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異能の目を持つので魔王に嫁ぎました  作者: りすこ
余聞・森の外

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両親 ―守りたいものは ※イライラ注意

聖女村騒動の話です。イライラするしこりが残る話です。視点はラナの父親になります。

 人は誰かを(さげす)むことで、自分はまだマシだと思うことがある。小さな不幸を他人に押し付けて、覆い隠すときがある。それを否定するつもりはない。自己防衛だと思うからだ。


 悪意からは逃げればいい。そうすることで穏やかな自分の生活が守れるなら、逃げるのは恥ずべきことではない。


 僕らはずっと村人から嫌悪され、逃げてきた。誰にも会わず、家族で過ごす日々。それは外側からみれば箱庭のようで、完璧な幸せとはいえないかもしれない。


 だが……それでも、本当に守りたいものを守れるなら。僕は守りたいものを持って逃げようと思うのだ。



 ◇◇◇



 チアと話をした。ラナと魔王くんのことだ。子供を生むと魔王くんは死んでしまうこと。だが、名付けと呼ばれる魔法をかければもしかしたら、 彼は蘇生できるかもしれない。一か八かの賭けだ。そして、二人は子供を望んでいることも。


 チアは黙って聞いていた。そして、涙ぐみながら言ったんだ。


「ラナちゃんと魔王ちゃんが選んだ道なら、私は応援する! 二人が覚悟したんなら、私も覚悟しておばあちゃんになるわ!」


 キラキラと太陽の笑顔でそう言う。


「うん。僕も覚悟して、おじいちゃんになるよ」


 彼らの覚悟を僕らは受け止めた。痛みを孕みながらも、僕らも彼らの作る道を進もうと思う。




 聖女村にしようという村人たちとの話し合いは平行線を辿った。元々、折り合いの悪い人々だ。話し合いがまとまるわけがない。話し合いの席に着いているのは僕だけだ。まぁ、チアが出てくると進まない話し合いが、さらに混乱するので、家で待ってもらっている。


 と、いうのは建前で、愛する彼女の笑顔を曇らせたくないというのが本音だ。


「何度も言いますが、聖女村にするのは反対です。これだけは、譲れません」


「しかしだね、フォルトくん。聖女村という名前をつければ、それだけで村の知名度があがる。観光客だってくるだろうし。そうだ。君たちの家を聖女の生まれた村として、保存をしよう! 君たちには他の立派な家を作ってあげるからさ!」


「お断りします。僕らの家は家族で過ごしたあの家だけです」


 村長をはじめ、皆が頑固者とヒソヒソと言い出す。その雑音を聞きながら、僕はキッパリと言った。


「あの家を保存してどうするのです? 村から離れ、忽然とある家を見たら人はどう思うんでしょう。なぜ、聖女の家が人里から離れているんだと疑問に思うはずです」


「そ、それは……あれだな、その……」


「あなた方は観光客に説明をするんですか? 聖女と呼ばれるようになった娘を嫌悪し、孤立させたということを」


 そう言うと、村人たちは黙る。


「し、神秘的だから、我々は近づけなかったという風に説明すればいいっ!」


 一人の村人は声高に叫んだ。


「そうだ。聖女は不思議な力を持つ子供だったから、我々は恐れ多くて近づけなかったんだ!」


 そうだ、そうだと同調の声。実にくだらない。


「フォルトくん。わかってくれ。この村は取り立てなんの特産物もなく、若者の流出も激しい。このままでは、村がなくなってしまう。君も娘の故郷を無くすのは忍びないだろう」


 故郷? 故郷と呼べるような場所ではなかった。あたたかさも何もない場所だった。


「村の存亡と、娘のことは別問題です。それを同時に考えないでください」

「君は、村に対しても何かしようとは思わないのかね! だいたい、君たちが娘を囲ってしまったから、我々は彼女の素晴らしさにも気づくことなく……」


「いい加減にしてください!」


 バンと机を叩いた。温厚な僕でも許せないものがある。


「娘を嫌悪し、気持ち悪がったのはあなたたちでしょう! 娘に手を差しのべたことが一度でもありますか!」


「そんなことを言われても、ラナちゃんも我々を嫌悪していたではないか! いつも青ざめて、にこりともしない娘を見て、どう手を差し伸べればよいのだ!」


 村長の言い分はわかる。わかるが、それとこれとは聖女村にする話と違う。


「娘の態度にも問題があったのは認めます」

「ならっ……」

「しかし、娘の態度と聖女村にすることとはまた別問題です」

「頑固者め! 少しは我々を助けようとは思わないのか!」


 恩知らず! 恥さらし!

