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異能の目を持つので魔王に嫁ぎました  作者: りすこ
第三章 交差

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24/71

従者に言われて恋を自覚する

日常シーンからです。

 旦那様とのデートを終え、再び日常が戻ってきた。あのデートで旦那様の心の内も聞けた。それは良かった。良かったと思うが…私達の状況はよくなる所か悪い方向へ向かっていっている気がする。


 なんだろ。洞窟の中に居て八方塞がりだと思っていたのが、実は脱出不可な金属の牢獄でした。みたいなカンジ。最悪だ。



 とはいえ、私の心は決まりかけている。

 私はいつか旦那様に子供を求めるだろう。

 彼を一人残すのは嫌だと心が拒否している。

 それは、彼のことを思ってのことではない。

 私の心を占めるのはちっぽけな独占欲だ。


「ふぅ…私もゲスいな」


 自分の心の黒さをハッキリと自覚して嫌になる。


 私は私の心を優先させるために大事な人を死に追いやろうとしているのだから。


 自覚したら、それは牙を剥いて私に襲い掛かろうとする。いっそに飲み込まれた方が楽だとでも言いたげに。


 だけど、それはノーセンキュー。

 私はあくまで旦那様と人間らしくまずは幸せになりたいのだ。


 それに、旦那様だって子供を作るのは断固反対と見えるし、実際、子供を作ったらどうなるかが見えていない。


 ってか、子供を作ったら、どうなるんだろう。

 やっぱ、魔王になっちゃうわけ?


 ……………。


 いやいやいや。

 それはダメでしょ。ものすごくダメな気がする。魔王になったら子供を作らないと死ねないんだよね? そんな呪縛、子供に背負わせらんないわ。現に旦那様だって魔王とかになって、無気力ぎみになっちゃったんだし。


 ごく普通に好きなことをして、ハツラツと生きてほしい。


 でも、そうなると魔王はいなくなるわけで…


 それって大丈夫なの?



 …………うん。わからん。



 わからんことは一人で考えても埒があかないな。となれば、相談だ。案件保留。


 さてと、相談先は誰がいいかな。

 本来なら旦那様だろうけど、子供作る作らない論争で日が暮れそうだ。なので、却下。


 次はミャーミャでもいいような気がする。だけどなー。

 ミャーミャの言葉を聞くと、流されてしまいそうになる。危険だなって本能で感じる。なので、却下。


 コモツンは……会話にあまりならないしな。


 残るは同盟を結んだスケルだ。

 黒幕の報告もしたいし。そうしよう。


 私はスケルを探し始めた。



 そういえばスケルは普段、何してんだろ? 部屋にいるのかな? 私はスケルの部屋を訪ねることにした。



 ―コンコン


 部屋をノックすると、ガチャリとドアが空いた。見慣れたガイコツの顔が現れる。


「あぁ、ラナ様ですか。どうしました? ご飯の時間ですか?」

「ううん。スケルと話をしたくて。入ってもいい?」

「どうぞ、どうぞ。散らかってますけど」

「お邪魔します」


 スケルに促されて部屋に入って絶句した。


「えっと…ここはスケルの部屋よね?」

「はい、そうですよ」

「どうみても武器庫にしか見えないんだけど」


 目の前には剣、剣、剣。槍、槍、槍、トゲがついた鉄球。斧。ダガー。その他、名前が分からないが振り上げて当たったら死亡確定の生々しい武器が勢揃いしている。


 部屋というにはあまりにおどろおどろしい。


「なんでこんなに武器があるの?」

「さぁ、なんででしょうね?」


 さぁって…

 質問を変えよう。


「じゃあ、なんでスケルはこの部屋を自分の部屋にしてるの?」

「最初に割り当てられた部屋だからですよ」


 割り当てられたって…


「でも、こんな武器ばっかりじゃ、危ないこと考えそうじゃない?」

「そうですね。危ないこと考えてましたよ。幾度となく魔王様を殺そうとしましたし」


 カラカラと笑うスケルだったが、私はちっとも笑えなかった。


「でも、今は殺そうとしてないんでしょ? なのになんで…」

「私、武器好きなんですよ」


 は?


