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異能の目を持つので魔王に嫁ぎました  作者: りすこ
最終章 希望を生む

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家族の集い

 魔王ちゃんの森が見えて来たってどういうこと? お母さんたちはこっちに向かっているってこと??


 いてもたってもいられなくて、足が勝手に走り出す。後ろで、旦那様の声が聞こえたけど振り返らなかった。


 ――お母さん! お父さん!


 駆けている途中で、固いものに手を捕まれた。そのまま引き寄せられ、ひょいっと持ち上げられる。やたら固いものに。


「いきなり走ったら、赤ちゃんがびっくりしますよ」


 スケルは軽々私を横抱きにして走る。それをポカンと見つめていると、後ろで旦那様の追いかけて来るのが見えた。舌打ちしそうなくらい不機嫌な顔で走っている。でも、全然、スケルの方が早くて、旦那様は小さくなっていく。


 やがて、森を抜けて、町へ続く道に出た。スケルはそのまま、スピードを落とすことなく走り続ける。そして、見えた! お母さんと、お父さんだ!


「お母さん! お父さん!」


 大きな声で叫ぶと、ふたりは一度、足を止めた後、こっちに向かって走ってきた。


「ラナちゃん!?」


 お母さんが走りながら近づき、青ざめて絶叫した。


「えええ!? 魔王ちゃん、もう死んじゃったの!?」


 ……あ、それは違うのよ、お母さん。



 ◇◇◇


 落ち合った私はスケルにそっと降ろされた。


「よかった。お母さん」


 少し涙ぐみながら言うと、まだ青ざめているお母さんが叫ぶ。


「ラナちゃん、魔王ちゃんどうしちゃったの!? 死んじゃったの!? 死んじゃったの!?」

「あ、ううん。生きてるよ」

「だって、骨よ! ガイコツよ! いい男が骨しかなくなっているじゃない!」

「えっと、それは……」


 パニックになっているお母さんになんて説明しようか迷っていると、本物の魔王が息を切らせて走ってくる。


「はぁ、はぁ……お久しぶりです」

「ええ!? 魔王ちゃん!? じゃあ、こっちは偽物!?」


 あ、うーん。それも違うんだけど……


 どうしようか迷っているとスケルが丁寧に二人にお辞儀する。


「初めまして、お母様、お父様。私、魔王様の従者のスケルでございます」


 そう言うと、二人はポンと手を叩いた。タイミングばっちりに。


「もしかして、ラナを送り届けてくれたガイコツの人かな?」

「ええ、よくご存知で」

「新聞で書いてあったんだよ。初めまして、スケルさん。僕はラナの父親のフォルトだよ」


 そう言って、お父さんは手を差し出す。スケルは掌を驚いたように見つめ、口元に笑みを浮かべる。そして、その手を掴んだ。


「間違いなくあなた様はラナ様のお父様ですね。宜しくお願いします」


 握手を交わしていると、お母さんがぴょんと弾みながら、二人の手に自分の手をのせる。


「私はチアよ! よろしくね! スケルちゃん!」


 明るいお母さんの声になごやかな空気が流れる。


 ともかく二人が無事でよかった。二人と並んで森に向かって歩きだす。


「電話に出ないから心配したのよ」

「あぁ、ごめんね。急にこっちに来ることにしたから」


 お父さんが穏やかに言うと、お母さんがとんでもないことを言い出す。


「そうなの! おうち、燃やしちゃったのよ! ごおっとね」


 ………………は?


 おうちを燃やした? なんで?


