警備兵―だから、僕はその道へゆく
アッシャー視点の話です。
仮の真実が公表されて、一番ダメージが大きかったのは僕ら、警備兵だったと思う。
「嘘だろ……そんな……」
「俺は今まで、人に刃を向けていたのか……」
多くの者が動揺し、この先の行く末を嘆いた。国からの正式な公表がある前、グラン兵長は動揺を見越して、秘密裏に公表をしたが、信じられない者が多く、結局、国からの正式な公表で信じた者がほとんどだった。
警備兵は役職がついている人や既婚者以外は、皆、宿舎に寝泊まりしている。モンスターが出現した時にすぐに出られるように。それが今回、裏目と出た。
ある新人兵士がモンスターになってしまったのだ。彼は昔の僕と同じく、警備兵にヒーロー像を重ねていた。だから、余計に現実に絶望した。
宿舎でのモンスターの出現に近くにいた者は酷く動揺した。あんな姿にはなりたくないと逃げた者、その場で絶望した者、パニックになった者。ドミノ倒しのように、次々に皆、モンスターとなった。その時、グラン兵長も不在だったこともあり、全てが後手後手に回った。
ルクス先輩の指揮の元、モンスターは捕縛されたが、僕を含め皆、暗澹とした気持ちでいっぱいだった。
当然、警備兵を辞める者もいた。去る者には恩賞金が支払われた。それもあってか、次々と人は去り、警備兵は崩壊寸前まで追い込まれていた。
そんな中、グラン兵長の後任として、ワインド先輩が、副兵長にはルクス先輩が就いた。そして、僕は二人の補佐役に抜擢されてしまった。
そして、警備兵は”保護官”と名称が変えられた。モンスターは、もう敵ではなく、保護対象になったからだ。新任のワインド長官は着任の時に堂々と宣言した。
「いいか、お前ら。俺達のやるべきことは何一つ変わってない。俺達のやるべきことはなんだ? 国の平和を守ることだ。その為に今まではモンスターと呼ばれるものを捕縛することに重きを置いてきた。しかし、モンスターが人間だとわかった以上、モンスターになった者は保護することになった」
「その脳みそでよく考えろ。モンスターは弱った人間だ。困っている奴を助けることのどこに恥じる必要がある。人を助け導くことは、国の平和を守ることになる。違うか? 違わないだろう」
「今までとやり方は変わる。単純な捕縛ではなく、モンスターになるのを阻止するのが俺らの仕事だ。その中には、己を見失うやっかいな奴もいるだろう。しかしだ! お前らはモンスターという異形に最前線で立ち向かってきた猛者達だ。困難に立ち向かえる奴しかここには、いない。いいか! お前らの働きに国の未来はかかっているんだ! そのことをよく心に刻め!」
「困難を恐れるな! 絶望にのまれるな!
奮い立て! 立ち止まるな! 前を向け!
――お前達ならできると俺は断言する!!」
ワインド長官の演説は格好よかった。すごく、すごく、僕は勇気を貰った。
僕だけではなく、多くがそう思ったらしい。その日以降、辞める者は激減した。
「ワインド長官! 僕、すごく感動しました!」
興奮のままにワインド長官に話す。すると、ワインド長官はにやりと笑って、「だろ?」と得意気に言った。すると、なぜかルクス副官にデコピンされた。
「いった……」
「ばーか。騙されているんじゃねぇよ。グラン兵長にあんちょこ貰っていたんだよ、こいつは」
「?」
「バラすなよ、単細胞。何のためにわざわざグランさんが黙っていたと思っているんだ。馬鹿はお前だ」
「んだと?」
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い? いまだに兵長呼びしやがって」
「うっせぇ。さん付けなんて口がむず痒くなんだよ」
二人は相変わらずこんな調子で言い争いばかりしている。間に挟まれる僕は苦笑いしかできない。
「それにしても、保護官になるとやることが多すぎますね……」
グランさんが叩き台として渡してきた変革に人の声を聞くということに重きを置いた細やかなサポート体制だ。
「町ごとに困難者がいないかサポートを置くのはいいですが、地区ごとにそれをまとめる人がいた方がよさそうですね。現場の声を早く上げるために」
「あぁ、そうだな。しかし、人員が不足している。今すぐには無理だろうな。だが、そうだな……アッシャー、お前がそれになれ」
「は?」
ワインド長官がにやりと笑う。
「え? え? 地区って……30以上ありますよ?」
嫌な予感がして冷や汗が出る。固まっていると、ルクス副官が肩を組んでくる。
「お前が適任じゃねぇか。好きだろ? 人助け」
ルクス副官もにやっと嫌な笑顔になる。
「なんせ、魔王を助けようとしたんだからな、お前は」
それに声がつまった。
ははっ……はぁ……
僕、いつになったらベッドで眠れるんだろう……
二人の言葉にため息をついた。
当然、拒否権などなく、僕は忙殺の日々となる。
仮の真実がグランさんから言われた夜、僕は前に約束した通り、ルクス副官に魔王さんと会ったことを話した。隠している真実は伏せて。
ルクス副官は信じられない……と言っていた。だが、しばらく考えていた後、苛立ちながら、僕に謝ってきた。
「悪かったな……その、なんだ……お前が正しかったんだな……」
バツの悪そうにするルクス副官に僕は首を振った。
「先輩が正しかったです。あの時は、僕が異様だったのは間違いありません」
笑って言うが、ルクス副官はまだバツが悪そうにしていた。
「アッシャー」
「なんですか?」
「俺はお前の味方にならないと言ったが、撤回する」
真っ直ぐな瞳で、ルクス副官は僕を見た。
「俺はこの先、どんなことがあっても、お前の味方になってやる」
それに笑ってしまった。
最高の味方を得た気分だった。
「はい。僕も先輩の味方になります」
そう言ったら、ルクス副官はへへっと笑った。
色々あったが、とりあえず僕は忙しくしている。今は各地を回りながら、できたばかりのサポート体制を整えるのに奔走している。
ラナさんとせっかく友達になれたというのにお茶をする暇もない。
だけど、僕はまた会いに行く。
友人となった人たちの元へ。
彼らがくれた地図を握りしめて。
もう、僕らを隔てる線はないのだから。
「アッシャーさん、ちょっと良いですか?」
晴天の下、駆け回っていた僕へ同じく保護官の仲間が声をかける。
「今、行きます」
駆け出したとき、風が僕の背中を押した。
だから、僕は強く一歩を踏み出せた。




