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 きっかり七十段目で辿り着いた地階は、驚く事に上の建物と瓜二つの構造だった。窓が無く、空気が若干澱んでいる点さえ除けば、誰がどう見てもローラン病院旧館だ。 

 再度周囲の気配を確かめ、取り敢えず手近な部屋へと潜入。どうやらここは倉庫らしく、床には大小様々な段ボールが積まれていた。表面には医療道具名と思しきラベルが貼付されているも、生憎医学知識ゼロの彼にはサッパリだ。

 その無機質な室内で、一際異様な雰囲気を放つ物体。最奥に鎮座する深紅の長物入れへ、飄々と歩み寄る。縦三メートル、横は一メートル。深さは凡そ五十センチか。細身の鳳なら優に二人は入れそうだ。

「……棺桶?」 

 そう呟き、芸術家は敢えて禁忌の蓋に手を掛ける。ずずず……奥に半分程ずらし、開放された闇を懐中電灯で退ける。


―――そうして暴かれた中身は、何十箇所も骨折した一揃いの白骨死体だった。


 手杓子で測った所、身長は約百七十センチ。男女の区別は付かないが、頭蓋骨には銃創と思しき小さな痕跡。一方、加虐な打ち据えは白骨化後に行われたようだ。サディストの靴底より付着した土泥が、若干黄ばんだ骨の所々を汚していた。

 続いて死体周辺を照らすも、身元に繋がりそうな遺留品は納められていない。棺周囲も一応捜索したが、収穫は反対の隅に転がった鼠のミイラのみだ。

「こりゃ驚いたぜ。うーむ、ここはこれ位かな」

 次行こう、次。早々に見切りを付け、探索者はさっさと死体安置所を後にした。




 廊下に戻り、迷わぬよう壁伝いに西方へ。やがて突き当たったのは、手術室めいた両開きの扉。但し、本家のようにドア上のランプは設置されていない。暫し冷たい鉄板に耳を当てた後、無人と判断した鳳はまたも躊躇無く潜入した。

 一目で分かる程異様な空間。最初に視界へ飛び込んで来たのは、室内中央。床に固定された一脚の総金属製の長椅子だ。肘掛けと足置きの部分から垂れ下がる、使い込まれた革製ベルト。二、三歩近付くなりツン、肉が爛れ焼けたような異臭が鼻を突く。原因が背凭れを汚す黒い飛沫と悟り、賢明な彼はそれ以上の接近を断念した。

 入口から向かって左側の棚には、ああ恐ろしや。猟奇映画でお馴染みの器具が所狭しと、恰も雑貨の如くディスプレイされていた。一方反対側の棚には、これまた整然と数多の薬瓶や注射器が収納されている。ラベルの文字は相変わらず判読不可。だが恐らくは自白剤、或いは口にするのも憚られる劇薬に違いない。即ちこの部屋は、

「拷問部屋、ねえ。人の枕元で日夜励まれてたかと思うとゾッとしねえな」

 嫌味な位ピッカピカのストレッチャーを一瞥し、唇をへの字に曲げる。

「もしかして、さっきのホトケさんも……にしてもこれ、一体誰の趣味だよ」

 器具に埃が積もっていないので、現病院責任者である義妹が一枚噛んでいるのは確定的。しかし完璧な合理主義者のストレス発散法にしては、何処か歪で不自然さが拭えない気が、


「―――兄さん、捜したよ」「え」ドンッ!「っ!!!?」


 振り向き様背へ押し当てられる、金属の固い感触。鋭い電撃が身体中を疾駆し、痙攣反射と気絶を彼へ齎した。



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