 バクバクと心臓が嫌な音を立てている。唖然とお父さんを見つめていると、手を繋がれた。久しぶりだ。小さい頃はよく繋いでもらってたっけ。


「ラナ」


 見上げるとふわふわの猫耳が揺れるのが見えた。


「お父さんたちは、自分たちで選んでここに来たんだよ。何も気に病むことはないよ」


 大好きな優しい笑顔だった。この顔を見ると、いつも安心した。


 私はぐっと罪悪感を飲み込んだ。ごめんなさいと言いたかったけど、きっと、そんな言葉を望んでないと思うから。痛みを心にしまった。代わりに感謝を口にしよう。心を込めて。


「お父さん、来てくれてありがとう。とっても嬉しい……」


 ちょっと涙声になってしまったが、お父さんはまたにっこりと大好きな笑顔になった。



 ◇◇◇


 森の前まで来ると、お母さんはここでいいわよと言った。


「え? だって……」


 何にもないのっぱらだよ、ここ。

 キョトンとしていると、お母さんはふふんと得意げに荷物をほどきだした。


「じゃっじゃじゃーん! テント持ってきたの! これでおうちのことは万全よ!」


 いや、待って。どこが万全なのだ。


「お母さん。テントだけじゃ、生活が不便よ」

「そうなの??」

「寝泊まりはいいとして……食事は? お洗濯は? お風呂は? お母さんたちをここに置いておけないわよ」


「食事は火を起こせばいいわ! お洗濯は……川は? 川はないの? 川があれば大抵のことは大丈夫よ!」


 川って……そんなサバイバルな生活を両親にさせるわけにはいかない。


「川は近くにあるかもだけど……あったかいお風呂に入らないと風邪を引いちゃうわよ」

「大丈夫よ! お湯を沸かして、お風呂の代わりになるようなものを作ればいいわ!」


 えー……ダメだ。心配すぎる。


「そんなこと言わないで。屋敷に……」


 そこまで言ってはたと気づく。私が最初にこの森に入った時、気持ち悪くなった。お母さんたちは大丈夫? あんな風に気分が悪くなったりしないの?


「旦那様、お母さん達が森に入っても大丈夫ですか? 体調を崩したりしませんか?」

「大丈夫だろう。二人は魔力が強い。入っても森に殺されないだろ」


 森が殺す……なんだか、ディープな言葉が出たが。とりあえず、よかった。


「お母さん、屋敷に行こう。その方が私も嬉しい」


「でも、ラナちゃん達の新婚ラブラブを邪魔なんてできないわ! 母親がうろうろしているなんて、ちゅーの一つできやしないじゃない! ダメよ! 結婚生活に親が介入したら離婚の元なの!」


 ええー……

 そんなこと気にしなくていいのに。

 お母さん、こう見えて頑固だからな。

 どうしよう……


「なら、ここに家を建てましょう。その間は屋敷の方に住まわれては?」


 スケルが提案する。


「スケルちゃん、ナイスアイデアだわ!」

「お褒めに預かり光栄です。それに、せっかく来たのですから、しばらく屋敷に居てください」


 スケルはカラカラ笑いながら言う。


「二人はものすっご――――――くラブラブなので、ご両親の前でも関係なくイチャついてますよ」


 スケル!? 何を話しているんだ!?


「あら、そうなのね! よかったわ。魔王ちゃん! しばらくお世話になるけど、私たちのことは空気と思ってくれてていいからね! ラナちゃんとイチャイチャしてね! 約束よ!」


 旦那様が微妙そうな顔をしている。気持ちはわかる。これでは逆にイチャつけない。……ん? でも、いいのか。旦那様の過剰なスキンシップまみれから逃れられる? ラッキーかも。


 それは置いておいて、家を建てるって言ってもどうするの? 大工さんに頼むの? 頼めるの??


 列の最後にいたスケルに声をかけた。


「ねぇ、スケル。おうちを作るって、大工さんに頼む気なの?」

「いえ、私があらかた作りますよ」


 は?


「スケルって、大工仕事できるの?」

「最近の趣味です」


 趣味って……不安しかない。


「大丈夫? 家を作るのって大変そうだし。水回りはさすがに専門の人じゃないと水漏れしちゃうんじゃない?」

「あぁ、そうですね。新居なのに欠陥住宅になったら、笑えませんものね」

「そうだよ。水回りは専門の人に頼もう」

「うーん。やってくれますかねぇ。ほら、魔王様が怖くないと周知されたといっても、実際に森を見たら怖いですし。ビビりません?」

「そうだね……」


 引き受けてくれる業者さんがいればいいけど。


「片っ端から電話をするしかないんじゃない? どこかにあるよ、きっと」


 そう言うと、スケルはふっと笑った。


「そうですね。どこかにはあるはずですね」


 それに微笑んでいると、前でお母さんの絶叫が聞こえた。


「えええええええええ!? 魔王ちゃんが、魔王になってる!!」


 え? お母さん。今さら何言っているの? 旦那様は最初から、魔王だよ?


