計画を実行した 食糧編
チュン チュチュン ピヨロロロロロ ピーチクパーチク
ピヨピヨ コケコッコー クアークアー アホーあほー阿呆ー
「ふっっざけんなぁーーー!!バカにするのにもほどがあるだろうが!!特に最後のやつ、ただただケンカ売ってるだけじゃねえか!!」
朝早くから不快極まる鳴き声に眠りを邪魔されて余りにムカついたので弓を持って外に出てみたらアホーアホー言ってる鳥が飛んでいたので撃ち落としてみると丸々と太っていて美味しそうな鳥だった。
無駄な殺生をしてしまった……夕飯に使うとしようか。
「タケト様は今日も朝早くから元気だべな」
そう背後から声を掛けてきたのは、俺の居候先の家主でこのコルリ村の村長をしているマーシュだ。
……どう見ても起き抜けの姿だな。
「さ、騒がしくしてすみません」
「わかってくれればいいだよ。今度から家の前で朝に狩りをする時は、朝ご飯を食べてからにしてほしいだよ」
「はい……」
ちなみに新入りながら今の俺の立場はコルリ村の村代表で、就任時にマーシュたち村人からは敬語はやめてほしいとお願いされている。
村長とどっちが偉いのかいまいちわからないが、少なくとも今は誠心誠意謝罪するときだろう。
「さあ今日も忙しくなるだよ。朝ご飯にするだよ。あ、タケト様は待ってる間、その鳥の毛を毟っててほしいだよ」
「わかりました……」
村代表というのは俺をこき使う為の方便じゃないのか?
眩しい朝日を浴びているはずなのに、自業自得とはいえ気持ちは沈みっぱなしの朝だった。
朝食を食べ終えて食後の竹の葉茶を淹れ始めた頃、マーシュがテーブルの上に紙の束を置いて話を切り出してきた。
「じゃあ早速だけど、カトレア様が残してくれたコルリ村復興計画について確認していきたいだよ」
「とはいえ、全くのゼロからのスタート、ってわけでもないんだけどな」
「そうなのかご主人様?」
いつの間にかに俺の隣で茶を飲んでいるラキアが質問してきた。
「簡単な話だ。要は、今進めている家の建築や畑の修復なんかに、カトレアさんが手を加えたものがこの紙に書かれているわけだからな。つまりこの紙に書かれているのは正確に言えば復興案というより修正案、より効率的に復興を進めるためのヒントみたいなもんだ」
「なるほど、わかった!」
「ただ、問題は……」
多分俺の言ったことなんて一割も理解してないラキアを適当にスルーしながら、マーシュの方を見た。
「んだ、どう考えてもこの紙に書かれている諸々の数量が多すぎるだよ」
「なるほど、わかった!」
「いや絶対分かってねえだろ」
「なるほど、わからん!」
だからって堂々と言うことじゃ……まあいいか。
こっちとしても再確認できる機会になるし。
「わかりやすくいうとだな、カトレアさんは家は今のコルリ村に必要な数の五倍、食料の備蓄に至っては十倍は最低でも確保しておくべきだって書いてあるんだよ」
「なるほど、わかった!……なんと、そんなにか!無茶ではないか!?」
うん、ようやくわかってくれて俺はうれしいよ。
「本来なら何かの間違いだって言いたいだよ。だけど……」
「カトレアさんのことだ、ちゃんとした理由がなきゃこんな数字は書かない」
「まあタケト様がそこまで言うなら、村のみんなを説得するだよ」
俺を代表と立てた手前一応は従ってくれているが、マーシュも半信半疑のようだな。
「まあいざ食糧が余ったとなればシューデルガンドに売りに行けば……そうだ、村長これを受け取っておいてくれないか?」
そう言って俺は懐にあった小さな革袋を手渡した。
受け取ったマーシュは不思議そうな顔で袋の中身を確認した。
「こ、これは!?」
「おおっ!ピカピカできれいだな!初めて見たぞ!」
俺がマーシュに渡したもの、それは旅の途中で出会った冒険者ゾルドからもらって以来、これまでなんやかんやと使うことができなかった、俺の全財産の金貨二十枚だった。
