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異能の目を持つので魔王に嫁ぎました  作者: りすこ
第三章 交差

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■世界を変えるために

「もし、子供が産まれたとして、魔王様が消滅するまで、どれくらいの時間があるんですか?」


 ほっこりとお茶菓子の時間を過ごしていたのに、スケルの一言で雰囲気が変わった。


 でも、スケルの質問はもっともだった。出産すぐでへばっている時に、よく分からないが体力奪われそうな名付けとやらをできるのか、一分一秒を争うようなら、それなりの覚悟が必要だ。


 ミャーミャに視線が集まった。ミャーミャは静かに話し出した。


「魔王様の消滅は、ほぼ6日後です」


 あれ? 意外と時間がある。ちょっといい感じだ。


「その間に、名付けをすれば、俺はモンスターとして蘇るのか?」

「理論上はの話です。名付けは、誰もができること。魔力の多さによりますが……ただ」


 一度、ミャーミャが言葉を切って私を見る。


「出産は命がけのものです。私は幾度も立ち会いましたが、一日目はラナ様の体力は出産で0です。初産ならば、時間も15時間以上かかりますし、その後は体力0のまま、眠らない赤子との日々が始まります」


 ミャーミャが私を鋭く見据える。


「6日間といえど、体力のないラナ様が魔力を注いだら命が危険にさらされるかもしれません」


 真剣な表情のミャーミャに何も言えなくなる。


「魔力は精神力の高さに比例します。ラナ様は精神力は高いですし、できる可能性も高いかもしれませんが、危険なことは変わりません」


 精神力は高いか……褒められてるよね?


「そうだな。ラナは精神力だけは高いからな……」

「ラナ様、神経図太いですものね」


 ……褒められてはないな。

 図太くなきゃ、今頃ここにはいませんよ。


「命がけか……」


 ポツリと呟いた旦那様の顔は神妙そうだ。

 私はというと、経験がないせいか、わりと冷静だ。正直に言うと、なんとかなるんじゃない? とまで思っている。それよりも6日間ある方が嬉しい。


「旦那様。命がけなのは一緒ですよ」


 そう言うと旦那様がこっちを向く。


「旦那様だって命がけです。だから、その時は共に頑張るだけです」


 ぐっと握りこぶしを作ってアピールする。それでも、旦那様は困ったように微笑むだけだ。


「ラナ様……男心というものを分かってくださいよ」


 スケルが溜め息まじりに言う。なんだ? 男心とは?


「惚れた女を命の危機に晒すのは男としては嫌なんですよ」


 そう言って、スケルは旦那様の方を向く。旦那様はちらっとスケルを睨んだ後、一つ息を吐き出した。


 こほん。惚れたとか照れるから、ちょっと恥ずかしいけど、私だってそれは変わらない。


「それを言うなら、女心だって同じです」


 旦那様を見据える。


「だから、一緒に頑張れるんじゃないですか?」


 そう言うと、困ったように笑っていた旦那様の目尻が緩む。優しい笑顔だった。ポンポンと撫でられた手が優しくて心地い。


「愛ですねぇ~」

「本当に」


 ニヤニヤ笑うスケルと、ニコニコ笑うミャーミャに気づいて、顔周りが熱くなった。ちゃかすんじゃない。


 こほん。誤魔化すように咳払いをして、これからのことを考え出した。


 子供が産まれたとしても、私は魔王にする気はない。魔王の誕生は”彼女”が流した涙の池に浸けることで、名付けが完了するのだという。なら、魔王にしない方法は一つ。それをしなければいい。


 出産といえば、親の手を借りるのが一般的だろう。親元なら色々安心だし。


「旦那様。私、子供を産むときは森ではなく、親元に帰って出産をしたいのですがいいですか?」


 普通の感覚で言ったことだったが、三人は一斉にこっちを見た。「はぁ?」と言いたげな顔だ。そんな変なこと言っただろうか。


「え? ダメですか? 森で出産するよりも離れた方が子供が魔王にならないと考えたのですが……」

「いや……否定しているわけではない。ただ……」

「ただ?」


 旦那様は言いずらそうに口ごもってしまう。すると、スケルが代わりに答えだした。


「ラナ様。なんかそれは、危険な気がします」


 危険??