 森に入った旦那様を指差してお母さんがプルプルしてる。お父さんも唖然としてる。


「お母さん、どうしたの?」

「ラナちゃん! 魔王ちゃんが、魔王になったの! 青いの! 角があるの!」


 そうなの? 私は最初からそれしか見てないからよくわからない。


「そういえば、森の中では魔王様は魔王の姿ですね」

「え? そうなの?」

「ええ、森の外に出ると人間になりますけど」


 知らなかった!


「教えてくれたっていいのに」

「えぇ~。でも、ラナ様は最初から魔王様は魔王しか見えないんですよね? 教えてもあんまり意味無いじゃないですか」


 確かに……意味はないけど。

 なんか、釈然としない。


 腕組みをしていると、またもお母さんが叫んだ。


「ねこー! ねこちゃんの手になっている!! 肉球!!」


 森に入ったお母さんが驚いて自分の手を見つめている。やはり、私は猫姿にしか見えてないので、驚きが全くわからない。でも、そうか。森の中に入ると、モンスター(ほんらいのすがた)になるのか。


 ……ん? じゃあ、私もモンスターになっているのか? ってか、そもそもモンスターにしか見えないか?


 自分の手と足を見る。普通の人間ぽい。ということは、頭が違うの??


 ――はっ。まさか、魚頭ではないよね!?


 畑で起きた酸欠シーンを思い出す。自分の姿を魚頭に変換して……


 いやぁぁぁ! 色々、おかしいわ!


 旦那様が魚好きとか? そんな姿でも許せるってこと?? ……だったら、凄い。感動する。愛が深すぎるわ。


 ブツブツ考えこみながら、森に入る。お母さんが興奮して、私に近づいてきた。


「凄いわ、ラナちゃん! ここではラナちゃんの目になれるのね! すってきー!」


 キャーキャーとはしゃぐお母さんに目を細める。


「あ、でも、ラナちゃんは変わらないのね」


 んん?


「変わらないの? 私って」

「うん! モンスターでも可愛いラナちゃんのままだわ! やっぱり、ラナちゃんは凄いわ。モンスター姿も可愛いなんて!」


 ニコニコと笑うお母さんに、そういうものかと思う。人型のモンスターもいるよな。とりあえず、魚頭でなくてよかった。色々、一安心だ。


 そのまま、お母さんは興奮しながら、森を歩いていた。森がしゃべってるわ! とか、空が灰色じゃない! とか。魔王ちゃんの森は面白いわねーとご機嫌で歩いている。


 そんな姿を見ていると、スケルがカラカラ笑いながら、私に話しかける。


「いやぁ、さすがラナ様のお母様ですね。メンタル最強です」


 本当にそう思う。

 お母さんは無敵だ。どんなことでも面白おかしく笑ってしまう。


「自慢のお母さんだからね」


 そう言うと、スケルはまたカラカラ笑った。



 ◇◇◇


 屋敷に着くとミャーミャが待っていた。


「遠いところ、ようこそいらっしゃいました。ラナ様のお母様、お父様。私は世話役のミャーミャと申します」


 ペコリと頭をさげたミャーミャに、お母さんはじっと見た。


「フォルト! ちょっと、ミャーミャちゃんの横に立って!」

「ん? こうかい?」


 お父さんがミャーミャの横に立つ。おお。こう見ると、そっくり。目の数と、色が違うだけだ。


「やっぱり! 似てるわ! ねぇ、ねぇ、私はどう? どう?」


 ミャーミャを挟んで三人が並ぶ。猫が三匹。可愛い。可愛すぎる。写真に撮りたい。あ、でも、写真にとったら私は人間の姿になるから見れないか……残念すぎる。


「おおっ。そっくりですね」

「でしょでしょ! ふふっ。私たちって姉妹みたいね。ミャーミャちゃん、宜しくね! 私はチアよ。そっちは、フォルト!」


 ミャーミャはそんなお母さんに嬉しそうに笑った。


「えぇ。宜しくお願いします」




 その後もワイワイと時間は過ぎていた。お屋敷は無駄に広いから、お母さん達の過ごす部屋もある。


 私たちは、恥じらいながらもお母さん達に子供ができたと告げた。お母さんはすっごく驚いて一時間ぐらいずーっと、興奮しておめでとうと、よかったね喋っていた。お父さんも喜んでくれた。