「いやぁ、もう。至福ですよ。見たことない武器ばっかで、うっとりしちゃいます。芸術品みたいなものもありますからね。キチンとお手入れをしないと傷みます。なので、ここに入り浸ってるのですよ」


 嬉々と話すスケルに何も言えなくなる。

 私には理解が難しい世界だが、スケルは元勇者だし武器が好きなのもなんとなく頷ける。度が過ぎているとは思うが。


「寝るときはどうしてるの? ベッドないみたいだけど」

「あぁ、あれで寝ていますよ」


 いや、あれって棺じゃん。


「あれで?」

「はい。雰囲気ありますでしょ?」


 …ありすぎるでしょ。ガイコツに棺。相性ばっちりだよ。


 ツッコミたいけど、ツッコむ所なのかすら分からない。分からないが、人の趣味や喜びをとやかく言うことはないだろう。本人が楽しそうだし。


「いいと思うよ、棺。雰囲気はバッチリ」


 そう言うとスケルはどことなく満足そうだった。



 おっと、びっくり部屋に気をとられてしまったが、私はスケルに相談したいことがあったんだ。


「スケル。ちょっと相談したいことがあるんだけど」

「ええ、私でよければ」


「魔王がいなくなったら、どうなると思う?」


 そう言うとスケルは首を傾げた。


「はて。魔王様とラナ様はラブい感じでデートを楽しんでいたと思っていたのですが、私の勘違いだったのですかね。いつの間にそんなバイオレンスな展開になったのですか? 魔王様を消したいのですか? 武器、貸しましょうか?」


「あぁ、ごめん…色々、端折りすぎた。実はね…」


 事情を知らないスケルに話をした。黒幕はミャーミャのこと、旦那様が子供を作らないと死ねないこと。私の黒い感情のこと。そして、子供は魔王にはしたくないこと。


 スケルは長い話を黙って最後まで聞いてくれた。


「…というわけで、子供は魔王にはしたくないんだけど、でもそれって魔王が消えちゃうってことでしょ? それってヤバそうで」


 考えがまとまらないので、何がどうヤバいのかは不明だが。とにかくヤバい気がしている。


「スケルに意見、聞こうと思って……って、スケル? 大丈夫? ついてこれてる?」


 相づちもなくなりスケルが混乱してないか心配になる。案の定、スケルはフリーズしていた。


「なんか…驚きすぎて魂抜けそうです」


 ガイコツなんだけどねというツッコミはしないでおこう。


「色々と言いたいことはありますが、飲み込んでラナ様の知りたいことだけをお答えしましょう。というか、私にも分からないので一緒に考えてみましょう。それでもいいですか?」


「ありがとう。充分だよ」



 私達は棺を背もたれにして座って話し出した。ここには椅子がないので、棺に座りますかと促されたけど遠慮した。心情的にそれは後ろめたい。


 周りは武器だらけ、それで魔王が消える話をする。旦那様が見たら、「お前らは俺を殺したいのか?」と言われそうだなとぼんやり考えた。


「では、魔王様がいなくなったらどうなるかという話でしたね」

「うん」

「う―――――――ん…え? いいんじゃないんですか?」


 え? いいの?


「魔王様本人はともかくとして、悪い存在ですよね? 魔王が消えたら、国民は脅威が去ったとみて喜ぶ。花嫁の制度もなくなる。勇者も出ませんよね。なんかみんなハッピーではありませんか?」


 確かに…。なんかすごくハッピーな気がする…か??


 本当に? でも、それじゃあ、まるで。


「魔王の存在が諸悪の権化じゃない?」

「実際、そうなんじゃないですか。ほら、よく物語にあるじゃないですか。魔王は倒されて平和になりましたって」


 そりゃあ、そうだけど…


「納得できませんか?」

「うーん…理屈は分かるし筋は通ってるんだけど、なんか引っ掛かるというか」


 そう言うと、スケルがふぅと息を吐き出した。


「まぁ、ハッピーになるかもしれませんが…そうですね。私が魔王様だったら、やはり子供を作ったりはしないでしょうね」


 え?