「魔王様は外の世界では大いに嫌われ者ですよ? そんな魔王様の子供を身ごもったラナ様がのこのこ帰って行ったら、ご両親もろとも魔王様の手先になったと勘違いされても仕方ないですよ?」


 なるほど……確かにそう見えてしまう。

 両親が孤立しそうだ。それは嫌だ。


「はぁ……やっぱり、旦那様が悪者っていうイメージのままだと色々、できない気がする」

「そりゃあ、仕方ありませんよ。魔王ですからね」

「そうだよね……魔王だものね」


 はぁとスケル同時にため息を吐くと、旦那様もため息をつく。


「なら、そのイメージとやらを変えればいい」


 え? 旦那様??


「イメージアップをする気になったのですか?」


 前にそんなことを提案したことがあった。


「イメージアップというか……魔王が変わったというストーリーを周知すればよい」


 よく分からなくて変な顔をする私に向かって旦那様はにやりと笑った。



「魔王は人間の花嫁をこよなく愛しているので、人間に危害を加える気がなくなったというストーリーだ」



 ……………は?


 はい? なんて言った? 愛してるとか言っていた気がする。いや、違う違う。ツッコムところはそこじゃない。


 なんか物凄い恥ずかしいことを事なげに言っている気がする。


「あぁ、なるほど。そうすれば、魔王が変わったと分かりやすいですね」

「だろう。 魔王は敵ではなかったというより、花嫁を得て変わったとする方が納得しやすいだろう」


 そうですねとスケルは、すんなり案を受け入れている。私は混乱中だ。


「その案はいいとして、モンスターに変わるという事実はどうするのです? 今の外の認識では、魔王がいるから人はモンスターになるとされています。魔王の人間と和解するのであれば、その後、モンスターが出るというのはおかしくなります」


 ミャーミャがそう言うと、旦那様は腕組みをした。


「それは俺も考えた。が……あまりいい案は思い付いてない」


 偉そうに言った旦那様に私たちはポカンとする。


 えぇ……思い付いてないのかい。

 さっきはストーリーだとかドヤ顔で言ってましたよね?と物凄くツッコミたい。


「思い付いてから、魔王変わった作戦とか言ってくださいよ」


 あ、スケルがつっこんだ。


「全く思いついてないということはない。少々、乱暴だがな」


 そう言うと、旦那様は腕を組み直して話だす。


「モンスターになってしまうことは奇病だと周知できればよい」


 奇病?


「モンスターになる人間は生命力が低下している。病気だと言っても差しつかえないだろ。だがな……それを周知する方法がまだ思いついてない」


 モンスターになるのは奇病か……うーん……


「それなら、魔王は元々いい奴で、実は奇病を治してましたー! とかの方が合ってませんか?」


「それだと、魔王が消えると不都合になるだろ。治療方法がなくなったと思われる」


 それもそうですね、とスケルも腕組みをする。そして、うーんと背伸びして、どこか開き直ったように言った。


「もういっそのこと、ミャーミャさんの力を借りて、人間なんていません! モンスターだらけの世界でした! とか真実を明かしては?」


 うわっ。なんかすごい大雑把なこと言った。

 ミャーミャは俯いて、小さな声で言う。


「モンスターを人間にすることは”彼女”が最初に願ったことです。それを覆すとなると、世界からどんなしっぺ返しを食らうか未知数です」


 ミャーミャは続けて言う。


「私はあくまで”彼女”の願いを叶えるための道具の一つです。”彼女”の願いに添わないことをすれば、どうなるか……」


 沈むミャーミャの言葉を旦那様が遮る。


「それは思い込みかもしれないぞ」

「思い込み……ですか?」


「あぁ……彼女とやらの願いを成就するためにこの世界があるとしたら、すでに一つは叶わなくなっている」


 そう言って、スケルを旦那様が指さす。

 スケルがキョトンとして自分を指さす。


「魔王と勇者の悲劇は起こってない。あとは、魔王と花嫁の悲劇も起こらないだろう。今の状況は彼女とやらにとって、悔しいはずだ。しかし、特に何か大きな変化はない」


「世界は変わることを容認し出しているのではないか?」


 ミャーミャの瞳が大きく開かれる。


「世界が設定した条件を、俺たちは運命とか定めとかという解釈をして、忠実に再現しているだけだった。だがな、スケルやラナはその条件を飲み込んで、自分のしたいようにしている」


 旦那様がミャーミャを見つめる表情は優しく複雑だった。


「もしかしたら、世界や彼女とやらは俺たちが変わるのをずっと待ってたんじゃないか?」


「……まぁ、これは俺の都合のいい解釈かもしれんがな」


 世界が変わりたがっている?

