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処刑されそうになった

「……ううん、ここは?」


穴に落ちて姫様に会ったところは……うん、ちゃんと覚えてるな。

それから勇者だのスマホなくしただのあって……そうだ、召喚魔法!


……やっぱりやけくそで「出でよ」しまくったのはやばかったな。おかげで大臣のおっさんの命令を受けた兵士に後ろから張り倒されて……あれ?ここどこだ?


薄暗い照明に今まで俺が寝ていたベッドしかない簡素な部屋だが、セキュリティだけは万全に整っているらしい。

いや、これはごまかしようがないな、ドアは鉄格子だし外側にしかカギがついてないもんな。


ここ、牢屋だ。


鉄格子越しに外を見てみると傍に衛兵が立っていたので話しかけてみたが無反応だった。

あまりに無視されるので、試しに「お前の母ちゃん三段腹」と言ってやったらものすごい顔で睨まれた。

ちょっと面白くなってきたが、多分もう一度やったら持っている槍でつつかれそうなのでやめておく。


まあ、大臣のおっさんの命令は意識を失う直前の俺の耳にも届いていたので、ここにいる理由は分かっている。

王宮破壊の現行犯と言っていたし、おっさんのあの怒り様は下手をしたら処刑されるかもと思うと今すぐ逃げたくもなるが、ただのフリーターの俺にとって、この状況はどう見ても詰んでいる。


厳密に言えば、あの竹を生やす魔法を使えば逃げ切れる可能性はゼロではないが、まあまだ死ぬと決まったわけじゃない。

希望があると言っていいのかはわからないが、部屋の窓から差す太陽の光を見る限り、ここは地下牢ではないらしい。つまり、まだ軟禁レベルだと考えることもできる。最後の手段に出るには早すぎるだろう。


そんなことを考えていると、騎士らしき銀色に光る鎧を着た男二人がこちらに歩いてきた。


「罪人タケト、出ろ。大臣がお呼びだ」


「はい」と自分で思ったよりも小さな声で返事をしながら、開け放たれた鉄格子のドアから出て騎士についていく俺の頭の中には、なぜかドナドナが悲しげに流れていた。


ドナドナドーナ ドーナー


……空しくなったのですぐにやめた。






「大臣、罪人を連行しました」


「うむ、ご苦労」


そんな騎士と大臣のおっさんの命令やり取りが行われている場所は、先ほど俺が連れてこられた大広間だった。

目の前に大臣のおっさんと姫様がいるのも変わらない。


さっきと違っているのは、床と壁にいくつもの穴を応急補修した跡があることと、俺の周りを完全武装の騎士が固めていることだった。

当然俺も、彼らが俺を守るためではなく、逆に俺から周囲を守るために取り囲んでいることぐらいは分かっていた。下手に動いたら斬られそうで怖い。


「タケトさん、窮屈な思いをさせてごめんなさい」


俺を心配して憂い顔(うれいがお)で声を掛けてくれる姫様。


美少女は何をやっても絵になるな。結婚するならこんな人だよな、やっぱり。


「オホン、姫様、これは正式な裁判です。私語は慎んでくだされ」


偉そうに姫様を遮るおっさん。いや偉いんだろうけどさ。


「それでは判決を言い渡す。被告人は死刑」


「ちょっと待った!!」


おいおい、裁判とか言っておいて俺の言い分は無しとか、どんだけブラックな裁判だよ!


「いいや待たん。貴様が何を言いたいかは大方察しは付くが、王宮破壊は陛下への反逆も同然、当然通常の手続きの必要もなく死刑じゃ」


おうふ、流石にこんな超高速裁判は予想してなかった。考えてみれば、この国が民主主義国家じゃないのは確実だから、考え付いてもよさそうな結末だけどさ。

しかもこう完全包囲されてちゃ竹を生やす隙なんかあるわけない。もうこれまでかと俯く俺だったが、大臣のおっさんの言葉には続きがあった。


「しかしこの刑に対して姫様、女王陛下から助命の要請があった。陛下曰く、こちらの都合で異世界へと召喚してしまったこと、また陛下の命によってあの召喚魔法が使われたことから罪人に王宮破壊の意志はなく不幸な事故だったという主張じゃ。

そこで関係部署を招集して話し合った結果、罪人の罪を二等減じ、王都並びに主要都市からの永久追放とすることとなった」


「おおお!」


つい声を上げてしまった俺だが、おっさんに睨まれたのでこれ以上の絶叫は控えた。


「と、ここまでは内向きの話じゃ。この先は外向きの話になる」


おっさんはなぜか俺を再び睨みつけながら怒りを隠そうともせずに喋りだした。


「貴様が出現させた謎の植物は、この大広間だけではなく王宮中に生えてあらゆる場所の床と天井を破壊した。幸いにもアレに貫かれたものは一人としていなかったが、驚いて転倒してケガをした者が続出し、王宮の機能は一時的にマヒした。

それだけなら王宮内で緘口令(かんこうれい)を敷けばいいだけのこと。じゃがあの植物は王宮の屋根という屋根を突き破り、外にいる民衆にその破壊の様子をまざまざと見せつけたのじゃ」


