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濃霧都市の夜宴/吸血姫の恋人  作者: 真剣狩る戦乙漢ゆ~ゐ
第一幕  貌がないジャバヴォック
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才能と怪人  4

 一人は彼女はヴァンパイアやニコラとは違った綺麗な容姿を持った女性だ。

 軽くパーマをかけた感じの癖がある茶髪、その髪と同じ色の猫のような耳と尻尾、墨汁を一滴だけ垂らしたかのような黒い瞳、アスリートのようなスレンダーな体格。それに加え、男性物の白いウエスタンシャツに黒いチョッキ、傷だらけのジーンズ、更にガンベルトにウエスタンハット。

 姿だけ見れば、西部劇映画から飛び出して来たヒーロー。

 それか、かっこいい猫人のガンマン、いや、女性だからガンスリンガーだ。



「アイツが連れて来たか、着いて来たかしらねぇが、こりゃボーナス確定だな」



「……」



「ハルも少しは喜べよ。俺様がいるんだ。一分ぐらいで終わるさ」



 もう一人は、猫人のガンスリンガーにハルと呼ばれた幼女だった。



 見た目から判断するに、十歳ぐらいの幼女だ。

 銀髪のショートヘアーにシンプルな黒色の髪飾りを付けている為か、幼い顔付きでありながら何処か大人っぽく感じる。その雰囲気もそうだが、ゴシックファッションと言う格好なのか、白色と黒色の二色を強調した服を着ているため、全体的に可愛らしいより美しいと感じる。

 街中を歩けば、誰もが微笑みながら振り返るだろう。

 そんな幼女が猫人のガンスリンガーの後ろから僕を見ていた。



「ほら、抜きなよ、お遊戯の時間だぜ?」



 猫人のガンスリンガーは腰にある銃をそっと取り出しながら言った。



 その銃は、この世界では珍しく、僕でも知っている銃であった。

 見覚えのある銃と言ってもいい。

 勿論、映画とかゲームでしか見たこと無いけど、舞台が西部劇であれば必ずと言って良いほど登場する銃。

 SAA。又の名をピースメーカー。

 そう呼ばれている銃だった筈だ。



「俺様達はいつでも準備出来ているんだからさ」



「……」



 ハルもスカートの内側に隠していたであろうナイフを黙って取り出している。



 子供が持つには大き過ぎる刃物だ。台所で使うようなものではない。

 だからと言って、紙を裂く用に使うペーパーナイフでもない。

 大人が持つにしても大きいものだ。




 ま、待って欲しい! 僕は人間だ!




「あぁん? 何言っているか、わからねぇ、よっ!」「……っ!」



 彼女達が言い終わると同時である。パァン! と。

 猫人のガンスリンガーから火薬を叩くけたたましい音を出すと、それに合わせるようにハルは走り出す。



 飛んで来た銃弾は腕に当たるも、運が良かっただけかもしれないが、弾いた。


 小さな火花が立つ。僕の体は見た目だけではなく肉体自体も変化している。


 それに驚いた僕は、右手に引っかかっていたテーブルを持ち上げてしまった。


 軽い。半分にしても重そうなあのテーブルが、とてつもなく軽い。


 持ち上げてしまったテーブルはハルに向かって跳んでいく。


 押しつぶしてしまう。


 そう思ったときだ。


 ハルは地面を蹴り上げ、向かってくるテーブルも蹴り上げ、僕の方へ跳んでいく。



 曲芸師も真っ青な身のこなしだ。刃物を振り上げて跳んでこなかったら、この一瞬の出来事に驚いていたかもしれない。

 ……今はその凶刃に驚いてしまっているが。



 止まっていた右腕を盾にして、刃物を受け止める。


 幼女が持つ体重を全部乗せた一撃。普通の人なら両断しても可笑しくない一撃。


 けど、痛くなかった。それも小石に当たったかのような痛みだ。


 ハルはその刃物を軸にすると両足で腕に乗っかり、僕の顔に目掛けて更に跳ぶ。



「背がたけぇって言われたことねぇか?」



 猫人のガンスリンガーは僕の額に二発の銃弾を叩き込む。


 これも痛くなかったけど、目の前で起きた火花に驚いて仰け反ってしまう。



 そこにハルの片足が乗っかる。僕の顔面を踏み台にしたハルはもっと上へ。ぶら下がっているシャンデリアに着地すると、天井と繋がっている鎖を掴んで僕を見下ろす。



「頭上に注意ってな? 折角だ。俺様達が縮ませてやるよ」



 猫人のガンスリンガーは四発の銃弾を絶えず撃ち込む。



 乱暴の口調には似合わない正確な射撃が僕の顎を叩く。

 銃弾は体を通さなかったけど衝撃までは受けきれない。

 小さなハンマーで顎を思いっきり叩かれたような感覚に、脳が揺れ、視界がもっと揺れ、そのまま僕は仰向けに倒れてしまう。



 それと同時に、だ。頭上にあったシャンデリアが、僕に目掛けて落ちてきたのだ。


 大量の埃に加えて、周囲を覆うほどの大量の埃が舞う。



 僕は指一つ、いや、指が無くなっているけど、ピクリと動かせなかった。

 シャンデリアが重たくて、それがぶつかった衝撃が強過ぎて。

 今の体でなければ、全身複雑骨折どころか、原型が残っていなかったかもしれない。

 得物を構えながら近付く彼女達に対して、僕はただ見上げることしか出来なかった。



「ほら、言っただろう? 頭上に注意ってな」



 猫人のガンスリンガーはマスクを被りながら言う。それは僕のとほぼ一緒に見えるマスクだった。目から下を隠したレンズが無いマスク。違うとしたら黒色ではなく茶色。無法者だと思わせる嘴を覆った汚れに汚れきった襤褸切れ。それぐらいだけど、それを持っていると言うことは、彼女もヴァンパイアと同じ怪人であると言うことである。


