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【side魔王】手を繋ぎ、前に進む

時間軸はプロローグからこの前の話になります。

「魔王様! 花嫁様が決まりましたよ! ラナ様というお名前の娘さんですよ」


 ミャーミャが声を弾ませて言った。嬉しいはずなのに、心は暗くなる。


 この森の存在が恐れられ、俺の存在も恐れられていることは知っていた。スケルが前に案じていたのだ。


『ここは不気味な場所です。しかも、あなた様は魔王。恐怖の対象です。いくら花嫁を出すのが義務だからって、ここで暮らしてまともでいられとは思いませんよ』


 スケルの意見は最もだった。だから、花嫁はきっと俺に怯えるだろう。怯える娘と子供を成すなんて…考えただけで、暗くなる。


 しかし、俺は無意味な生を終わらせたい。その目的のためなら、相手にも我慢してもらうしかない。


 相手には同情するが、魔王との子作りは義務だと感じてくれているはずだ。


「よかったですね、魔王様。

 もー、魔王様があんなに怖いお見合い写真を送らなければ、もっと早く見つかったものを!」


 口を尖らしてミャーミャが言う。

 国王の元へ俺の肖像画といって、不気味なものを送った。


 自分とは細かい部分で似ていない肖像画。それをあえて送った。


「恐ろしい者のところへ嫁ぐんだ。

 あれぐらいでビビっているようでは、子供を作る前にモンスターになる」


「それはそうですけど…でも、まぁ、来てくださるんですからね。よかったですわ」


 ミャーミャはコロッと表情を変えて、楽しそうに俺の衣装を選び出した。


「とびきりお洒落しましょうね。第一印象は大事ですよ」


 人間の見た目とは違いすぎる俺がお洒落してもたかが知れていると思ったが、ミャーミャが楽しそうなので好きなようにさせた。



「あ、そうです。念のために指輪の用意しておきましょう」


 指輪は俺の魔力を供給したものだ。花嫁が長生きできるように。


 この森は外の世界とは色々と違う。不気味な雰囲気に精神を病んで魔力切れを起こされても困る。


 魔力が強いものはそれだけ精神力も強い。花嫁となる者は魔王に嫁ぐという普通とは違う精神力の持ち主だ。


 必然的に魔力も高まる。


 指輪なんて当分いらないだろう。

 そう思っていたのだが…………



 俺の花嫁は魔力がほぼなかった。



 なんなんだ、こいつは。

 魔力が切れかかっているのに、なぜ魔王に嫁ごうと思ったんだ? どういう精神構造をしているんだ。理解ができない…



 花嫁の指輪をつけたが、俺は心配だった。ひ弱すぎる花嫁。子供を作る前にモンスターになられては困る。だから、彼女のストレスがないように好きなようにさせ、監視した。



 彼女を見ていて思ったが、ラナは変だった。

 普通すぎるのだ。俺たちへの接し方が。

 まるで前からここにいたかのように振る舞う。


 俺を人間と同じように扱う。

 それに戸惑った。



「あぁ、たぶん、ラナ様は真実の目を持ってらっしゃるので、私たちを見ても平然としているんじゃないですか?」


 真実の目?


 ミャーミャの話をよく聞いてみると、ラナは人がモンスターに見えるという目を持っているのだと言う。


 世界の真実を見る目。


 それで納得した。

 彼女にとってモンスターがいる世界が当たり前なのだ。だから、俺たちといても普通なのだ。


 彼女が俺を慕っているわけではない。


「…………」


 なぜ、がっかりしているんだ?