そこまで言い切ったおっさんは深いため息を一つ吐いたが、すぐに気を取り直して俺への恨み言を再開させた。


「こうなっては、一刻も早く王都全体に何かしらの布告を出さねば国全体が大混乱に陥る。そこで陛下の了承の下、ワシの一存で貴様がのんきに寝ている間にこのような触れを出した。


勇者召喚の儀式の最中に突如高位魔族が王宮を急襲、謎の植物で王宮を破壊すると今度は大広間にいる我らを皆殺しにかかった。

だが召喚直後の勇者様の反撃に遭って魔族は死亡、辛くも撃退に成功したが勇者様も深手を負い、そのまま息を引き取った」


「あれ、それってつまり……俺が社会的に死んでないか?」


「ほう、察しがいいな、その通りじゃ。貴様はこれからは異世界から召喚された勇者ではなく、別件で追放刑を受けたただの罪人タケトとして生きていくことになる」


おいおいおいおい、それじゃ俺のこの先の人生崖っぷちどころか完全にどん底じゃねえか!!


「悪気はなかったんだ!」


「そうじゃな、罪人はみんなそう言いよるわ。貴様の場合はワシ自身が証人の一人じゃがな。王国全土を見渡してもこれ以上の証人はおるまいな」


分かってるよ!ちょっと言ってみただけだよ!


……はあ、まあ殺されずに済んだだけでも儲けものと思うしかないか。やっちまったのは事実だしな。

俺は姿勢を正すと姫様とおっさんに向かって頭を下げた。


「なんじゃ小僧、言いたいことでもあるのか」


「この度は王宮を壊してしまって誠に申し訳ございませんでした!いつになるかはわかりませんが、壊した王宮の修理代をお返ししたいと思います」


「ほほう」


「タケトさん……」


まあこれくらいは言っておかないとな。もちろんやれる限りのこともするが。


「ふざけた小僧だと思っていたが、意外に殊勝ではないか。その言に免じて業務停止の損害は差し引いて、王宮の修繕費用のみの請求で許してやろう。正確な試算はこれからだが、金貨にして百万枚、貴様が払うというのだな?」


「じいっ!?それは王国予算の一割にも達する金額ではありませんか。それをこの世界に来たばかりで、右も左もわからないタケトさんに背負わせるなどあまりにむごい仕打ちです!」


「姫様、これは大臣の職分です。口を出されませぬよう。どうじゃ小僧、それでも払うというのか?」


俺を試すかのように尋ねるおっさん。だが俺の決意は一ミリもブレていない。


「もちろんです。必ずお返しします」


「ふん、生意気抜かしおって」


口では不機嫌そうに言うおっさんだったが、不思議とその目は笑っているように見えた。


「だれも貴様のような小僧が金貨百万枚も稼げるなどと思っておらんわ。あれは王都にさえ入らなければこれ以上罪には問わないという姫様の恩情以外の何物でもないわ」


なんだ、欠片も信じてすらいないのかよ。別に、全く当てがないわけじゃないんだけどな。


「だがもし、貴様が見事金貨百万枚を持ってくることができたなら、その時はすべての罪を許し、再びグノワルドの勇者の称号を与えようではないか」


いや、前半部分だけで結構です。後半は全くもって望んでないです。なんて、さらにおっさんにキレられそうだから言わないけどさ。


とにもかくにも、俺の命は姫様のおかげで助かったようだ。俺が寝ている間にどんなやり取りがあったかわからないから、本当は大臣のおっさんが助けてくれた可能性もあるけどさ。

おっさんのツンデレ……いや、やっぱないわ。


「ついでと言っては何だが、追放の刑に当たり、最低限の物資の支給、さらにいくつかの候補地の中から追放先を選択できる権利とそこまでの移動手段の手配がされることになる。

もっとも、これは前例のないことではないから貴様への配慮というわけではないがな。全ては姫様の御慈悲の賜物だ、ありがたく受け取るがいい」


やだ、このおっさん俺を落とそうしてくるんですけど。もう五秒見られていたらヤバかった。


そんな俺の一時の気の迷いを晴らすかのように姫様が話しかけてきた。


「すみませんタケトさん、私たちの都合で振り回してしまったばかりか、こんなことになってしまって。本当にお詫びのしようもありません」


「いえ姫様、俺が王宮を壊したことは事実ですから。姫様のお陰で自由とはいかなくても、それなりに生きていくことはできそうです。こっちこそお役に立てなくてすみません」


「魔族の勢いは日に日に激しさを増しています。情勢が変わればタケトさんが武功で代わりに罪を晴らす機会もきっとやってきます。どうかそれまでお達者で」


いやいや、なんでこの世界の人達は俺を戦いに駆り立てたがるの?俺はそんなことは一言も言ってないのに。言わないけどさ。






こうして俺の異世界生活の激動のプロローグは幕を閉じ、スタート直後に王都追放という、割と悲惨な部類の第一章が幕を開けるのだった。

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