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ドンッ!「わっ!?」「何だ今の!?おい坊主、まさか敵襲か!!?」
一旦女刑事と別れ、市を脱出間際。街道を示す看板を通過した辺りで、突如シートへ鈍い震動が伝わって来た。
助手席に掛けた雲雀君の問いに、無言で車体後方を指差す男子大学生。更に二、三度衝撃が続いた後、ガチャッ!あろう事か、トランクが内側から開いたではないか!?
「停めてくれ、プロキオン」
「ああ」
言われずとも、バックミラー越しに無賃乗車犯の白髪を確認済みだ。指示器を出し、左足で緩やかにブレーキを踏む。
路肩にビートルを寄せ、エンジンを停止。一斉に飛び出す同行者達に半歩遅れ、僕もサイドブレーキを引いて回り込んだ。
「あー、狭かった!やっぱ外は最高だわ」
「あのな、鳳兄ちゃん……一応人の車だぞ、これ」
旧友の指摘など何処吹く風。アルビノのアーティストは暢気に背伸びした。
今日は入院着ではなく、ロゴ入りの深緑色のパーカーに白いジーンズと、今時の若者らしい服装だ。右肩に掛けた茶色い鞄には、様々なキャラクター物のキーホルダーがジャラジャラ。どうやら捨てられない性質らしく、黒ずみ欠けた物も所々散見出来た。
「取り敢えず出ろ。手ぇ貸してやるから、ほら」
「お、サンキュー」
タンッ!軽快に地面へ降り立つスニーカー。
「昔のよしみで一応訊いといてやるが、又懲りずに無断外出とかじゃ」
「正解」
「手っ前、いけしゃあしゃあと!?」
胸倉を掴まれるも、はっはっは、照れるな愛い奴め、六月画伯は至極御満悦だ。
「ところで、あの厳つい兄ちゃん誰?―――へー、あんたが噂の。ヤクザって俺初めて見たぞ。なあ、ちょっと握手してくれよ!」
「お、おう」
珍しい反応に少し躊躇いながら、こんな感じでいいか?蝋細工じみた手をにぎにぎ。
「ああ、ありがとよ。そう言えば自己紹介がまだだったな。俺は六月 鳳。見ての通り美人薄命な新進気鋭画家だ」
自分で言うかフツー。横からのツッコミを無視し、真剣な眼差しで細い拳を握り締める。
「あんた等の捜している探偵、ユーリの事件とも関係あるんだろ?後、セバスの親父が昔やらかした連続殺人とも……」
頼むよ、深々と頭を下げる。
「病弱だけど俺、彼女の仇を取ってやりたいんだ。お願いだ、あんた等の捜査に加えてくれ!」
「足手纏いは御免だ。それに敵の武器は爆弾や銃だけじゃねえ。悪魔の所業だって平気でやりやがる、正に外道共だ。怪我だけじゃ済まないかもしれないぜ?」
不本意な命懸けの応酬を思い出し、苦々しく吐き捨てる若頭。が、病人は彼の忠告に怖気付きはしなかった。
「構わないさ、どうせ長くない命だ。覚悟は出来てる。何時だって、な」
「……顔上げろや、画家さん。ったく、あの女狐の身内にしちゃ肝の据わった野郎だぜ。気に入った」
乗りな、顎を上げる。
「どうせ道中は暇だしな、詳しい話は車の中でしようや。異論は無えな、二人共?」
「つーか、帰れっつって素直に帰るタマじゃねえし」
「ここまで言われたら流石にね」
後で彼の異母妹にたっぷり厭味を頂戴する事になるだろうが、だからと言って重病人を道端に置いては行けない。つまる所、選択肢は一つきりだ。
ちゃっかり旧友の隣席へ滑り込んだ画家は、なあなあ先生、早速座席越しに話し掛けてきた。
「三十分でいいんだけどさ、良ければ俺の家に寄ってくれないか?事件とは無関係だけどよ、キムに見せたい物があるんだ」
「は?後でいいだろ、んな事」
「もしかして、昔のボーイスカウト関係のかい?―――いいよ。道案内を頼めるかな」
尖った声で咎められるも、敢えて無視を決め込む。左目の症状が少しでも好転する可能性があるならば、是非とも賭けてみたい。医師として。何より、未来の義父としては。
「悪いな。じゃ、まずは来た道を戻ってくれ。曲がり角に差し掛かったら、次の指示を出す」
「了解」
キーを回し、ブロロロッ!Uターンのため指示器を上げ、ハンドルを目一杯回した。




