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教会を叩き潰すことにした その三

お待たせしました、今日もギリギリの更新です。


寒いのは苦手なのです。

間に合え!と強く念じつつ、悲鳴が聞こえた方へと足音も気にせずに駆けていくと、人と人が争う物音が奥の方から聞こえてきた。


「やめて!これいじょうたたかないで!」


「うるさい!獣人ごときが口答えするんじゃない!」


パシィ!!


「いだぁい!」


何かを打つような甲高い音が聞こえた部屋の扉を蹴破ると、後ろ手に縛られた十歳くらいの犬のような尖った耳を持った女の子と、手に鞭を持って息を荒げているやせぎすの年増のシスターがいた。


「あ、あなたは!?騎士ケルビムは何をしているの!?侵入者、侵入者よ!!」


俺は金切り声を上げるシスターには目もくれずに、顔をくしゃくしゃにして泣いているリリィと思しき女の子の様子を深編笠を持ち上げてじっと見つめた。


「リリィだね?」


「うん、おじちゃんだれ?」


お、おじちゃん……いや、それよりもだれって……

途中からとはいえ一応一緒に旅をした仲だったはずなんだけどな……


子供特有のストレート過ぎるセリフに少なからず傷ついた俺だったが、暗闇から出てロウソクの明かりに照らされたリリィを間近に見て、俺の心の傷がどれだけ些細なものかを思い知らされた。


背丈にしては細すぎるその体にはどこで脱がされたのか肌着一枚があるだけで、腕などの素肌が見える部分にはいくつもの赤いミミズ腫れができていた。

何より、愛らしい顔の左頬にはくっきりと手形が赤く残っていて、痛々しいことこの上なかった。


「お兄さんはシルフィさんから頼まれてリリィを迎えに来たんだよ」


「ほんとう?リリィ、お姉ちゃんのところに帰れるの?」


涙に濡れたリリィの顔に笑顔が戻るのを見て、俺も馴れない笑顔で返した。


「ああ、もう大丈夫だ。でもお兄さんはちょっとだけここに用事があるから、肩を叩くまでそこにしゃがんで耳を塞いでいてくれないかな?」


「うん、わかったよおじちゃん」


そう言ったリリィはうずくまると、犬っぽい耳を畳んだ上から手で塞いで首ごと丸まった。


結局、おじちゃん呼ばわりは治らなかったかあ……


考えてみれば、薄暗いろうそくの明かりが頼りの地下で、良く知らない他種族の年齢を判別しろという方が無理な相談だ。

いや、獣人だからヒトよりも目がいい可能性もあるか・・・・・・気が動転しているせいだと思っておこう。


「さて」


ここまでは半ば無理やり呑気な思考に切り替えていたせいで、どうでもいいことばかり考えていた。

そうしないとリリィに対して余計怖がらせてしまうかもという不安があったからだ。


だが今はリリィは目と耳を塞いで俺の行動を見られる心配はない。


さあ、(いくさ)の時間だ。


「なんだ、まだ逃げていなかったのか」


「な、なんでこのあたくしが、賊ごときを前に逃げなければならないのですか!ちょうどいい、久しく生き物相手に魔法を使う機会が無かったのです、大人しく的になりなさい!『ライトアロー!!』」


