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 半ば引き摺り出した大学生の腕を掴んだまま、家主はパンツのポケットから自宅の鍵を取り出す。

「おい、引っ張るな!」

「だってお前、今右目しか見えてないんだろ?誰かがエスコートしてやらんと、危なっかしくてしょうがない」

「正論。但し、介助者がモヤシでない場合に限る」

 可愛くねーの、ちぇっと軽く舌打ち。

「昔は兄ちゃん兄ちゃんって、こっちがウゼえ位甘えてきたのによ。あーあ、あの頃の純真な坊やは何処行っちまったのかねえ」

 ボヤきながら玄関を開放。数メートル後方の僕等を手招きする。

 数週間閉め切られていたため、屋内の空気は若干澱んで埃っぽい。現場となったリビングは、当然ながら清掃済みだ。ザッと見た感じ、血痕どころか事件の痕跡は何一つ残っていなかった。

「なあ、兄ちゃん。あそこの窓だけカーテンが無えみたいだが」

 雲雀君が指差したのは、居間から続くダイニングの東側の一枚だ。他は全てレースカーテンが閉め切られているだけに、その一角は厭でも目立った。

「ああ。俺もユーリに聞いただけだから詳しくは知らないが、どうも近所の野良猫にやられたらしいぜ。カーテンレールに登られた挙句、結構派手に破かれたんだってよ」そこで俯き、「最後の面会の時にそう話していたから多分、新品を買う前に……」

「……悪ぃ。だが、ここなら覗きたい放題だ。ロバートのオッサンは多分、あの花壇の辺りで犯行を目撃したんだろう」

 前庭の一角を囲む煉瓦、その脇に突き立てられた錆びたスコップ。すっかり雑草の群生地と化した一帯を示す。 

 家主に案内され、奥の階段から二階へ。奥方の趣味だろう。夫妻の寝室も一階同様、甘めのナチュラルインテリアで統一されていた。廊下には他に二つのドア。恐らく片方は六月君のアトリエ、もう片方はユーリさんの私室だろう。 

「えっと、確かこの辺りに……あったあった」

 入口から向かって左斜め奥。書棚の下段から引き出されたのは、厚さ五センチはあるA4版のアルバムだ。手招いたキム君と一緒にベッドへ腰掛け、パステルカラーにマーブル模様印刷の表紙を捲り始める。

「あの時は色々ゴタついてて、結局渡しそびれちまったからな。実は一枚だけあったんだよ、お前と二人で撮った奴が」

「もしかして、登山口でペア毎に並んだ時のか?」

「そーそ、良く覚えてるな。確かこの次のページに………あれ?」

 パラパラ、パラパラ。首を傾げて初めから見直し、再び該当箇所を開く。上下を集合写真に挟まれた空白には、キムと、鉛筆でメモ書きがあった。

「変だな。余所に紛れようにも、家にあるアルバムはこれ一冊だし」

 うーむ、首を反対側に九十度捻る。

「まさか強盗に持って行かれちまったとか?って事は、犯人はショタコ」

「んな訳無えだろ、ヘボ探偵が。捨てた覚えが無いなら、大方家具の隙間にでも入り込んだんだろうさ。書棚の後ろとか、ベッドの下とか。な、プロキオン?」

「まあ、可能性としては一番有り得るけど」

 紛失が一枚だけ、と言う点が若干引っ掛かる。それも選りに選って、幼き日のキム君が写った物が……偶然、なのだろうか?逆にもし本当に盗難だったとしたら、犯人の意図は、

「用は済んだな?なら行くぞ」

「おい、杖代わりを置いて行くなよ!?二人も早く!」

「へーへー。頼むから急ぎ過ぎて転げ落ちるなよ、画家先生」

(……やれやれ。推理は運転中にでもしようか)

 小さく嘆息し、同行者達に続いて無人の愛の巣を後にした。




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