 ヘンテコで歪な世界になってしまったことを嘆いているのだろうか。


 なら、しなければいいとも思うが、本人たちが不在なので聞くに聞けない。


 うーむ……


 話は逸れたが考えてみよう。モンスターだって真実を告げることが本当に全て解決するのだろうか?

 私は外の人間ではないから、やっぱり外の人に意見を聞きたいな。


 変わる世界を生きるのは私たちはだけではないのだから。


 そう思って、あの二人組を思い出す。

 妖精さんと悪魔さん。

 彼らしか外の人間で真実を知りたがっている人たちを知らない。他にもいるのだろうか? この世界がヘンテコだと思う人が。


「旦那様。世界が変わろうとしているとしても、ミャーミャの力を借りる前にやっぱり外の人たちに意見を聞きたいです」


 旦那様に例の二人のことを言う。


「アッシャーさんと、キールさん。彼らに会って私たちが考えていることをどう思うか聞いてもらいたいです」


「誰ですか?」


 事情を知らないスケルに二人のことを説明する。真実を知りたがってこちらと接触してきたことを。


「もし、旦那様の言うとおり、世界が変わるのを待っていたのだとしたら、ミャーミャの力で全部をひっくり返すよりも一人一人の意見を聞いて、みんなで変える方がいいんじゃないですか?」


 そう言うと、頭を撫でられた。同じ気持ちということだろうか?


「そうだな……アイツらがその気になってくれれば外の世界へコンタクトも取りやすい」


 その気か……なってくれるのだろうか。

 旦那様、めっちゃくちゃ脅してたしな……


「しかしまぁ、我々以外にもそんなことを考える人なんているんですね」

「そうだね。驚いた」


 彼らはどうして真実を知ろうなんて考えたのかな。邪険にしないでもっと話を聞けばよかったかも。失敗。


「キールさんが……そうですか……」


 黙っていたミャーミャが呟くように言う。


「ミャーミャ、キールさんを知ってるの?」

「えぇ、彼の書いた冒険物語を出版して、世に広めたのは私ですから」



 ………………え?


 なんか今、とんでも発言が出たような。


「ミャーミャがあの話を広めたのか?」

「ええ。ちょこっと細工をさせていただきました」


 ふふっと笑うミャーミャの目が、暗く怖くなる。


「あの方の物語は魔王が悪というイメージを存分に植え付けてくれますからね。私が手をかし、本を広めました。でなければぽっと出の歴史学者の本などこれだけ周知されないでしょう?」


 ふっふっふっと笑うミャーミャに引く。

 く、黒い……怖いわ。


「うわー……えげつないですね」


 スケルが代表して言ってくれるが、本当にそう思う。


「でも、私が考えることって、そういうえげつないことばかりでしたよ、本当に……」


 ミャーミャは俯いて表情を曇らせる。


「彼が……そうですか。真実を知りたいと望んでいるのですか……」


 独り言のように吐かれた言葉は色々な感情が混ざっているように聞こえた。ミャーミャの気持ちはミャーミャにしか分からないけど、寄り添うことはできるから、フワフワな背中をよしよしとさする。


「まぁ、色々、話しましたが、要はそのお二方の出方次第ってことですね」


 スケルがまとめてくれて、皆頷いた。



 ◇◇◇



 濃い一日を過ごして、頭が疲れたので、外に出てボーッとした。


 曇天の空の下、木々は笑い、相変わらず煩い。


「ねぇねぇ、なにがそんなに楽しいの?」


 返事はないと分かっていても、ついつい話してしまう。


「悲劇を作って、他人を笑っても、虚しくない?」


 私だったら、虚しい。だって、悲劇の中に自分はいないのだから、自分がやれないなんてつまらない。悲劇がしたいとかじゃなく、単に自分でできないのがつまらないと思ってしまう。