醜悪なほどに顔を歪ませた年増のシスターが両手を前に伸ばすと、そこから光の矢が生まれて俺目がけて飛んできた。


なるほど、逃げなかった理由は、それなりに俺を倒せる自信があったせいか。

だが、特別速くもない魔力でできた矢だ、あくびをしていても避けられるが、マグレだと思われるのも(しゃく)だな。


一瞬のうちにそう思考した俺は、手にした竹槍で眼前に迫った光の矢を無造作に地面へと叩き落した。


「なっ!?バカな!あたくしのライトアローをああも容易く!?おのれ、こうなれば必殺のライトランスで――」


「いや、そういう二度手間はいらねえよ」


トススッ


あくまで現実を認めようとしない年増のシスターに左手に持った竹串手裏剣二本を続けざまに両肩に右、左と投げつけて動きを封じる。


「ギャアアアァァァ!!あ、あああ、あたくしの肩が!?腕が、腕が上がらない!?」


「うるせえ、ちょっと黙れ」


「ヒッ」


俺の静かな一言に、両肩から血を滴らせながらひきつったような声を上げる年増のシスター。


「お、お前、いえ、あなたはあたくしを一体どうしようと――そうだわ!あなた、私を人質にしなさい!なにしろあたくしはこの教会のシスターの最年長なのですからあたくしが一言命令しただけであなたたちを逃がすことはもちろんお金だって――」


「行け」


「……は?」


「聞こえなかったのか?逃がしてやるから行けって言ったんだ」


「あ、あなた、こんなことをしておいて逃げられると思っているの!?いいこと?あたくしが一声上げれば教会中の兵士や騎士が飛び出して――」


「そういう時間ばっか食う長口上はいらん。それより、一言だけお仲間に伝言してもらおうか。いいか、俺たちは今から十五分後に表の正門から堂々とこの教会を出て行く。だからお前らはこの教会の全戦力で迎え撃ってこい」


「あ、あなた正気なのですか!?一体どうやって上にいる騎士ケルビムを突破してきたのかは知りませんが、まだこの教会には兵士五十に騎士が四人もいるのですよ!?それをたった一人でどうやって――」


「そうお前らが信じ込んでるから、イイんだろうが。だからこそ、その計五十四人の戦力とやらを俺一人で正面から叩き潰せば、少しはその腐った性根にも骨身に染みるだろ?こっちは正門に集合する時間というハンデまでくれてやってるんだ、せいぜい教会の威信とやらを賭けて待ち受けていてくれよ。さあ、早く行け」


「あ、あなた!増長するのもいい加減に――」


「グズグズしてるなら今度は右足を動かなくしてやろうか?」


「ヒッ、ヒイイイイイイィッ!!」


俺の脅しに年増のシスターは間抜けな声を出しながら、真っ暗な地下の廊下を脇目も振らずに走り去っていった。


その気配が完全にいなくなってから、俺は律義にうずくまった姿勢でいるリリィの肩をポンポンと叩いた。


「もういい?」


「もういいよ」


耳から手を放しておそるおそる顔を上げるリリィ。


「あのこわいおばちゃんは?」


「リリィを返してくれって説得したら許してくれたよ」


嘘は言っていない。ただ訊いた相手が、その心か体かの違いがあるだけだ。


「じゃあ、おねえちゃんのところにかえれる?」


「ああ、お兄さんと一緒に帰ろう。でもその前に、ちょっと痛いところを見せてごらん」


俺は大人しく従ったリリィの体の傷を見て(直接触ってはいないのでやましい気持ちは微塵もないと誓う)大きな怪我がないことを確認すると、携帯していた竹ポーションを飲ませて傷を癒した。


「ポカポカしてきた。もういたくないよ!」


「それはよかった。あと寒くならないようにこれをつけてくれないか?」


俺は自分の竹蓑を外すと、リリィの肩にかけて胸元で紐を軽く縛った。


「あったかーい」


この竹蓑は雨風よけや防寒目的だけでなく、ある程度の攻撃にも耐えられるように魔力が込められている。大抵の攻撃はどんな種類のものでも通らないし、植物が苦手な火も、ある程度までなら弾いてくれるはずだ。


