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異能の目を持つので魔王に嫁ぎました  作者: りすこ
余聞・森の外

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44/71

警備兵長―だから、俺はその道をゆく

グラン視点の話になります。

 

 世界のルールを変えるため、王がその職を辞した。その前に王は俺に最後の命令をした。混乱する国の先頭に立ち、人々を導いてほしいというものだった。


「私が、ですか……?」


 俺は信じられない気持ちで王を見つめた。王はどこまで涼やかに微笑んでいる。


「私には子供がいない。いつかは誰かにこの地位を就かせようと思っていたから、丁度いい」


「ですがっ……私は、警備兵の叩き上げです。ただの田舎者です。国をおさめるなど……」


「なにも半永久的に王になれと言ってない。宰相にも話はつけてある。事態が落ち着けば、彼に任せればいい」


「しかしっ……」

「グラン」


 有無を言わさぬ静かな呼び掛け。


「君は、私の唯一の共犯者だろう?」


 晴れやか顔で恐ろしいことを目の前の人は言う。それに深いため息が出た。


「わかりました……仰せのままに」

「ありがとう」


 そう言うと王は近くの本棚から、書類が束ねられているファイルを持ってくる。持ってくるが、その数が尋常ではない。


「えっと……これは、役職についている者達の今までやってきたことと、性格と家族構成、その家族の好みで……あぁ、マリンの所は子供が生まれたから、書き足さないといけないな……」


 ペラペラとページをめくりながら、王はペンを走らせる。


「家族構成と好みの部分は、聞いた日付が入っている。古いものもあるから、気をつけて」


 ドサッドサッ


「これは今までのやっていきた国政のものと、今、保留になっている案件だ。今年は台風の当たり年になると報告を受けているから、河川の近くに村には補強を急がせた方がいいだろう。あと……」


 ドサドサっ


「こっちは――」


 壁一面にあった本棚が空になるほど細かく丁寧に書き込まれた王がやってきたことを説明され、俺はため息が出た。


「家族構成まで……どうしてこんなに知っているのですか?」


 メイドのことまで書いてある。王宮に出入りする人間まで……なぜ、ここまで詳しく知っているのだ……


「私は実務は皆に任せてあるから、基本的に暇なのだよ」


 カラカラと笑う王に、どこがだ……と思う。ここまでのものを作るのは、並大抵の努力ではない。人を見ている方だと思っていたが、ここまでとは……


「それに、私は頼りなさげに見られているからね。親しみがでるらしい。それに聞き役に徹している。お陰で皆は私の前だと緊張せずによく話してくれる」


 王は内緒だよと言いたげに、人差し指を立てて口元に当てた。


「人を使うなら、その人を知らないとね」


 王が王である理由を実感した台詞だった。



「……私には到底、真似できません」

「いい。グランにそこは期待していない」


 拍子抜けする言葉に唖然としていると、王はすっと目を細める。その静かだが強い眼差しにゾワッと鳥肌が立つ。


「混乱をおさめるには、強い発言力がある者がいい。他者の声を寄せ付けず、捩じ伏せるほどの強い意志がある者」


「――グラン。君以外に適役はいない」


 あぁ、本当にこの方は……

 全てがこの方の描く物語のように進んでいる気がする。俺を操り人形にでもする気か?


「王の操り人形になれと?」

「まさか……君ほど意志の強い者を操ることはできない」


 ははっと明るく王は笑う。


「でも、そうだね……」


 その笑みが底知れぬものに変わる。



「君と私は、同じ糸で繋がれている――そうは、思っているよ」



 それに、深いため息をつくしかなかった。



 その後、王の望むままに俺は代理を務める。不意になくなった王冠に、周りは混乱した。そのため、自ら手を挙げたのだ。警備兵長という地位が幸いした。モンスターの捕縛を主としている警備兵の地位は高い。警備兵の建て直しも兼ねて、混乱をおさめるまでの仮のポジションに就いた。