 返事はなかった。それに鼻から息を深く吐き出した。


「何してるんだ?」


 不意に話しかけられ顔を上げると、旦那様がいた。


「色々あったので、気分転換にボーッとしてます」

「そうか」


 ごく自然に隣に座られた。その距離感は馴染んでいて、もう変とも思わない。隣をちらっと見ると、優しい顔で微笑まれる。


 ドキドキするわ。そんな顔されると。

 これが恋というやつだろうか。


 あ、そうだ。

 旦那様にツンデレのデレメーターがバグっていることを伝えなければ。精神安定上、元に戻ってほしい。


「あの、旦那様?」

「なんだ?」

「スケルに何を言われたか知りませんが、いつも通りでいいですからね?」


 恥ずかしくて素っ気なく言う。


「恋愛小説を読んで無理に振る舞いを変えようとしてるって聞きました。だから、そんなことしなくていいですからね」


 嬉しいけど、されると失神しそうだし奇怪な行動をしかねない。


「嫌だったのか?」


 困ったように微笑まれてしまった。


「嫌ではなかったのですが……恥ずかしいです」


 旦那様、わかってください。

 こっちは恋愛経験0の初心者なんです。何事も段階を経てやっていただないと、そのうち死にます。

 ……なんて、本音を言えるわけなく、ただ恥ずかしいとだけを打ち明ける。


「くっ……そうか。恥ずかしいか。恥ずかしがってるなんて、珍しいからやらないとな」


 にやっと笑いやがって。いつから、いじわるキャラにジョブチェンジしたんだ。


「あんまりイジメないでくださいよ……」

「いじめてるつもりはない。慣れろ、恥ずかしがらずに」


 するっと頬を撫でられた。


 おや?

 なんか?


 んん?


 え?

 は?


 顔が、近い!!!


「ストーっプ!!!」

「なんだ?」


 近づいてきた顔を反射的に押しのけてしまった。


「顔が近くないですか?」


 その手をとられ、ムスッとした表情の旦那様が顔を出す。


「近くていいだろ?」

「いやっ、だって……ねぇ?」


 そう言うと、両手をがっちりホールドされてしまった。


「ラナ」

「は、はい!」

「俺たちはいつか子作りするんだろ?」

「え? はい。まぁ、そうですね?」

「だったら、慣れておけ」


 ちゅっと、唇に軽めのキス。


 ……………………。


「こういうことをするんだろ?」


 ……………………。


「だから、少しでも慣れておかないとダメだろ?」


 ……………………。


「いきなりというわけにもいかないしな……って、聞いてるか?」



 ――ぼんっ!


 顔が爆発した。


「ラナ?」

「なっ……ななななななっ!」

「な?」


「何をするんですか、いきなり!!!」


 びっくりした。もう、びっくりした。うわー! びっくりしたよ! びっくりした!! 本当にびっくりした!!!


「死んでしまいます!!」

「……は?」


 くっ。この人、殺しにかかってきてるな! 恥ずかしいと言ったばかりなのに、こんな不意打ちの接吻(せっぷん)など……!


「くっ……ははっ」


 笑い事ではないですよ! こっちは生死がかかってるんですから!


「死んでしまいますか……俺の妻はすごく恥ずかしがり屋なんだな」


 なんだな、ものすごーく嬉しそうな旦那様。その余裕な表情に怒りと恥ずかしさが最大限に込み上げる。


「からかわないでください……」

「からかってなどいない。可愛いと思っただけだ」


 ぐさっ! ぬぬっ……この人、絶対、息の根を止める気だ。


「本気で死にますよ」

「死なれては困るな。だから、慣れておけ」


 そう言って、さっきよりもちょっぴり長めのキスをした。



 その後はというと……ご想像通り。私が脳がオーバーヒートして、ぶっ倒れてしまいました。


第三章はこれで終わりです。

魔王がどうしたお前!?な溺愛モードになったりしておりますが、そこらへんを含めて余聞で書かせて頂きます。


後はアッシャーサイドを書かないと物語が進まないので、しばらくラナの出番はないです。


余聞が多くなりそうなので、一気に更新ではなく一話ずつ更新していきます。

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[良い点] 魔王様ナイスアイディア! これは……世界が変わろうとしている? ゾクゾクしてきました! >「くっ……そうか。恥ずかしいか。恥ずかしがってるなんて、珍しいからやらないとな」 言うと思った…
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