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ドラゴンと戦った

「ゴガアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!」


俺を視界に収めるなり鼓膜を破る勢いで咆哮を放った黒竜は血走った眼を向けてきた。


今までは半信半疑だった黒竜の憎悪の矛先がどうやら俺に向けられているらしいと直感するには十分すぎる感情の爆発だった。


「とはいえ俺も武士の末裔、理由もわからずにむざむざやられてやるわけにもいかん。どういう事情があるのか知らんが、本気でやらせてもらうぞ」


相手に届いているのかもわからないほど小さな声でそう呟く。

どのみち相手はやる気満々なのだ、他に選択肢などない。


「竹田無双流免許皆伝竹田武人、推して参る」


グルルルルルルッ!!


まさか俺の宣言が届いたわけではないはずだが、まるで待ち構えていたかのように黒竜は唸り声を上げると、無数の黒い鱗に覆われた右前足をゆっくりと持ち上げた。


「――っ!?」


相手は別の奴――すぐ側に居るパンダのものだったが、見覚えのある動作。

素早く反応して左へ横っ飛びに飛ぶ。ほぼ同時の黒竜の右前足振り下ろし――上空からの重力魔法によって直前まで俺がいた場所が大きく陥没した。


グウワッシャアアアアアアアアア!!


蜘蛛の巣状にひび割れる大地、俺の体はその範囲からギリギリ外に抜け出ていたが、その差はまさに刹那と呼びにふさわしかった。


「あっぶな、……でも威力も範囲も黒曜ほどじゃないし、連発はできないようだな」


「ガアアアアアアァァァ!!」


不倶戴天の敵を見るように悔しさの感情を載せて吠えた黒竜が、大きく息を吸い込んでいく。


「おい主殿よ、あやつはあくまでドラゴン、先ほどよりも得意な技があるのを知らんのか?」


「はあ?そりゃドラゴンなんだから口から火を噴いたり――ってやべっ!?」


後ろからの黒曜の茶々に気づいた俺が背負い籠に手を突っ込んだのと、黒竜の強靭な牙が生えている大きな口から黒い暴風が吹き荒れたのはほぼ同時だった。


「ギャアアアアアアオオオウウウゥゥゥ!!」


重力制御の力が乗っていると思われる黒竜のドラゴンブレスは、ただの風ではあり得ない威力で進行方向にあった岩や地面を断面が見えるほどに綺麗に削り取っていった――


辛うじて避けた俺を除いて。


「ほほう、大型ドラゴンのブレスを難なくいなすとは、主殿は優れた魔法の使い手でもあったのか」


「冗談に返してる暇なんかないわ!結構ギリギリだったんだぞ!」


黒竜のドラゴンブレスを無傷でやり過ごした俺の前には、魔力耐性に優れた竹が平行に紐で結ばれ、俺の体を覆い隠す形で並んでいた。

密着して並んだ竹は、大樹界争奪戦争の時にもらった魔防の組紐によって魔力的に接続され、そこに俺の魔力を流すことによってあらゆる攻撃を受け流す防壁へと変貌するのだ。


「なるほど、その障壁があればしばらくは持つであろうな。しかし主殿、守ってばかりでは埒が明かぬぞ?」


もちろんそんなことは黒曜から言われなくても分かっている。

だが、いつものように竹槍を構えて突撃するにはあの黒竜の体は大きすぎる。

それ以前に相手は重力を操る力を持っている。

おそらく接近戦に持ち込むことすらできないだろう。


ならこっちも、遠距離から強力な攻撃を食らわせてやればいい。


……こいつは強力すぎて、あの戦い以来俺の中で封印してきたんだがな、まさかこんなに早く再び使う日が来るとは思ってもみなかった――



ヒュボッ     ガゴォッ!!



その一撃が当たった瞬間、黒竜は自分の身に何が起こったのか理解できない、と言った様子に見えた。

まあ、ドラゴンに遭遇したのはまだたったの三度だから、なんとなくそんな気がしたというだけの話だが、少なくとも驚きの感情を見せたことだけは間違いないだろう。


ギュウウウウアアアアアアオオオ!?


悲鳴にも似た咆哮を挙げた、鋼よりもはるかに固い鱗に覆われた黒竜の首元に、一本の竹槍が突き刺さっていた。

もちろん、それを成したのは俺だ。


「ほう、さすがは主殿。オークナイトを一撃で屠った投槍の一撃か。確かにオークナイトには過分な力もドラゴン退治となれば、これほど適した攻撃はそうはあるまいて」


完全に他人事のコメントを言ってくる黒曜に多少苛立ちもあるが、戦の真っ最中なのでなので何も言わずに、次の竹槍をアイテムボックスと化した竹製の背負い籠から引き抜き構える。


グウウウウウウゥゥゥオオオォン


「おい主殿、黒竜が逃げるぞ」


もちろん、黒竜の一対の翼が大きく羽ばたきだした様子は俺にも見えている。

ドラゴンが実在しない俺の元の世界でも、最強生物の一角に数えられている最大の理由、それは空の王者という称号とそれに見合った能力を獲得しているからに他ならない。

ならば、生物としての能力で劣る人族が対抗するにはどうすればいいか……


そんなものは、相手の長所を潰す以外に手段は存在しない。


――ィィィィィィイイイイイイキイイイイイイン!!


