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濃霧都市の夜宴/吸血姫の恋人  作者: 真剣狩る戦乙漢ゆ~ゐ
第一幕  貌がないジャバヴォック
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僕の才能と僕の武器  2

「本当になんにも知らねぇんだな」



「だから、ヴァンパイアさんが言っていたじゃないですか。此処に着たばかりだって」



「だとしても、知らなさ過ぎなんだよ。おめぇは。ったく、俺様はガイドかよ」



「ごめんね。でも、僕がいた世界と比べたら仕組みが全然違うし、その、」



「世界の仕組みじゃなくて、頭の仕組みが可笑しいがあっているんじゃねぇか?」



「……」



「だったら、あの機関車? あと飛行船? どう言うものか説明してよ」



「そりゃ……そういうもんなんだよ。野郎なんだから、細かいこと気にすんじゃねぇよ」



「……」



 運転席に座る僕の隣、助手席に座るハルは溜息を零した。



 僕達、ジェーンとハルと僕は、昼間のロックスフォードを自動車っぽい自動車に乗っている。

 あれから朝食を終えた僕達は、僕の武器を買いに、彼女達が贔屓している武器屋に向かっている最中だ。

 勿論、この提案に剣とか銃とか持ったこと無い僕は拒否したのだけど、ヴァンパイア曰く、「自衛用に持っていて損はない。お金のことなら心配するな」とのこと。

 確かに、彼女の言う通り、飽く迄も自衛用として一丁ぐらいは欲しい。

 彼女達と関わったせいで、悪魔の仲間になってしまうのは嫌である。



「くっそ……。ボス、こうなることを分かっていて、逃げやがったな……」



 後部座席に乗っているジェーンの言葉通り、この場にヴァンパイアはいない。



 彼女は屋敷にいると思う。彼女の言葉を信じるなら、仲間の帰還を待っているらしい。が、あの胡散臭そうに感じてしまう表情と口調で答えているのだ。信用するよりも先に何故だか疑ってしまう。



「そ、それにしても、この車、何処に向かっているんですか?」



 僕はそんな疑惑を覆い隠すように話題を変えた。



 運転する席だから運転席と言う筈なのに僕が運転していない。ただ運転が出来たところで、運転出来るかどうか怪しいのだが、最初からハルが僕の代わりに運転している。



 その、腹辺りから伸びているケーブルを使って。


 ケーブルはハンドルの中心に繋がっている。



 彼女は人間ではなく機械人形と言う蒸汽で動く物だった。

 間近で彼女を観察すると良く分かってしまう。

 首や腕、手首や指などの関節は球体で出来ており、眼球は、一見、人間のような眼球に見えるのだが、良く見れば僅かに光を放ち、口なんかは唇を動かすことが出来るけど、舌と声帯がないから喋れない、喋りたくても喋れない。他にも人間と違う箇所がある。

 けど、あまりにも人間そっくりだったから、僕の目には無口で可愛らしい幼女にしか見えない。

 そう見えなかった。



「人気が少なくなっていくんですけど」



「死街地に向かっているんだからな」



「市街地だったら、人気が多くなっていくと思うのですけど」



「? 死街地だっから、人気が無くなっていくのは当たり前だろう」



「……」



 僕の疑問に対して、彼女達の頭上にクエッションマークが浮かび上がらせている。



 僕達を乗せた車はヴァンパイアの屋敷とは反対側へと進んでいた。

 最初は昨夜通った賑やかな通りを走っていたのだけれど、時間と車が進むにつれ、道路と配管は荒れて行き、人だって、真新しい服を着た活気がある人々から、薄汚れた服を着た憂いに満ちた人々に変わり、視界も薄らとだが、蒸汽が蔓延しているせいか見えにくい。

 何だか古臭いスラム街に進んでいるように感じた。



「オメェは何か勘違いしているから言っておくが、今からピクニックや旅行の準備をしに行くわけじゃねぇんだ。悪魔共がぶっ殺す準備をしに行くんだ。まっとうの通りにある武器じゃ火力が足りねぇ。と成ると、非合法で改造している武器か、軍が採用している武器を取り扱っている店になる。今から行く店はソコだ。一応、俺様が使っているようなアンティークガンも取り扱っているな」



 ジェーンは愛銃を軽く叩く。



「アンティークって言っているけど、この時代に合っている銃だと思うんだけど」



「何言っていやがる? 新大陸発見時に作られた銃なんだぜ。ま、そのお陰でゴチャゴチャしたもん付いていねぇけどな。オメェに与える武器はゴチャゴチャした方だ」



「えっ? 何で? どうせ買ってもらえるだったらジェーンみたいな銃が良い」



 僕はジェーンの方に振り返って自分の意思を伝える。

 コレにはこだわりがあると言ってもいい。

 ジェーンの意見に賛同するわけではないが、アタッチメントが――後付けの装備が付いてない銃の方がかっこよく見えるからだ。

 そのせいか、トルーラブとかその部下の双子が持っていた銃には、必要だけど無意味な機能があるように見えてしまう。



「俺様もそう言いてぇけどよ」



 ジェーンは難しそうな表情を浮かべた。



「オメェの才能はアンティークガンを補える力を持ってねぇ。それを補えるほどの技量を持っているなら話は別だがな。しっかし、昨日軽く対峙した時も含めて、普段からの反応を見る限り、そんな技量を持っている風には見えねぇ。どんなに贔屓目で見てもな。オメェ、どんくせぇとか言われねぇか?」