 子供という目的が達成されれば、それでよかったはずだ。


 余計な愛情などいらないはずだ。



 早く子作りをしてしまえばいいものの、俺は彼女のしたいようにさせた。あくまで、魔力切れを起こさせないようにするために。




 そんな時、一つ事件が起きた。

 彼女が町へ買い物に行くのを許したのだ。


「町へ買い物だなんて! そんな! 逃げてしまったらどうするのですか!?」


 ミャーミャは半狂乱になりながら俺を責め立てた。しかし、許してしまった。もうどうしようもない。


 俺もそれは頭をよぎった。

 だが、アイツなら…不思議と帰ってきそうな気がしたんだ。なぜか。


 そして、やっぱり彼女は帰って来た。

 平然と荷物を抱えて、まるでここが我が家だとでも言いたげに。


 予想していたとはいえ、普通に戻ってきたことに驚いた。逃げるのを考えなかったのか?と問えば、無責任なことはしないと言う。本当に変なやつだ。


 だけど彼女が帰って来たのが思いの外、嬉しくて、俺は気がつけば笑っていたんだ。



 そしてまた、事件が起こる。

 彼女が俺の役割を見てしまったのだ。


 どういう風に言い訳するか考えた。余計なことを言えば、彼女は逃げるかもしれない。そうなれば俺の目的は達成できない。しかし…


 俺はラナを試した。

 いや、賭けにでたと言った方が正しいのかもしれない。


 もしかしたら、コイツなら。

 ラナなら、俺を―――――――



 全て正直に話した。

 ラナの疑問に答える形で話を進め、そして子供を産んだら俺が消えることまで。


 ラナは言った。


「一緒に生き残る方法を探してください」


 真っ直ぐな瞳で俺の手を取って。

 しっかりと握られた手は思いの外、冷たかった。それに熱を与えるように握り返す。


「お前は…ほんと、変なやつだな」


 口からでた言葉はいつもと同じなのに、込められた思いは全然、違っていた。


 心に灯る感情はきっと。




 その後もラナは変な行動を繰り返した。

 網で俺を捕まえようとするし、クッキーを一緒に作れという。変なやつだ。まったく。


 しかも、俺の好みを鼻息荒く聞き出そうとする。そんなムキになることでもないだろう。俺の好みなんて。


 好みなんて元々ない。ラナが好きなように作ればいいと思った。


 クッキーは色々な形がいいというから、その通りに作ってやる。星型、ハート型。目の前で形を変えるクッキー作りを黙々とやっていく。

 ラナの目が輝き出したので、笑っていると、急に怒りだした。よく分からないヤツだ。



 何を考えているのかさっぱり分からないのに、そばにいるのが不思議と心地いい。たぶん、それはラナが常に全力でこっちを見ているからだろう。


 言動は変だが、ラナは俺の方を向いてくれている。わりと必死で俺を楽しませようとしているのが分かる。

 それが俺は心地いいんだ。



 心地よいと感じる分、ラナを見ていると辛くもなった。近い未来、俺はラナを悲しませることになると思うからだ。



 ミャーミャの話では歴代の魔王はみな、子供ができると砂になって消えたという。その消滅方法は分からないが、魔力切れによるものだろう。だから、俺もきっと…


 そう考えるとこんな心地よい時間を過ごしていいものかと思ってしまう。肩入れして、中途半端に心を通わせるよりも、もっとドライに接する方がラナの傷口は浅いのではないか。


 だからだ。

 傷つけるようなことを言ってしまったのは。


「ただの繁殖としての夫婦だ。

 余計な感情などいらない」


 ここで突き放しておけば、きっと。

 きっと、傷は浅くすむはずだ。



 だが、それは俺のエゴでラナの思いを踏みにじる言葉だったと思い知る。


 ラナは泣いていた。

 そして、怒っていた。


 なぜ、優しくしたんだと中途半端な俺に怒っていた。


 それを見て、どうしていいか分からなくなった。


 なぜ、悲しむ?

 なんで、そんな必死に…


 分からない。

 分からないが、どうしようもなく胸が締め付けられた。




 それから俺はラナに対して嘘をつくのはやめた。正直に話してみよう。ラナは本気で俺に向き合おうとしてくれる。だから、俺もその思いに報いようと思ったんだ。


 全てを話し終え、ラナはやっぱり言った。生きてくださいと。


「笑って天寿を全うしましょう!」


 まっすぐ力強い言葉だった。

 未来を信じて生きている人間の言葉だった。


 それを聞いてもう無理だと思った。


 俺がどんな後ろ向きなことを言っても、ラナは平気でぶち壊していく。

 まだ道はあるはずだと探し続ける。

 決して諦めない。


 参った。

 降参だ。


 腹を抱えて笑った。


 お前がそこまで言うなら、俺は後ろ向きなことを言うのはやめにする。ラナが信じる限り、俺も信じよう。


 二人で幸せになる未来を。



 気分が落ち着いて、ラナに誓うように告げる。「一緒に生きてくれ」と。


 ラナは真っ赤になって「お任せください!」と言ってくれた。


 その顔がまた面白くて、愛しかった。




 どこか世界の隅っこで、置いてきぼりだった俺をラナが手を繋いで強引に引き寄せてくれた。


 握られた手は力強く、前に進んでいく。


 たとえこの先にどんな結末があろうと。


 ラナと一緒なら怖いことはないように思えた。


 だから、俺も前に進もう。


 目を逸らさず、まっすぐに前を向いて。



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