「タケト様、コレは一体……」
「ここまでの旅の途中で小遣いを稼ぐ機会があってな、使い道もしばらくなさそうだし、次にシューデルガンドに行く時にでも役立ててくれないか」
「ひ、ひええぇ、こんな大金触ったのは初めてだよ」
「なんと、ご主人様はお金持ちだったのだな!」、
所詮、竹串の手裏剣を売った時の泡銭だからな。
もらった時にはいくらなんでも多すぎだと思ったが、こういう使われ方ならゾルドも本望だろう。
「で、でもタケト様、さすがになんにもしないでこの金貨をもらうのは気が引けるだよ」
「それなら、というか最初からこれを言うつもりでいたんだが、その金貨で土地を貸してほしいんだ」
「土地って、どういうことだよ?」
俺はマーシュにドンケスの力を借りて、近くの小山の麓に自宅兼工房を建設しようとしていることを説明した。
「なるほど。でもタケト様になら空いてる所ならどこでも好きに使ってくれていいのに、なんでわざわざ金貨まで出して借りようとするだよ?」
「まあ、一応親しき中にも礼儀ありというか、こういうことはちゃんとけじめをつけておきたかったんだ」
「ふうん、タケト様がそれでいいならオラから言うことは何もないだよ」
流石にこの言い訳が苦しいのは俺も自覚している。
だが万が一にも俺の正体が異世界人だとバレた場合に、なあなあの関係でことを進めるとコルリ村までいらん迷惑に巻き込みかねない可能性を考えた時、金銭での契約という形にすれば幾分かは疑いを弱めることができるんじゃないかと思ったわけだ。
気休め程度だが、何も手を打たないよりかはマシだろう。
とりあえずマーシュに納得してもらったので、一年に付き金貨二枚、合計十年間あの一帯を借り受けることに決まり、十年後土地を返すかどうかは俺の都合を優先という形でその時に改めて交渉するという条件を付けた。
話が逸れてしまった、本筋の復興計画に戻るとしよう。
さっきはああ言ったが、例として挙げた二つの内、家の建設についてはさほど心配していない。
通常なら山々の危険な斜面から慎重に切り出さなければならない木材は、俺がいくらでも安全な平地で生やせるし、建築の指揮と人材育成に関してはドンケスという頼もしい親方がいる。
これまでは労働力に多少不安があったが、シューデルガンドから男たちが帰ってきたことでそれも解消しつつある。
「問題は食料か。ていうか、そもそもこの村の今の食料事情って大丈夫なのか?」
「大丈夫とまでは言えないだけど、幸い食糧庫は山火事でも焼けることがなかったし、シューデルガンドで買ってきてもらった分があるから、贅沢さえしなければしばらくは何とかなるだよ。あとは来年の春までに畑を種を蒔けるくらいまで戻せれば・・・・・・」
なるほど、一応の目途は立っているわけだ。
だが……
「現状維持が精いっぱいで、カトレアさんの言う十倍なんてとてもとても、ってところか」
「その通りだよ」
難しい顔をするマーシュだが、当然の反応だ。
食糧生産なんて一朝一夕で増やせるならいまごろ世界中が平和になってる。
普通は、カトレアさんともあろう人が無茶すぎる要求をしてきたもんだと、早々に諦めるのが賢明な判断だろう。
だが、カトレアさんが果たしてどこまで予見してこんな計画を残したのか、今となっては知る由もないが、幸か不幸か俺に当てがないわけではなかった。
「村長、ちょっと竹山まで付き合ってくれないか?ラキアはどうせよくわからんだろうから、子供たちと遊んできてもいいぞ」
さっそく二人にそう言って、出かける準備を始めるために席を立った。
すると予想外の答えがマーシュから返ってきた。
「ああ、ちょうどオラの方も、タケト様に竹山のことで聞きたいことがあるだよ。道々でいいから教えてほしいだよ」
「聞きたいこと?竹材のことならドンケスの方が適任だと思うが?」
「いやいや、もちろん食糧のことだよ」
食糧?