「しっかし、これだけ頑丈だと、どうすりゃ殺せるもんだか」



「……」



「そんなに心配しなくても分かっているさ。今この瞬間、俺様の才能を使っちまったら仲良く丸焦げだ。俺様達が晩飯にありつける前に、俺様達がボスの晩飯になっちまう」



「ジェーン、人聞きの悪いを言わないでくれ。私は君達を食べようと思ったことは一度も無いぞ?」



 そんな中、見知った声、ヴァンパイアが加わる。



 談話室と会話していたときと同じ態度だった。

 しかし、先程の僕達の行為を見ていたかのような、この惨事を予想していたかのような口調。

 そう思ってしまうと何だか腹立たしく感じてしまうけど、その元気すら僕には残されていなかった。



「それにハルよ。君が付いていながらも、こんな騒ぎになってしまうとは」



 二人の顔を交互に見ながら言う。それに対して、彼女にジェーンと呼ばれた猫人のガンスリンガーは小さく舌打ちを零し、ハルはジェーンにトテトテと近付いては後ろへと隠れた。それだけ言うと、彼女は手に持っていたパイプ煙草を咥える。



「そんなことは言わないほうが良いと思うぜ。どうせ、この事態を引き起こしたのはボスだろ? 俺様達はその後片付けをしたまでだ。張り切っちまったのは認めるけどよぉ」



「……」



 彼女達は手に持っていた得物を仕舞いながら答える。



「それを言われてしまったら言い返す言葉がないのだが――」



「ほらな。俺様達のせいじゃねぇ」



「だとしても、私ではなくニコラが黙って見過ごすと思うかい?」



 ヴァンパイアの口から彼女の名前が出た瞬間、ジェーンは露骨に嫌な表情を出す。



「ボス……冗談でもあの飼い犬の名前を出すのはやめてくれよ。反吐が出ちまう」



「私が居ると何か問題でも?」



 大量の埃が舞う中、ニコラは静かに現れながら言った。

 ジェーンはギョッとした表情で彼女を見ているが、最初からヴァンパイアの後ろに付いていたのだろう。

 ニコラは変わらない様子で言い続けた。



「ジェーン。いい加減、姫様の手を煩わせることをやめなさい」



「ああ? あっちから襲って来たんだぜ? 文句なら俺様よりコイツに言えよ」



「とジェーンは言っているが、どうなんだい? リューノスケ」



 ヴァンパイアは手馴れた手付きでマスクを外し始める。呼吸が少し楽になったけど、彼女の赤い瞳に、薄らとだが、口が裂けている僕の顔が映っていた。

 人間だと思うには程遠い、夢にまで現れてきそうな三日月みたいに曲がった化物の口。

 それが嫌で、嫌で、顔を背けたかったけど、彼女はそれを良しとしなかった。

 僕の顔にそっと置かれた手で見続けさせる。






 だから、助けて、と。


 僕は口をそう動かした。






「すまない。何か言っているのか分かるが、その何かが分からない」



 が、ご都合主義の小説みたいに上手く行かなかったようだ。


 彼女は一度煙を吐いてから言葉を続ける。



「しかし、何が言いたいかぐらいは分かるぞ。助けて欲しい、だろう? 君は私の恋人なんだから、それぐらい分かっているさ」



 彼女の恋人は兎も角して、その気持ちは嬉しかった。


 しかし、恋人。



「なぁ、ハル。今、ボスがなんていったか分かるか? 俺様の耳と目が焼き付いていねぇなら、化物のことを恋人って言わなかったか? そんな顔で見るんじゃねぇよ。そりゃぁ昔からボスは俺様以上の変人ってことは分かっていたことだけどさ」



「……」



「何? 俺様の目と耳が悪くなったじゃなくて、ボスの脳が蒸汽でやられちまった? オーケー。それにしておこう。お陰さまで最近ボーナスに色がついていねぇ理由がわかっちまったぜ」



 されど、恋人。



「貴女の給料が低いのは、前借している分を差し引いているからです。それぐらい分からないのですか? いえ、野良猫に理解してもらおうと思った私が馬鹿でした」



「何だよ。大切なボスが化物に取られちまって悔しいんか? 飼い犬。そうだよなぁ。訳のわからねぇ野郎かどうかわからねぇが、主を取られちまったんだからなぁ」



「……」



「別に悔しがっていません。それよりも貴女に貸したお金、そろそろ返してください」



「心配しなくても返してやるさ。ボスの機嫌次第になっちまうがな」



「……」



 結果、外野がざわめいた。


 それも五月蝿いのである。唯でさえ女性が二人も集まれば騒がしくなると聞くのに、女性が四人も集まっているのだ。視界の外で騒いでいると言うのに、誰がどのように言っているのか、想像出来てしまうほどである。



「すまない。良いムードを作りたいのだ。三人とも下がってくれないか?」



 流石にヴァンパイアも五月蝿いと感じたのだろう。

 彼女は少し困惑した表情で三人に声を掛けた。

 今、耳を傾けるとしたらニコラぐらいだろうけど、声を掛けないより幾らかはマシである。



「分かりました。直ちに、お二人を下がらせます」



「ちょっと待てよ! まだ――」



「……」



 失礼な表現であるが、当然、三人とも違った反応であった。ニコラは先程までの態度から一変してスグに行動に移っているらしく、ジェーンの声が遠ざかって行っている。ハルはその彼女達の後ろに付いて行っていると思う。

 何はともあれ、静かになるまでそんなに時間が掛からなかった。


 辺りが静寂と埃が収まった食堂で、ヴァンパイアは溜息と煙を軽く吐く。



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