 村人たちは口を揃えてそう言う。だが、僕は変わらない。守りたいものを守るだけだ。


「誰がどう言おうと、娘の名を使うのは断固反対します!」


 声高に言うと、わからず屋と殴られた。僕は殴り返さなかった。切れた唇から血が出たが、それを拭って睨み付ける。殴るつもりはなかったのだろう。ついカッとなっての衝動だ。僕を殴った相手は何も言わずに視線を泳がせた。それを見て、僕は席を立った。




 家に戻ると、チアに叫ばれた。


「ちょ、ちょ、ちょっと!? え!? なに! なんで!? なんで、怪我してるの!?」


 慌てて駆け寄ってきたチアにほっとする。チアは救急箱ー!と叫んで、転んで、救急箱を落として、中身を拾って、また転んだ。


「チア、大丈夫かい?」

「私のことはいいのよ!! ほら、消毒しなくちゃ!」


 チアは僕を座らせて、消毒液をしみこませたガーゼを口元にポンポンとあてる。少ししみる。懸命な姿を見ながら、僕は口を開いた。


「チア……家を捨てようか」


 チアは大きな目をキョトンとさせている彼女に微笑む。


「魔王くんがね、僕らに森にきて欲しいと言っていたんだ」


 魔王くんが言ったことを思い出す。

 もしかしたら、彼はこうなることを見越していたのかもしれない。


『――森に来て下さい。こことは違って居心地は悪いですが、少なくとも悪意からは逃れられると思います。俺は、ラナが大事です。両親であるあなた方も大事です。醜悪なものに晒すのは、我慢ができません』


『――ですが……それは大事な家を無くすということになります。辛い選択をさせます。ですが、考えてみてください。待ってます』


 彼が表だって出てこなかったのも僕たちの立場を思いやってのことだろう。一緒に戦ってほしいとは思わない。子を守るのは親として当然だと思うからだ。


 だが、力が及ばず、逃げるという選択をしようと思う。それを少し情けないなとは思うが、恥ずかしいとは思わない。


「この家を捨てて、ラナや魔王くんの元に行こうか」


 ここには大事な思い出が詰まっている。家族のあたたかな時間がこの家には染み付いている。それを捨てる。チアはどう思うだろうか……


 チアはいつもの調子で直ぐ様、立ち上がり、バタバタと走り出した。キョトンと見つめていると息を切らせながら、チアが何かを抱えて走ってきた。


「フォルト! テントならあるわ! いつでも行けるわよ!」


 汗だくになりながら、彼女は太陽の笑顔で笑う。それに、ははっと笑ってしまった。


「テントを持っていくのかい?」

「そうよ! 新婚のラナちゃんたちのお邪魔になるじゃない! ラブラブなあまーい空気を私たちが邪魔したらいけないわ! でも、家がないのは困るでしょ? だから、テントよ! テントさえあれば、私たちは暮らしていけるわ!」


 フンと鼻息荒く言うチアにクスクス笑ってしまった。


「そうだね。テントを持って行こうか」


 そう言うと、チアは笑う。そして、予想外のことを言った。


「ねぇ、フォルト。家を出る時に、この家を燃やしましょ」


 え? 燃やす?


 突飛な意見にチアはどこまでも晴れやかに笑った。


「大丈夫!大事なものは全部、手の中にあるわ! だから、どーんと燃やすの!」


「私たちの大事なものを、彼らに奪わせたりしないんだから!」


 晴れやかな声は静かに僕の心に響いた。


 チアには家の保存のことを話していない。だけど、もしかしたら、他の村人から何か聞いたのかもしれない。


 家を燃やすか……


 苦労して直した家を見つめる。耳を澄ませば、ラナの小さな時の声が聞こえてきそうだ。大事な、僕らの家。


「うん。そうだね。怪我しないように燃やそう」


 大事だから。彼らに奪わせない。絶対。



 それから僕らは夜、家の前に立った。荷物は少なかった。最低限の荷物に、チアの手を握りしめる。


 思い出の品は焼け落ちてなくなってしまったが、大丈夫。本当に守りたいものは手の中にある。


 それに、手を繋げば、どんな道でも迷うことはない。そう信じている。


 赤く燃える家を見つめた。何も残らないように燃える家を見つめていると、遠くで騒がしい声が聞こえた。


 その声が近づく前に、行こうかと、チアに声をかけた。



 チアはご機嫌だった。どうしたの?と話しかけると、彼女は笑って言う。


「ラナちゃんに作ったぬいぐるみを持ってきたの。へたくそなんだけど、私が作ったものよ! 猫さんのぬいぐるみ。ラナちゃんが見たら、喜ぶかなー?と思って!」


 少女のように笑う彼女に目を細める。


「うん。きっと、喜ぶよ。いい土産ができたね」


 そう言うと、チアはキョトンとする。


「え? ラナちゃんにはあげないわよ」

「え? あげないの?」


 僕までキョトンとする。

 すると、チアはむくれた。風船のように。


「ラナちゃんは、ママになるんでしょ? だったら、今度は作る番だわ。だからね、一緒に作ろうって言うの! だから、猫さんは私のよ。ずっと、一緒に寝ていたんから、今さら返せなんて困るわ」


 その言葉に微笑んだ。


「じゃあ、新しい猫さんを作らないとね。ラナと一緒に」

「うん!」


 手を取りながら歩く道は暗かった。でも、繋いでいた手のあたたかさを感じるからちっとも寂しくはない。



 そう。大事な人と手を繋いでいれば、迷わない。どんな道だって、歩いていける。


 そう、信じているから。


 僕らは歩いていける。


余聞はおしまいです。次回から最終章が始まります。

魔王がポンコツです。頭を切り替えてお読みください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大丈夫、イライラなんてしませんよ~(^^) 家を燃やしてしまったのがよかったです。残したら、絶対利用されるので。
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