 スケルは穏やかな声で言う。


「そうなれば、ラナ様との穏やかな時間を過ごすのみです。100年、本当に生きられるかは分かりませんが、それだけの時間を仲良く暮らせるならそうしたくなります」


「魔王も消えることはありませんが、それはそれで今までやってきたのですから、このまま折り合いをつけていくのでしょう。まぁ、この際、外野のことはいいかもしれません」


 スケルはどこまでも優しい声色で続ける。


「好きな人には笑っていてほしい。子供を作る作らないはどうあがいたって、ラナ様を泣かせます。それは男としては避けたいんですよ」


 好きだから、笑ってほしい。

 好きだから、笑って……ん? 好き??



「旦那様って、私のこと好きなの?」

「うわー…それ、本気で言ってます?」


 心底、微妙な顔をされた。

 いやだって、そんなそぶり微塵も

 …………………あったかも?


 デレた時に妙に優しい声で話しかけてくる気がする。え? あれが? そうなの?


「はぁ…魔王様も報われませんね。

 まぁ、報われなくてもいいですけど。

 じゃあ、ラナ様は片思いだと思ってたんですか?」


 片思い?


「誰が?」

「いや、あなた様が」


 私が? 旦那様に片思い??


「違うんですか? 独占欲を感じたってことは、好きってことですよね? ラナ様が死んだ後も魔王様が生きていることが許せないんですよね? まぁ、分かりますよ。他の女に走るかもしれませんし、のうのうと幸せになって、あまつさえ子供なんて作ったら化けて出てきたくなりますって」


 好きだから? え? 好き? え? え??


 思考が停止して、つい真顔がで尋ねてしまった。



「私、旦那様のこと好きなの?」

「えー……」


 すごい微妙な声をされてしまった。


「大丈夫ですか? ラナ様。まさか恋愛の自覚もなく子供が欲しいとか思ってたんじゃないですよね? もしかしてアレですか? 旦那はいらないけど、種は欲しいとか、そんなタイプの人ですか?」


「いや…それはないけど…」


 頭がぐるぐるして、熱が出そうだ。なんだ、これ。


「じゃあ、好きってことじゃないですか」

「いや…そうなんだけど…なんか色々、ありすぎてそこらへんの感覚がすっぽぬけていたというか」


「はぁ…しっかりしてくださいよ。子供を作るということは、ピーとか、ピーとか、あまつさえピーとかするんですよ? 大丈夫ですか? 分かってます?」


 うっ…ごめんなさい。分かってませんでした。


 スケルが盛大なため息をつく。


「ラナ様。子供を作るとか、魔王が消えたらどうなるとか言う前に、自分の恋心ぐらい自覚しないと。それでもって魔王様の気持ちも汲んでやってください」


 そう言うと、スケルが立ち上がる。そして、丁寧に私の手を引いて、引いて…



 ―バタン



 部屋から追い出された。


「ちょっ! スケル!?」


 ドア越しにスケルの妙に冷静な声が聞こえた。


『ちゃんと、魔王様に告白なりなんなりして向き合ってくださいねー』


 告白って!? 今更じゃない!


「でも、スケル…ちょっ…」


 ドアノブを回したが開かない。鍵、かけられた。



 私は呆然としながらも、歩き出した。


 私が旦那様を好きで、旦那様も好き??


 すごい現実感がない。これはあれか。恋らしい恋をしてこなかったことへの弊害か。


 でも、告白なんて…


 トボトボと歩いていると、声をかけられた。



「ラナ?」



 うわぁぁぁ…告白対象に出会ってしまった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ラナちゃん……自分の恋心に対して、鈍すぎるぜ。 スケルさん、ピーが無かったらムーン送りになってましたよ? 正直、旦那様が死ぬと分かっていても子供にこだわるラナに、違和感を感じていました…
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