


 強烈な愛の告白だった。ちっぽけな妬みを吹き飛ばすような強烈な……


「わかりました……」


 顔が熱くて、はくはく息を吐きながら、どうにかそれだけ言うと、旦那様が幸せそうに笑った。



 ◇◇◇


 ホープは順調に育っていった。すくすく、最近ではどんどこおなかを蹴るようになっていた。あとは、時々、ぐおっと、締め付けてくる。いたたっ。これがわりと苦しい。


 十月十日。予定では、あと一ヶ月ほどで生まれる。


 その間に、私はせっせと人形作りをしていた。ホープ用にと思ったのだが、これは私用だ。ごめんね、ホープ。


「できた……」


 作り終えた人形に思わず微笑む。我ながらいい出来だ。


 青いボディに、角が生えて、つり目の魔王人形。モデルはもちろん、旦那様だ。


 それに向かって、私は名前を呟く。

 何度も何度も、口が勝手に動くまで。



 出産したら、旦那様は死に向かう。

 意識がもうろうとしてても、ちゃんと言えるように私は練習を繰り返した。




 そして、出産まで二週間という日数になった。


「念のために、お母様のおうちで出産をしましょうか」


 ある日、ミャーミャがそんな提案をしてきた。


「もう、私が魔王様を作ろうとか思うとは思いませんし、悲劇も起こらないでしょう……しかし、”彼女”から少しでも離れた方がいいかもしれません」


 元々、里帰り出産を希望していたし、お母さん達の家の方がいいかもしれない。


「そうだね」


 そう言うと、スケルが声を出す。


「じゃあ、私はお留守番してますね。右往左往している魔王様にチョップをかます係でもいいですが、男手は必要なさそうですし」


 スケルはカラカラ笑っていたが、まぁ、近くだしねということで、お留守番をしてもらうことにした。



 陣痛がいつ起こるか分からないタイミングで、私と旦那様とミャーミャはお母さんの家に行くことになった。ミャーミャは子供を取り上げてきた経験者なので助産師さん代わりだ。


「じゃあ、スケル。行ってきます」


 そう言うと、スケルは腰を折って、私のお腹を優しく撫でた。ぽこんと、返事をするようにホープがお腹をたたく。


「これは元気なお子さんだ。きっと、いい子に育ちますよ」


 ははっと笑うスケルにぐっと力拳を作る。


「いい子だろうから、頑張って出してくる」


 そう言うと、スケルは吹き出した。カラカラと骨がぶつかって響く。


「そうですね。出してきてくださいね」


 その言葉に頷いた。次にスケルは旦那様の肩に腕をかけた。


「パパになって戻ってきてくださいよ。あの遊び場で家族で遊んでくださいね」


 旦那様は重いと文句を言いつつ「わかってる」と言った。


 じゃーねーと手を振って歩き出す。



 途中、風がふわりと頬を撫でた。後ろ髪を引かれるような感じがして、振り返るとそこにスケルはいなかった。


 もう、おうちに入っちゃったのかな?


 そう考えると、ズキンと感じたことのない痛みがくる。思わず顔を歪めた。


「ラナ?」


 旦那様の手をとる。


「陣痛がきたかもです……」


 その言葉に抱っこされた。旦那様の腕の中で、ふぅふぅと息を吐き出す。痛みが周期的にくる。そして、そのまま、私は出産を迎えたのだった。






「ぎゃあ、うんぎゃあっ!」


 遠のく意識の中で、元気な声がする。赤ちゃんの声だ。そんなに元気な声を出せるんだと、妙に感動してしまう。でも、私はフラフラだ。声もでない。


 二十時間の悪戦苦闘の末、ホープが生まれてきてくれた。ぼんやりする視界で、タオルに包まれて泣き続けるホープを誰かか抱えている。


 なんか危なっかしい手つきだ。


「ラナ……」


 元気な声の中に優しい声。


「っ……男の子だぞ。よく……頑張ったな……」


 今度は涙声。

 感極まった声にこっちまで泣きたくなる。


 そっか。よかったですね。

 ホープって付けられますね。

 そう言いたかったのに、口が動かない。


 名前を付けないと……早く……


 遠のく意識の中で、優しく頭を撫でられた。


「少し休め」


 こんな時は甘やかしてほしくないのに……名前を言わないと……



 手の心地よさを感じながら、私はそのまま意識を手放した。


あと二話で、本編が終わります。


次は魔王視点と後半にラナ視点です。

余聞の雰囲気があり、ダークさが混じってます。暗くはないですが、不快感を煽る言葉が出てきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