俺は手にした竹槍に、臨界寸前まで再び魔力を込めていく。


初撃では何とか鱗を突破することだけはできたが、あのオークナイトを一撃で絶命させた現段階での俺の最強の一撃がドラゴンの肉体を貫通させることすらできなかったのが現実だ。

実際のところ、竹槍は黒竜の体に突き刺さったままであり、少なくない血を流しているのは竹槍の防護壁越しでもわかるのだが、今のところ黒竜の動きに支障が出ているようにはとても見えない。


それなら方法はただ一つ、竹槍に込める魔力の密度を上げて威力を増すだけだ。


魔力充填中に隙を見せないように、警戒しつつすり足で少し後ろに下がった俺は、今まさに空へと飛び立とうとしている黒竜に向かって必殺必中の投擲を敢行した。


「――疾っ!!」


十分な魔力を得て白い一条の光となって俺の手から放たれた竹槍は、そのまま一直線に黒竜に向かう軌道を取った。


だが、二度目とあってはさすがに相手も無策ではない。


グアアアオオオ!!


黒竜は先ほどよりは威力の落ちた重力ブレスを竹槍に向かって発射、同時に自身の体にも重力制御の急制動をかけて竹槍から逃れようとした。


……あれが野生の獣並みの知能しか持たないドラゴンの仕業というのだから大したものだが、あいにく俺の投槍の一撃は相手の魔法を破る力に特化している。


まあ、実際には相手を上回る魔力を乗せて強引に突破するだけなのだが。


ガアアアアアアァァァン!!


岩をも砕く重力ブレスを紙きれのように突き破った竹槍は、ドラゴンの固い鱗をまるで鋼を粉砕するように貫通しながら狙い通り黒竜の右翼の付け根に直撃、翼を動かす力を失った黒竜は重力制御を維持することもままならずにその場に落下した。


「……ふう」


「さすがは主殿、一見弱点に見えるドラゴンの翼だが、実際には強靭な鱗と骨で構成されているため破壊はまず不可能と言われているのに、あっさりと空の王者を撃ち落として見せたな。いや天晴れだ」


「褒めても何も出ないぞ。……まあ、帰ったら茶くらいは出してやるが」


「おやおや、主殿はもう勝った気になっておられるか。それはいくら何でも早計だな」


「いやだって、ドラゴンが飛べなくなったらもはやただのトカゲだろう?そもそもあれだけやられて戦意が残っているかどうかも――」


勝利を確信していたわけではないが、それでも俺の心に大勢は決したという思いが無かったかといえば嘘になるし、実際後方から好き勝手に言う黒曜に言ったことも本心だった。



グルルルルルルルルルゥ



だから、翼と共に空の王者の称号を失った黒竜がこれまで以上の敵意をむき出しにして起き上がってきた姿には驚愕の一言しかなかった。


「うおっ!?」


「無知で愚かな主殿よ、確かにドラゴンの強さの理由に、空の王者という称号とそれにふさわしい飛行能力が一役買っているのは事実だ。だが、あやつらの真の厄介さはそこにはない」


ギャアアアオオオオオオオオオゥゥゥ!!


「ドラゴンの真の強さ、それは一切の休みなしで大陸を横断できる距離を飛び続けられる体力、そしてそれを成せる鋼の意思にこそある。そして主殿よ、いったんドラゴンとの戦端を開いてしまった以上、主殿にはあの黒竜の息の根を止める義務がある。そして覚悟せよ、ドラゴンというものは最後の一瞬まで絶対に敵意を喪失したりはしない、ただ一度の竜の咆哮で心が折れてしまう人族とは根本から違う生き物なのだ。確かに勝負は主殿の勝ちとなった、だが命をかけた戦いはここからが本番だ、見事黒竜の体力を削り切りドラゴンバスターの称号を手にして見せよ!!」


ただの偶然かそれとも黒曜の演説を待っていたのか、次の瞬間黒竜は砕かれた右翼を全く庇うことなく俺に向かって突撃してきた。


だが俺も、竹田無双流の名乗りを上げて戦を始めた以上、相手が望む限りは絶対にやめるつもりはない。

――例えどちらかが倒れ伏す運命だとしても。


長い戦いになることを覚悟しながら、俺は次の竹槍を背負い籠から取り出し、前後左右どこにでも動けるように自然体で黒竜の突撃に備えた。

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