 国政に関わる者は今回の話に酷く動揺していた。今までの当たり前を覆す事態だ。最初は王への不満が強く説明責任を求められた。王は記者を通じて、国民に説明した。しかし、それもごく一部の真実をオブラートに包んだものに留まった。


 そして、責任をとるため職をあっさり辞めたことから、反発の声はその怒りを燻らせた。そして、キールの本が出版されたことにより、王に同情的な意見が世間に広まった。ますます声を出せない状態だった。


 俺は王宮の警備を強化した。魔王の話では、モンスターになるのは魔力を失った時と言われたが、その細やかな条件もその後、聞いていた。


 “モンスターになる条件は詳しくは不明だ。単に死期がきたというものある。ただ、この世界は悪意がキーワードになっている。理性を失い、絶望するほどの悪意に飲まれた時、人は繕うことをやめ、本来の姿に戻るのかもしれない”


 悪意。それはこの場に充満していた。この場にいる誰もがモンスターになっても仕方ないかもしれないということだ。


 現に、声高に王を批判していた一人が目の前でモンスターとなった。すぐに捕らえられたが、それで全員が分かったらしい。


 皮肉なものだ。

 モンスターに助けられたようなものだから。


 モンスターになった者を捉えた後、俺はその場に居た者、全員に宣言した。


「いいか。これが現実だ。この絶望を王は、魔王は広めないように自身の身に留めて置いたのだ!」


「その優しさが貴様らには、分からないのか! 二人を批判することは俺が許さん! 」


 俺の怒号に辺りは静まり返った。

 それに一つ息を吐いた。そして、皆の前に書類を差し出した。例のこと細やかに人物が書かれているものだ。後で振り返った時に、今後のことを憂い一人一人への謝罪の言葉が書かれていた。直接は言えない思いが記された優しい言葉だ。


「……お前達は優秀なやつだと王から聞いている。そこに書いてあることを見て、俺はそう確信した。そして、謝罪は王が直接、書かれたものだ。本当は声をかけたかったのだろうが、お前たちの立場を悪くすると考えられたのだろうな……」


 皆、声を詰まらせていた。あの方は内緒にしたかったかもしれないが、どこかのバカのように暴いた方がいい真実もある。


「俺はこの中からモンスターを出したくはない。誰一人だ。優秀なものを欠いて、これ以上、国を混乱に陥れるわけにはいかない」


「お前達だから頼めることだ。共に国を支えてくれ。頼む」


 頭を下げた。すると、しばらくして一人の者が拍手をした。王が言っていた宰相だ。その拍手を皮切りに全員から拍手が起こり、俺は国王代理として認められた。



 会議が終わった後、宰相に呼び止められた。


「見事な演説でした」


 涼やかな顔してそんなことを言うこの男はどこか王に似た雰囲気をもっていた。容姿は全く違うのだが……


「正直、モンスターを捕まえるしか脳のない人が俺の上に就くことに不満がありましたが、さすがはあの方が認めた人だ。見事に彼らの心を掴みましたね」


 王……ではないな。この皮肉な言い方はあのバカにそっくりだ。


「俺は代理だ。混乱が落ち着いたら、お前に引導を渡せと言われている」

「そうですね。それまでの間、宜しくお願いします」


「――共犯者として」


 その言葉に苛立った。頭をかきむしる。



「くそっ。どいつもこいつも、俺を共犯者にしやがって」



 吐き捨てるように言うと、目の前の男は、やはり涼やかに笑った。



 会議室に誰もいなくなると、俺は一人で椅子に座った。最近、まともに寝れていない。気を許すと寝そうになる。


「はぁ……」


 ため息をつき、目を閉じる。


 その時、強い風が吹いた。

 それに、目を開ける。

 窓が開いていたらしい。


 それに何年ぶりかに舌打ちした。


「――わかっている。俺は俺の道をゆくまでだ」


 どこまでも晴れやかな空に宣言して、俺は席を立った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 王様……やっぱりできる人だ。 目立たないところで、とんでもなく仕事していたんですね。 そしてそれを当然のように押し付けられるグランw 信頼されているんだろうけど、大変だなぁ……。
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