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七章 希の空巣



「―――と言う次第です」「そう……如何にもあの人らしい」


 翌朝。少し早目に起床した僕は、白虎会現組長に昨夜までの捜査報告を行った。

「あの人の写真が欲しいんやったな。今手元にこれしか無いけどええか?」

 そう言って写真立てを開き、差し出されたのは家族のスナップショット。被写体に純君がいる事から二年前、彼を迎えた記念に撮影された物だろう。丁重に礼を述べて診察鞄へと仕舞い、彼女の私室を後にした。

 相変わらずキム君の左目の容態は芳しくない。僅かながら光源に反応するものの、像を結ぶまでには至らず。一応短時間ながらリラックス方も試したが、所詮は気休め。早く事件を解決し、本人が希望するかは別として、専門医の診察を受けさせなければ。

 彼と合流後居間へ赴き、続いて鎮森兄弟の診察へ。包帯を替えて鎮痛剤、雲雀君には追加で化膿止めを処方した。二人共、経過は至って良好。矢張り若い子は治癒力が高い。

 今朝のメニューは、白米に味噌汁。小魚の味醂干しと、副菜は菜の花のお浸しだ。特筆すべき出来事は無し。あ、そう言えばいち早く介助人の気配を察知した純君が、恒例の食前の祈りを省略し、真っ先に汁椀を掴んでいたかな。しかも昨夜の発言通り、左手で器用に箸を操って。仮令おぞましい訓練の副産物だとしても、不謹慎ながら素直に凄いと思う。

 今日の予定は、まず三度リビドへ。ローラン病院で朱鷺さんと共に捜索結果を聞いた後、一旦ヘルンへ蜻蛉返り。二日振りに病床の娘を見舞い、午後は本日のメインイベント。“碧の星”特殊精神病院の虜囚、ジャギー・ローラン氏との面会が控えていた。

「捜査に役立つ話が聞けるといいけど。ねえキム君」

「……最悪でも、俺の『眼』で情報は取れる。あんた等に全部伝達するかは別だがな」

「構わねえよ。俺達は真犯人さえとっ捕まえられればそれで」

 ガツガツ。味醂干しで白米を掻き込みつつ、雲雀君が吐き捨てる。

「尤も、殺人犯を庇う腹積もりなら容赦」

「余計な詮索は止めろ」

 ズズッ。味噌汁を啜り、少年が凛と一喝。

「一時的とは言え、キム兄さんは既に片目を失う程精神を削っている。その自己犠牲だけで、充分信頼する価値は有る筈だが?」

「んな事、言われなくても分かってらあ……無理すんなよ、坊主。俺は見た目通りオツムが軽いからよ、頭脳労働は手前や先生をアテにするしかねえ。その分、荒事に関しては任せな」

 自信満々に胸を張り、リボルバーで膨らんだ懐を叩く。

「白虎会若頭の名に賭けて、手前等には指一本触れさせねえよ」

「そいつは頼もしい限りだな」

 乾き切った笑いを放ち、学生はお浸しの最後の一口を放り込んだ。

 朝食終了後、僕達は手早く身支度を整える。雲雀君は戦闘を考慮し、銃弾を多目にポケットへ。僕も万が一の事態に備え、応急手当の道具を職場で補給する予定だ。

 刺傷の事もあり、今日は終日僕が運転手を務める。うん、今日も見事な快晴だ。

「?あ、先生待った。おい、純!?」

 助手席へ雲雀君が乗り込む寸前。僕等を追い掛けるように玄関から現れた純君は、上目遣いに保護者をチラリ。

「どうした?忘れ物でもしてたか、俺」

「いや。えっと、大した事じゃないんだが……」

 僅かに息を切らせつつ、後ろ手に頬を赤らめもじもじ。?何だろう、彼にしては珍しく煮え切らない態度だ。

「もしかして傷が疼くのかい?ならちょっと待ってて。追加の痛み止めを渡しておくから」

「だ、大丈夫だ!怪我は問題無い。ただ、その」

 直後、彼の保護者は元より僕、車中で横になっていたキム君までもが思わず釘付けになった。具体的には純君の顔面、その下半分の変化に。


「じゅ」「―――気を付けて行って来いよ、雲雀兄。あんた、見るからに危なっかしいからな」


 氷の融けかけた表情筋は、如何にもぎこちない。それでも零れんばかりの笑顔を浮かべ、少年は見送りの挨拶を告げた。 



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