「よし、行こうか」


「うん!」


俺とリリィは手を繋いで暗闇の向こうに陰惨な拷問器具の数々のシルエットが見えた部屋を出て、真っ暗な地下通路へと進んでいった。


バキバキベキバキ


「ん?なんのおと?」


「さあ、何か物が落ちたのかな?」


地下に張り巡らせた魔力の網を通じて、背後の部屋が竹林の密集地帯へと変貌したことを確認した俺は、リリィと共に地上への階段の一段目にに右足をかけた。






それから五分後、俺は礼拝堂の扉に竹串手裏剣の貫通力を利用して小さな穴を開けて、外の様子を観察していた。


おーおーいるな、現時点で大体五十とちょっとくらいか。

あのクソババア、馬鹿正直に教会の兵力をくっちゃべっていきやがった。


だが忘れてはいけないのは、どうやらシスターや司祭といった連中も魔法のような力をを習得している可能性があって、場合によっては戦力になりうるということだ。


とにかく、背後に回られないようにだけは気を付けないとな。


……そろそろ全員集まった頃か。

もうちょっと待ってもいいんだが、逆に向こうから礼拝堂に乗り込まれたらリリィを守りづらくなってしまう。

出て行く頃合いだな。


俺は傍らに立っているリリィにできるだけ心の内の戦意を悟られないように、バ〇ァリン以上のやさしさ成分入りで話しかけた。


「リリィ、すぐ帰ってくるからもう一回だけここで目と耳を塞いで待っていてくれないか?」


「おそとにいるたくさんのひとたちと、おはなししてくるの?」


「そうだよ」


「けんかしない?」


「しないよ」


うん、ケンカにはならない予定なのでこれも嘘ではない。

一方的に蹂躙するだけだ。


「わかった、じゃあここでまってる。はやくかえってきてね」


「ああ、約束だ」


俺が頭を撫でるとリリィはくすぐったそうにしてから、頭から竹蓑を被ってその場にうずくまった。


その様子を見届けた俺は、心のスイッチを切り替えながらゆっくりと礼拝堂の外への扉を開けて行った。






「へえ、子供を誘拐するような奴ならてっきり不意打ちでもしてくるかと思ったがな」


「なんだと!?我らは支部とはいえ、歴としたマリス騎士団の一員だ、誰がそのような卑怯千万な真似をするものか!」


十メートルほど先から言い返してきた男は、五十余人の兵士と騎士を背後に従え、自身は煌びやかな儀典用とも思える派手な鎧に身を包んだ初老の男だった。

シルバさんよりは少し年上といった感じだが、お世辞にも剣の腕があるように見える体つきではないな。

初老の男は、過剰に血行の良さそうな丸い顔を怒りで赤く染めながら俺を睨みつけてきた。


「貴様、我ら全員を相手を抜いて正門から堂々と出てみせると、シスターベルチアに言い放ったそうではないか!普段なら不敬罪で百叩き程度で済ましてやるところだが、ここまで我らを虚仮にした罪、貴様の命で贖って(あがなって)もらう他ないぞ!!」


「……ちょっと違うな」


「なんだ!今更許しを請おうとでもいうのか!?」


「そんなわけないだろ。俺が言ったのは、お前らを蹴散らして突破するなんてつまらない話じゃない、お前ら全員を戦闘不能にして、この教会のプライドを粉々に叩き潰すっていったんだ。勘違いしてもらっちゃ困るんだよ」


「なっ!?バカか貴様は!Sランク冒険者でもない限り、たった一人でそんなことできるわけなかろうが!」


「いいから早くかかって来いよ、三下ども」


「き、貴様ーーーーーー!!」


「頼むから、途中で逃げ出すなんて興ざめなことはしないでくれよ。迎え撃つよりも追いかける方が大変なんだからな。まあそれでもプライドはズタズタになるだろうから俺としてはどっちでも構わんが」


「第一部隊突撃ーーーーーー!!」


よし、俺の(つたな)い徴発に乗ってくれる単細胞で助かった。

まんま爺ちゃんの受け売り、ていうか劣化コピーなんだが、プライドの高い連中ほどよく引っかかるというのは本当だな。


おっと、こんなこと考えてる場合じゃないか。


さてと、戦を始めるとしますかね。

俺は何かを喚きながら迫ってくる教会兵の部隊に向かって、ギリギリ届くような小声で名乗りを上げた。


「竹田無双流免許皆伝、竹田武人推して参る」

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