十章 七の罪画
そうして、十八年に及ぶ一連の事件は終息を迎えた。
ローラン院長の心臓を貫いた発砲は僕等の弁明の甲斐あって、無事正当防衛が認められた。勿論、僕を含め全員即本館へ救急搬送。だが敬愛するボスを眼前で喪い、衝動的に咽喉を掻き切った秘書。彼女は約一時間後に死亡が確認された。被疑者全員の死に因り、事件は書類送検と言う形で収束する事になるだろう。
―――慈しみ深き主よ。希望の内に人生の旅路を終えた子羊を、あなたの御手に委ねます。
―――別離の悲しみの内にある我等も、主よ。希望に支えられ、あなたの下に召された兄弟と共に、永遠の喜びを分かち合う事が出来ますように。
―――バイバイ、パパ……アーメン。
六月君の証言で翌朝、無事本物のベン・リア警部の遺体は発見された。葬儀は遺族、特にジェーン嬢たっての希望に因り二日後、例の小教会で鎮森兄弟が務めた。やっと帰宅した父親の変わり果てた姿に、母親同様啜り泣く赤毛の少女。普段は明朗な同級生の涙に、幼神父は無言で胸を貸していた。事件以前より一回り大きくなった背へ、新たな絆と覚悟を背負って。
同日に従兄弟及び彼の飼い猫も帰宅し、我が家に束の間の静寂が訪れた。まあそれも、娘が退院するまでのたった七日間だ。妻は早速ペットカタログに夢中だし、僕は僕で留守中溜まっていた仕事の処理に忙殺。寂しさを感じる暇も無い。
アンタレス君は一足先に今朝、無事に退院の運びとなった。腰は回復したようだが、養生の間に別口の追試が発生したらしい。当分安静に、との担当医の指示も忘れ、病院を出るなり大学へ飛んで行ってしまった。若いなあ。
―――礼を言うぞ、プロキオン。今回の一件で、ようやく自分に正直になれた。
昨日診察室に顔を出した鳩木院長は、そう気恥ずかしげに左手の薬指のリングを見せてくれた。
―――再審や諸々の手続きで、生憎年内に退院許可は下ろせないらしい。ま、別に構わんさ。待つのには慣れているし、それに、
ふふっ、廊下に漏れないよう控えめに吹き出す。
―――昨日この片割れを手渡した時、あの人が言ってくれたのだ。今まで信じてくれてありがとう、と……その一言で充分報われたさ。
―――ええ。どうかお幸せに、鳩木院長。
そして命懸けの死闘は終わり、僕等は再び平和な日常へと帰って行く。仮令片隅に一抹の、個人の狂気など生温い、忌避すべき広大無辺な邪悪が横たわっていたとしても……。