ひょっとしてアレのことがもうバレたのか?
……まあ竹山に行けばすぐにわかるか。
ちなみにラキアは、遊んでいいぞという俺の言葉にしばらく悩んだ後、やっぱりついていくと家を後にした俺達を走って追ってきた。
アホ可愛い奴め。
さて、そんなわけですでに竹材を切り出すために村人たちが働いている竹山の麓までマーシュとラキアと共にやって来たわけだが、ちょっと見ないうちに竹山の景色が一変していた。
「んなっ!?」
と言っても、竹山自体に特に異常があるわけでも、働いている村人の様子がおかしいわけでもない。
ただし、竹山で作業をしている村人たちも困惑するほどの、招かれざる客が大勢訪れていたのだ。
チュンチュチュン ピリリリリリ ピヨピヨ クアークアー ヒョロロロロロ
コケコッコー アホーアホー ホーウホーウ
聞き取れたのはこれくらいで、実際にはその数十倍にも達しようかという数の鳥の鳴き声が竹山中から響いてきていた。
「一体どうなって……」
「ついこの間まではそこまでの数じゃなかったから、みんなもあんまり気にしていなかっただよ。それがこの数日で一気に竹山に群がるようになってきただよ。なんでこったらことになったのか……」
マーシュも困り顔で答える。
原因は……言うまでもなく、俺がこの山一面に生やした竹だよな。
しかし、言っちゃあなんだが、ここは俺が作った竹オンリーの山であって、それ以外の植物が自然発生するにしてもしばらく先のはずだ。
数羽ならともかく、これだけの数の鳥が集まるほどのエサがあるはずがないんだが……
「それで気になった村人の一人が鳥をよく観察していたらしいんだべが……」
「ご主人様ーーー!変なものを見つけたぞ!」
マーシュの説明を遮ったのは、いつの間にか竹山に入り込んで、枯れた草のようなものを手に持って戻ってきたラキアだった。
「この草の下で鳥が何かつついていたぞ」
「おう、よく見つけたな」
「大したことではないぞ。この草はそこら中にあったからな」
「んん、どれどれ……」
ラキアから枯れ草を受け取って観察してみる。
完全に緑の部分を失ったそれは、細い茎に剣のように鋭く尖った葉が何枚かついている。
そして茎の先端からはさらに細い枝が伸びていて、そこから何十もの丸い種のようなものが鈴なりになっていた。
「この丸い実のようなものを鳥たちが必死になって食べていたぞ」
「なるほど、鳥達はこれが目当てでこの竹山に来ていたんだべな。山火事で食べるものが無くなったところに、突然この竹山ができて辺り一帯の鳥がここに集まってきているとしたら、この騒ぎにも納得がいくだよ」
「なるほど、わかった!」
半ば感心したように言い合うラキアとマーシュ。
だが、そんな二人の会話は俺の耳に入って来てはいても、脳までは届いてなかった。
……これ米じゃん。
…………これ米じゃん。
「これ米じゃん!!」
「ひゃっ!?」
「うわっ!?へぶっ!」
唐突な俺の大声に驚く二人。
周りにいた村人も何事かとこちらを見ている。
マーシュを含めた何人かは驚きすぎて転んでしまった。
「あ、ああ、悪い。ちょっと意外なモノ過ぎて驚いただけなんだ……」
流石に何十人もの視線に我に返った俺は、とっさに思い付いた言い訳をして作業に戻ってもらった。
「ご主人様、それを知っているのか?」
「ああ、まさかとは思ったが間違いない、これは稲という作物だ」
「イネ?麦じゃないのだべや、タケト様?」
ラキアと共に起き上がったマーシュも、改めて俺の持つ稲に顔を近づけた。
