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異能の目を持つので魔王に嫁ぎました  作者: りすこ
余聞・森の外

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43/71

小説家―だから、私はその道をゆく

キール視点の話になります。

 魔王たちの話し合いが終わった後、私は何かと忙しかった。まずは、グランを通じて王への密談を求めた。それは書きたい物語があったからだ。


 “世界で一番、優しい嘘つき”という物語だ。頭の中ですでに構成はできていた。それは、魔王との話し合いの場で、悪役の話が出たときだ。


 グランの口ぶりから私は直感的に王が悪役を引き受けるような気がしていた。だからこそ、浮かんだ話だ。


 王への密談は物語のキャラクターに王を使わせてほしいという願いだった。王は私の話を真剣に聞いた後、神妙な顔で私に言った。


「キャラクターになることは構わないが、その物語を発表することで君の立場が悪くならないかい?」


 王が案じたのは、仮にも名の知れた私がその物語を公表することで、王擁護派と見られ、槍玉に上がらないかというものだった。


「モンスターは奇病という事実を公表すれば、国民は隠していたことに憤りを感じるだろう。それを擁護するような物語を発表すれば、世間の注目は君に集まってしまう」


 王の話を聞いて驚いた。彼は鈍いただのお飾りの人だと思っていたが、そうではないらしい。全体を見通せている。


 王が王である理由なのか……惜しい人を退場させてしまうかもな……


 私は穏やかに微笑み口を開く。


「お気遣いありがとうございます。しかし、大丈夫でしょう。私には心強い魔法使いがいるので」


 魔法使い?と王は首を傾げた。私は笑って魔法使いのことを話した。


「なるほど……あの方にそのような力があるとは……」


 魔法使いと知り合いのような口ぶりだ。まぁ、お触れを出していることといい、関わりはあるだろう。


 あぁ、そうだ。ラナさんを呼ぶ真意を聞かなくては。それによっては、これからのストーリーに支障が出る。


 私は、ただ王を悪役で終わらせるというストーリーに新たな設定を付け加えるつもりだった。王が乗るかは分からないが、ぜひ付け加えたい設定だ。


「陛下、ラナさんをお呼びするという話、本当にただのお礼だけでしょうか」

「おい、キール……」


 横で控えていたグランが諌めるような声を出す。それを王は手で遮った。


「本当にお礼だ。勇気ある彼女に礼を言いたいと思っていたからね」

「では、その場で彼女にひとつ提案をしてくださいませんか?」


 キョトンとした顔をした王に微笑む。


「嘘で固めた話に、ひとつ真実を混じらせたいのです。その方がストーリーに深みが出ますから」


 そう言って、新たな設定の話をした。




 その後、私は魔法使いに電話をかけた。

 この電話にかけるのは久しぶりだ。

 “勇者クラウスの冒険”の最新刊を出して、かれこれ数年が経っているのだから。


 何コールかの後、魔法使いは出てくれた。


『もしもし?』

「もしもし、ミャーミャさんですか? キールです」

『あら、先生。どうかされましたか?』

「優秀な編集者さんにお願いがありまして」


 そう言うと、ふふっと笑う声が聞こえる。


「ひとつ物語を世に出したいのです。協力してくださいませんか?」


 しばしの沈黙。そして、その後は穏やかな声が聞こえた。


『どんな物語でしょう?』


 そして私は、魔法使いに本の詳細を話した。


『ふふっ。魔王様と王を主人公にした話など……先生は、優しい方ですね』

「よしてください。私はただ、真実を教えてあげたいだけですよ」


 そう言うと、やはり弾むように笑う声が聞こえる。


「それで、魔王さんにキャラクターにしてもよいか許可を頂きたいのですが」

『魔王様に、ですか? じゃあ、私が許可しますよ』


 意外な所から許可が出た。


『魔王様に言ったら、嫌がると思うので、好きなように書いてください』


 ははっと、笑い声が出る。確かに、彼なら文句は言いそうだ。しかも、彼のあだ名をキャラクター名に使うと知ったら、やめろと言いそうだ。


「では、遠慮なく書かせて頂きます」


『はい。お願いします。あぁ、それともう1つ。先生のお話ですと、物語というより、童話の方が宜しいんじゃないですか?』


 童話……?


「いや、私は絵心はないので……」


 童話といえば、絵が重要になる。

 そう言うと、魔法使いは少女のような声を出す。


『それでしたら、先生のお姉さまに依頼したらどうでしょうか?』


 姉? アッシャーの母親のことか? 彼女がなんで……

 そこまで考えてゾワリと背筋が凍る。

 姉は水彩画を描くのを趣味としている。

 柔らかな淡い絵を描いていた。まぁ、贔屓目だろうが上手いと思う。


「姉が絵を描くのを趣味だということをご存じなんですか?」


 魔法使いは答えない。代わりに弾むような笑い声がまた聞こえた。それにため息をつく。


「姉に頼んでみます」

『えぇ、ぜひ』


 受話器を置いてまたため息をついた。そして、また受話器をとった。


 姉に電話をするなど、何年ぶりだろう? 姉は本の話に驚きつつ、私の絵が世に出されるなんて最高!といって、乗り気になってくれた。



 そして、完成した本は魔法使いの手によって、爆発的に広まった。


「先生はやはり、魔王と王の関係についてご存じなのですか?」

「あの物語に込められた意味をぜひ、お聞かせください」


 本が出版されると連日のように記者たちが私の家に押し寄せた。それに笑顔で話せることのみを語る。


「そうですね。実際、魔王とは話をしたことがありますよ」

「魔王とですか!? そこら辺を詳しく!」

「そうですね。彼は……」


 ふと、いたずら心が芽生えた。



「妻に変なあだ名をつけられても、黙って容認するほど、彼女にベタ惚れですよ?」



 その言葉に記者はポカンとした表情を見せたが、私はおかしくて一人でクスクス笑っていた。




 記者のインタビューが終わった後、私は一人窓の外を見ていた。外は穏やかな晴れ間だった。太陽の眩しさに目を細める。


 私はずっと真実を知りたかった。

 その願いは叶ったことになる。

 しかし、私はそれだけでは満足しない。

 真実は暴かれ、周知するものだと今も思っている。


 しかし、その真実が痛みを伴うものならば、敢えてしまっておくのもやむをえないだろう。今は。


 だが、例えば彼らの人柄などは、公表してもいいだろう。彼らは嫌がるかもしれないが……世間の好奇心は常に真実に向けられているのだから。


 それに彼らについてもまだ興味は尽きない。魔法使いについても……



「いつか、あなた達の真実を書かせてくれますか?」



 胸に宿る渇望を感じて。

 私はまた、真実を求めて、歩き出す。

 窓を開けると、はらり、風が吹いた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >王が案じたのは、仮にも名の知れた私がその物語を公表することで、王擁護派と見られ、槍玉に上がらないかというものだった。 やっぱこの王様、好きだな。 この配慮、この先読み、この頭の回転の速…
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