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雲雀君が空恐ろしい位ベンツを飛ばした甲斐あって、出発から僅か四十五分後。消灯後のローラン病院へ到着した。推理の正解証明として、駐車場には先程別れたばかりの愛車が。どうやら第一関門は無事突破したようだ。そして、
「御免御免、出遅れたわ!」「済みません。手続きに手間取りました」
数台のパトカーで現地入りする刑事コンビ。作戦指揮者が警官達に包囲指示を飛ばす中、肩にホルスター装着の朱鷺さんは僕等の下へ。
「当直の先生達には上から話を通してもろた。多少派手にドンパチしても、本館からは出てけえへんので御安心下さい」
「感謝します。で、早速ですが例の結果は―――いえ、仰らなくて結構です。突然辛い事を依頼して申し訳ありません」
謝罪に、ええんやって先生、目尻にうっすら浮かぶ物を指先で拭う。
「ただロバートさんと連チャンで、その上急やったからまだ吃驚しとるだけ。学生君はもう中へ?―――了解、突入第一陣はうち等三人で。もし一時間以内に追加連絡が入らへんかったら、シドが即全警官率いて院内を制圧する手筈や。署長の説得に続いて、ホンマ今夜からは足向けて寝られへんわ」
「同感。先生、準備はいいか?」
両腕に愛用のトンファーを装着し、勿論、肩掛けにした診察鞄を背中側へと回す。首魁が「あの人」な以上、怪我人続出は避け難い。唯一人の治療役として、常時応急手当可能な状態にしておかねば。
「けど先生、さっきの話本気っすか?『第六指事件』と今回の事件の犯人が」「何だ何だお前等。こんな夜遅くに屯って」
何時の間にか駐車場の端に停車していた黒色のクーペ。運転席から現れたリア警部は物々しい雰囲気を放つ元同僚達を、続いて三人の遺族を眺め回す。
「オッサン?管轄のヘルンならともかく、あんたこそ何故」
「こっちのダチに飯奢ってもらってたんだ。んで、アパートに帰ろうとした矢先、パトカーが大挙で目の前を横切って行ったからよ。すわ事件かと追っ掛けて来た次第だ」
待てよ、半日分伸びた顎鬚を掻く。
「先生がお出ましって事は……まさか例の狙撃犯、この病院に潜伏してるのか?」
「いいえ、残念ながら彼はつい先程亡くなりました。僕等が今夜追い詰めるのは彼を操り、永久に『第六指事件』を闇へ葬り去ろうとしている連中です」
かつて自身が解決に導いた事件名に、何だって?鼻白む捜査官。
「ジャギー・ローラン氏は真犯人に陥れられた、無辜の被害者だったのです。証言台にすら立てないよう、御丁寧に精神まで破壊されて」
手段に関しては凡そ想像が付く。必要なのは悪夢用の睡眠薬と、手元に置く証拠の品々。一目で異常を悟り、自己への疑心暗鬼を深めるよう、犠牲者の血を付着させておけば尚完璧だ。
多分平穏な夜も、精神侵食の工作は不断に実行されていた筈だ。寝室の持ち物を移動、或いは破壊して。手足も土泥で汚し、恰も夢遊病を患っているかの如く装う。そうして犯人は時期を見計らい、こう証言するだけで良いのだ―――寝巻き姿で毎晩何処へ行っているんだ?と。
(全く非人道的な、悪辣極まりない姦計だ。狂気への最短最適解だよ、本当)
氏は院長の座に見合う、厳格で責任感の強い人物だったに違いない。そこを巧みに突かれ我が変事を誰にも、身近な家族や慕う一番弟子にさえ、相談出来ず仕舞いで錯乱の道を辿らされた。否。仮令救いを求めても、狂人の戯言として握り潰されてしまったのか。他ならぬ真犯人に因って。
「あの事件が終わってない?到底信じられん話だな……」
「あの、リア警部。納得して頂けるかは分かりませんが、宜しければ御同行願えませんか?」
同行者等の視線に射抜かれる中、ここで再会したのも何かの縁です、僕は続ける。
「生憎僕は唯の医者ですし、同行する二人もお世辞にも陣頭指揮を取れる程経験豊富とは言い難い。そこで先の事件の立役者であるあなたに、突入部隊のリーダーをお任せしたいのですが」
突然の大抜擢に、俺がか?相手は一驚。思い倦ねた後、そいつは願ってもないが、小鼻を膨らませ言い澱む。
「事は連続殺人犯の確保だぞ。丸腰では流石に行けんぞ」
「勿論警官隊の予備の拳銃をお貸ししますよ。少々お待ち下さい」
頼んだよ。葵刑事とそう目礼を交わし、彼を見送った。