「麦じゃないが、用途はほぼ一緒だな。俺の故郷、元居た場所だと、こっちの方が多く栽培されていたくらいだ」
「じゃ、じゃあ、鳥だけじゃなくて人間も食べられるというわけだか!?」
稲が食糧だということが分かり、途端に目を輝かせ始めたマーシュ。
「もちろんだ。だがなんでこんなところに……」
「竹と同じところに生えてきたのだ、ご主人様の力ではないのか?」
「まさか、そんなわけ……いや、そうなのか?」
考えてみれば竹も稲も同じイネ科だ。親戚と呼べないこともない。
「少なくとも、このイネという植物をこの辺りで見かけたことは、これまで一度もなかっただよ」
マーシュからもそう断言されると、イネの発生原因はやはり俺の魔法という可能性以外はないと思う、はずだ。
だが少なくとも、俺が魔法を行使する時に「稲よ、生えろ~」なんて念じたことなんて一度もない。
いや、そもそも、俺自身が竹を生やす魔法のことをどれだけ知っているかと問われると、ほとんど何も知らないという結論しか出てこない。
……これは考えるだけ無駄か。まずはやるべきことをきっちりやるべきだな。
「村長、建築作業の人手を半分割いて稲の刈り取りに回そう。ただの鳥が群がっている分ならまだいいが、飛行できる魔物が米や鳥を狙ってやってきたら面倒だ。鳥には可哀そうな気もするが、全部摘み取って完成している建物に収納しておこう」
「確かに魔物に目をつけられたら大変だよ。それで、刈り取った稲は食糧として食べるってことだか?」
「いや、まだ安全性を確かめたわけじゃないから、食べる食べないははセリオに手伝ってもらって毒の有無を調べた後の話だな。とにかく刈り取りはかなりの重労働だし、山の斜面での危険な作業になるから人選は注意してくれ。あまりのんびりしていられる状況でもないから、準備ができ次第早速始めてほしい」
「わかっただ、麦を作っていた村人を中心に声を掛けるだよ」
そう言い残してマーシュは、大勢の村人たちが遠巻きにこっちを見ている建築現場に駆けて行った。
……しかし、王都からコルリ村までの旅路では稲を見かけることができなかったので、米を食べる機会は二度とないかもしれないとほぼ諦めかけていたから、これは嬉しい誤算だな。
白飯か……もしもう一度食べられたら、感動しすぎてショック死してしまうかもしれん。
……いやいやいやいや、ちょっと待て、考えてみれば竹ほどではないがあの稲も相当おかしいぞ。
季節も期間も人がかけるべき手間もあらゆる自然法則をぶっちぎって、あり得ないほどの短期間で米が収穫できるレベルまで成長しきってしまっている。
一応鳥が殺到して食べていたから、人間も食べられる可能性は大なんだが……
いや!過信は禁物だぞ竹田武人!!
「ご主人様」
「何だラキア、俺は今このコルリ村の未来に思いを馳せていて忙しいんだ。用件なら後にしろ」
「いや、ご主人様のことなのだが」
「俺のこと?何だ一体?」
「確かご主人様も、食糧のことで私たちに話があるのではなかったのか?」
「………………あっ!!」
しまった、すっかり忘れてた!
マーシュとここまで一緒に来た以上、当然俺の用事もこの竹山にあるのだが、すでに稲の刈り取り作業のために村人たちが竹山に入り始めていたところを、まさか言い出しっぺの俺が邪魔するわけにもいかなかった。
「……明日にするか」
そう呟いた俺は、ドンケスのと自宅建築の続きを進めるために、ラキアを連れてとぼとぼと竹山を後にしたのだった。




