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濃霧都市の夜宴/吸血姫の恋人  作者: 真剣狩る戦乙漢ゆ~ゐ
第一幕  貌がないジャバヴォック
12/20

才能と怪人  5

「騒がしくさせてすまない。猫人の方はジェーンと言って、見ての通り、アンティークガンの名手だ。あれほど精密な射撃が出来る者は彼女しか知らないよ。性格は聞いての通り正反対だがね。もう一方はハルだ。実力は知っての通り身体能力が良い。私には劣るがね。彼女は良くジェーンと組んで行動している。無口で可愛らしいヒューマンの女の子に見えるが用心したまえ。ああ見えてもジェーンの保護者だ」



 ヴァンパイアは僕の体に触れて行く。顔から始まって、次に腕、指、腹、最後に足、と。鋼鉄のように硬くなった僕の体の感触を楽しむかのように触れる。






 助かるんですか?


 聞いてくれるか分からないけど、何もしないよりマシだと思い聞いてみる。






「ああ、助かるとも。ついでに、君の才能も分かったよ」



 彼女は、十分に堪能したのか、僕の体に触れるのを止めた。



「それを答えるよりも、まずは君の体を直さないとな。四六時中この体のままでは、私の屋敷が広いと言っても生活に支障が出てしまう。君も鏡を見るたびにショックで暴れ回るのは嫌だろう? ジェーンみたいに弁償で手が回らなくなるのは嫌だろう?」



 僕は無言で頷いた。



「よろしい。では、今度こそ、君の信頼に応えようではないか」



 黒いパイプ煙草を咥えたままクスリと笑う。


 僕は彼女の笑顔に見惚れてしまい、言葉を失ってしまった。



「さて、始める前に二つ、まず一つ目は、君は自分の顔を覚えているかい?」



 その質問に僕は二度頷いた。



「それは重畳。忘れていたら、とんでもないことになっていた。次に二つ目は私が許可するまで、何があっても眼を瞑って静かにして欲しい」



 ヴァンパイアは、もう一度、今度は両手を使って僕の顔に添えた。


 理由を尋ねようとする前に、彼女は言葉を続ける。



「君の意見は尤もだが、こう見えても私は恥かしがり屋でね。見られると恥かしくて集中出来ないのだよ。そのせいで失敗して、君の顔に傷付くのは君にとって不本意だろう? これぐらいは許して欲しい」



 言われるがまま僕は目を瞑った。表現として可笑しいと思う。今の僕に眼などない。けど、いつもと同じように瞼を閉じ、静かに事に備えた。



「ちゃんと眼を瞑ったかい? 失礼。返事はしなくても良い。イエスなら頷く、ノーなら首を左右に振ってくれ。今は、私の言葉を聞き流すぐらい集中して欲しい」



 僕は頷いた。



「良い子だ。次に自分の顔を詳細にイメージして欲しい。どんな髪型で、どんな目つきで、どんな鼻の形していたかを具体的に、だ。言っておくが、簡略なイメージじゃあ駄目だ。元の顔にならなくても良いと言うんだったら、余計なお世話だったかもしれないがね。此処で一つ提案だが、君達が言う異世界に来た記念に顔を変えて見てはどうだろうか?」



 一瞬戸惑ったけど左右に首を振った。



「そいつは安心したよ。自分の顔が一番知っているからな。何、悪いことじゃない。何らかの気まぐれで自分以外の顔をイメージしていたら、今以上に、或いは昨夜戦った悪魔の顔になっていたかもしれない。いや、変顔かな? まぁ、どちらでも構わないか。そんな顔にしてしまった日から、君を見るたびに笑い転げかねない。そう思うと、私は君に救われたかもしれない」



 ヴァンパイアはクッククと笑いながら一人呟いた。


 そんな中、僕は思ってしまう。良いから早くしてくれ、と。



「さて、こっちの準備も終わった。君もイメージが出来たかな?」



 漸くか。思わず口に出しそうになった言葉をグッと堪えて頷く。



 ふと、僅かな瞬間だが、僕の左頬を触れていた少女の右手が離れた。

 次に何を仕出かすのか。

 そう思うと同時に、多分だけど、彼女が咥えていたパイプ煙草を懐に仕舞う音が聞こえた。



「それと、一つ、もう一つ、言い忘れていたことがあった」



 ヴァンパイアは右手を再び左頬に添えながら言った。



「私も初めてだが、心配しなくても良い。失敗はしないさ」



 何が? 疑問より早く、異変が起きた。


 僕の唇に軟らかい何かが押し付けられる。


 それだけではない。


 押し付けた先から唐突に流される異物。



 その異物は蠢いている。

 抵抗しようにも何も出来ない。

 あまりの唐突な出来事に手で抵抗しようにも、舌を使って塞ごうにも、ヴァンパイアの両手が、僕の舌を遮る物が、力強く、絡まり付き、必死の抵抗も空しく、何も出来なかった。

 何かが壊れる音が聞こえたけど、そんなことはどうでもいい。

 何がどうなっているのか、目を開けて確認しようにも、瞼の上から重りを乗せられたかのようにピクリと動かない。

 ただ、名状し難い異物を、この身を持ってを受け入れる。


 それが彼女の何であるか気付いた瞬間、僕は意識を失った。

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