 そんな二人を旦那様があたたかく見つめている。スケルも。ミャーミャも。

 コモツンもいればよかったんだけど……

 でも、きっと、勝手にしろい!って言って、舌を出していることだろう。


 コモツンは今度は幸せな家族のところで生まれて、ベタベタに甘やかされればいいと思う。それこそ、うるさい!って照れながら怒るくらいに。



 その夜は賑やかだった。

 家族が揃うっていいなーって、改めて思う幸せな夜だった。



 ◇◇◇



 夜はお母さんとお風呂に入った。あらいっこしましょ!と言われたのだ。


 そこで私は疑問に思っていたことをお母さんに聞いてみた。


「ねぇ、お母さん。赤ちゃんができると、体調が悪くなるの? 特に初めの頃は」

「え? うーん、そうねぇ。ふふっ。お母さんは、元気だったわよ? ラナちゃんが出来て、幸せで幸せで。お花がポンポンって頭に咲いちゃうくらい!」


 お母さんらしい。

 でも、そうか。やっぱり、元気な人もいるんだな。


「そっか。旦那様がね、妊娠初期は体調を崩しやすいから無理するなって言うんだよ。だから、暇しちゃって」

「まぁ、ふふっ。魔王ちゃんは、ラナちゃんが大好きなのね。よかったわ。そんな旦那様の所にお嫁さんにいってくれて」


 その「よかったね」は心に沁みた。

 今までのことを思い返すと、感慨深い。


「うん。私も旦那様の所に嫁げてよかったと思っているよ」


 そう言うと、お母さんは太陽のように笑った。



 お風呂から上がって、頭を乾かす。私がやるー!とお母さんが言うのでお任せしている。鏡の前で、丁寧に乾かしてもらっていた。


「え!? ラナちゃん! ここに傷があるわ! ちょっと、大丈夫!?」


 こめかみの所を指差す。鏡を覗きこむと何にもない。


「そう?」

「うんうん! 前髪で気づかなかったけど、ここに傷があるのよ! 大丈夫? 痛くはない!?」

「え? ううん。大丈夫だよ。痛くない」

「よかったー」


 鏡を見るとやっぱりない。なんだろ? ま、いっか。痛くともなんともないし、第一、見えないし。


 お母さんはニコニコと笑って髪の毛を乾かしてくれた。



 寝るときはお母さんが一緒に寝たいと言ったので、べったりくっついて眠った。


「ふふっ。またラナちゃんと一緒に寝れるなんて幸せだわ。猫さんもいらないし」

「猫さん?」

「ラナちゃんにプレゼントした猫さんのぬいぐるみ! 持ってきたのよ。明日、見せるわね!」


 猫さん……

 そうだ。ちっちゃい頃、ずっと一緒だった。私の最初のお友達。まだ、持っててくれたんだ。


「お母さん、ありがとう。大事にしてくれて」

「ふふっ。ラナちゃんも、赤ちゃんにぬいぐるみを作ったら? 可愛いの! 一緒に作りましょうね」


 それにうんと頷いた。



 家族が集まって、私の妊娠生活は賑やかで楽しく過ぎていった。


以前、コメントでラナのモンスター姿はなんだろう?というので、今回、触れてみました。疑問に持ってくださってありがとうございます。


すみません!日曜日と更新とありましたが、前倒しで更新です。活動報告書いたのに、更新しないのにもやっとしたので。明日の更新はありません。

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― 新着の感想 ―
[一言] むぅん? ラナの実体は、猫ではないようだけど、魔王みたいにかなり実体に近い人型なのかな?
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