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「―――院長。少しお話しがあるのですが」
正面玄関を出、二人で外の駐車場へ。愛車のボンネットに診察鞄を下ろし、徐に話を切り出す。
「単刀直入にお伺いします。院長の他に、度々ローラン氏を訪ねて来ていた男性について。僕の仮説が正しければ存在する筈です。但し、ここ一年以上は御無沙汰かと」
「何だと?」
図星を指され、目を丸くする上司。
「もし彼に何かを質問されたのなら、是非僕に教えて下さい」
あの人の最後の遺志を、真の意味で繋ぐために。
「待て。そう言う事なら先に答えてもらおうか。あの豊かな顎鬚を湛えた紳士の正体を」
勿論そのつもりだ。鞄から預かった写真を取り出し、中央の人物を指差す。
「この男性に見覚えは―――でしょうね。では、こうすれば如何ですか?」
顔の下半分を人差し指で隠した途端、表情が一変。唇を戦慄かせ、何度も目を瞬かせる。
「ま、間違い無い、彼だ。しかし背景に写るこの屋敷、まさか……!」
「お察しの通りですよ。彼は僕の往診先の元の主人。一年前に病死した白虎会前組長、東堂 要氏です」
(やっと同じ所まで来られましたよ、東堂さん……あなたの遺恨、僕等がきっちり終わらせます)
疑問の回答を得、込み上げる複雑な感情から上司は口元を手で覆う。
「そう、か……亡くなっていたのか、彼は。確かに最後に会った時、体調が優れない風には言っていたが……」
「答えて頂けますね?」
「約束だからな、当然だ。とは言え、今の今まで本名すら知らない有様だったのだ。大した話など……いや、待てよ」
顎に手を当て、あれは何時だったか、眼前の広大な森へと視線をやる。
「ただの見舞い客にしては妙な質問を受けたな。あれは確か、そうだ。雑談の流れで、私が外科医だと名乗った時だったか」
「それはどのような?」
催促に、それが、若干困惑を浮かべる。
「意図は皆目解らないのだが―――自分で自分の手術は可能なのか、と」「……は?」
どう言う事だ?東堂さんの思考、僕にも皆目見当が付かないぞ。
「私は名医並の腕と医療道具、特に局部麻酔は必須だ。あとは常人離れした神経と精神力があれば執刀は可能だろう、と返答した。尤も、流石に本人の手の届かない部位は無理だがな」
「それは、実際に症例があるのですか?」
「皆無では無いが、相当稀なケースだ。想像してもみろ。自分で皮膚を切開して、内部の骨や血管とご対面だぞ?その時点で大抵の人間は生理的に不可能だろう。少なくとも私は潔く死を待つぞ、そんな無茶なオペに踏み切る位ならな」
その意見には激しく同意だ。幾ら体内を見慣れてはいても、己の物となれば話は全く変わってくる。そもそも自身にメスを向けるなど、凡そ正気の沙汰では―――え?
(まさか……いや、待つんだ。でも、さっきローラン氏が見せた反応………そうか。純君やクラピト氏のように洗脳されたとすれば、或いは……!)
「……院長、Dr.ローランを解放出来るかもしれません」「何っ!?それは本当」バンッ!「っ!!?先生!!!」
建物内から響き渡る、一発の銃声。師の病室目掛け駆け出す上司の後を追い、僕も診察鞄片手にロビーへと舞い戻る。
「今の発砲は何処からだい!?」
「多分病室の方―――!!?朱鷺、ロバートさんだ!玄関の所!!」
雲雀君の指摘に、慌てて半身を逸らし振り向く。果たして、居た。写真と同じコートを羽織り、漆黒のライフルを提げた包帯男。宛ら幽鬼の如く佇む傀儡が。
「ロバ、隠れて下さい!!」
こちらへ照準を合わせる銃口に、葵刑事がいち早く警告を飛ばす。僕は咄嗟に近場のキム君と六月君の肩を掴み、ソファの陰へと押し込んだ。直後周囲に響き渡る、鼓膜が破れかねない轟音。
「キム君達はここにいて!!」
逃走の気配を察知し、銃を抜き放ちつつ安全地帯を飛び出すトリオ。彼等と共に去り行く影を追い、僕は再び陽光の下へと躍り出た。