「言われるけど……」



「だろ? だったら、尚更、だ」



 彼女はそれだけ言うと、後部座席の背凭れに深く寄りかかり、両足を運転席と助手席の肩辺りに乗せる。

 臭い。

 泥に染み付いた悪臭が臭過ぎて、思わず手で退かしてしまった。

 けど、彼女はもう一度片足を運転席の肩辺りに乗せる。



 もう一度、退かしたけど、彼女は諦めず、再度片足を乗せる。



「別に良いじゃねぇか。空気なんて減るもんじゃねぇんだからさ。寧ろ、滅多にすえない臭いが吸えてラッキーじゃねぇか」



 ジェーンはニヤニヤと笑みを浮かべて言う。



「僕が吸える新鮮な空気が減るから」



「あとで嫌って思うほど吸うんだ。今のうちに慣れておいた方が良いぜ」



「慣れたくもないし、嗅ぎたくもない」



「そう言っているは今のうちだぜ」



 後ろでジェーンが何か言っていたけど、僕は視線を前に向け、そのままハンドルにもたれかかる。ふと、隣から視線を感じた。その姿勢のまま見てみると、何故かハルが此方を睨んでいる。



「……」



「何もしていないだろう?」



「……」



 ハルは無言で左腕の袖を二度引っ張った。

 ハンドルの上に乗っかっている僕の手が邪魔なのだろう。

 手をどかしてあげると、彼女も袖から手を離してくれた。



「ああ、ごめん」



「……」


 僕が謝ると、ハルはコクリと頷いては再び視線を前へと戻す。



「おっと、謝っている最中で申し訳ねぇがそろそろだ。あそこの角を曲がった瞬間、ロックスフォードの無法地帯、死街地だ。俺様達はツアーガイドじゃねぇが決して離れるなよ。俺様達でも命の保障はできねぇ」



「命の保障って、まさか悪魔がいるとか」



「そのまさかだ。隠れ潜むには打って付けの場所だしな」



 ジェーンがそう答える最中、僕達を乗せた車はその角を曲がると同時に停車する



「なっ!!」


 目に映った光景に絶句してしまう。






 その先は蒸汽によって遮られていた。

 先が一切見えない。

 その通りを覆い隠すほどの馬鹿でかい配管から大量の蒸汽が噴き出しており、そのせいで濃霧のようになっている。

 蒸汽に対してトラウマを持っている僕にとって、現実逃避したくなるような光景が待ち受けていた。






「……本当に此処? 道を一本間違えたとか」



「さっきまで一本道だっただろう」



 僕の確認も虚しくジェーンに否定される。ハルもウンウンと首を縦に振っている。



「とりあえず、マスクとコートでも着けていやがれ。ボスから予備のマスクとコートを預かっているだろう? それを着けていりゃ、スプレーを使わない限り、大丈夫だからな。ほら、早速着けてみろよ。じゃねぇと、ドア開けるぞ」



「わ、わかったから、ちょっと待ってほしい」



 僕は慌ててマスクを懐から取り出す。

 ゴーグルが付いていない、あのグルーミングマスクみたいなマスクだ。

 ベルトで締める際、緩く締めようと思ったけど、万が一に備えてきつめに締めておいた。

 次に足元に置いてあったコートを取り出す。

 軍で使われていそうな黒くて頑丈のコートだ。

 止めれるところは全て止めて、皮膚に蒸汽が触れないように備える。



 これで、多分、準備完了。だと思う。



「俺様ほどじゃねぇが、中々似合っているぜ」



 それにジェーンは親指を立てると、ドアを遠慮なく蹴り破っては外に出る。

 映画のワンシーンにありそうなワイルドな退出。

 それとドアが壊れたんじゃないかと思うほどの物音。

 かっこいいと思う半分、ドアが元通りになるのかと不安に思う半分で、何とも微妙な表情を浮かんでしまった。

 因みにハルは呆れている。



 彼女はボンネットを開けると二丁のライフルと二つのガンベルトを取り出す。


 ウィンチェスターライフル。


 西部を征服した銃として謳われている傑作のひとつ。



「ほぉら、力強いお守りだ。大事に持って置けよ。威力は心細いが扱いやすさなら折り紙付きだ」



 ジェーンは車に戻ると、僕にウィンチェスターライフルとガンベルトを渡す。



「こんなの渡されても、僕撃った事がないんですけど」



「トリガーを引く。レバーをコッキングする。トリガーを引く。そんで弾が無くなったら弾を詰める。弾が無くなったら、ストックで殴る。それだけだぜ」



「……」



 無茶苦茶な説明に言葉を失ってしまう。



 と。ハルが、もう一度、僕の左腕の袖を引っ張る。今度は何の用だと思い、振り返ってみると、小さいナイフが仕舞ってあるベルトを僕の腕に着けさせていた。

 それも手馴れた手付きで上腕の部分に着けさせている。



「……」



「……そこまで物騒な場所なの?」



「……」


 ハルはコクリコクリと頷く。



「よかったじゃねぇか。また一つ力強いお守りが増えたじゃねぇか」



「いや、過剰過ぎるから!」



「備えあればなんとやらだぜ」



「……」



 誰も僕の話を聞いてくれない。


 ジェーンはゲラゲラと笑い、ハルは相変わらず無言で頷くだけ。


 車は濃霧に向かって走り出す。 



 余談であるが、この世界の自動車のエンジンはトランクの中に詰まっている。

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