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「いやー、夜中に突然押し掛けて御免ね。しかもコーヒーまで淹れてもらって」「ま、ゾンビみたいな目ぇした野郎が三人もいりゃ流石にな」
医師と並んで漆黒の液体を啜りつつ、キムはコーヒーメーカーが吐き出した二杯を帰還者達へ手渡す。洗顔で幾らかサッパリしたらしく、二人共起床直後より大分マシだ。礼を述べ、改めて四人揃って眠気覚ましを咽喉へと流し込む。
カップを一番に空にした鎮森氏は、因みに学生等とは都合二度目の対面、ヤクザにしては質素な腕時計を確認。
「八時過ぎか。先生、お嬢への面会は」
「今はまだICUだから、僕はともかく雲雀君は無理だろうね」
冷静に答えつつ、まあ、今朝の診察結果次第かな、長年のトンファーで鍛えた腕を組む。
「容態が安定しているようなら、明日にでも一般個室に移れるだろうし」
「だと願いたいっすね。奥方からの連絡の方は」
幸いにも無いよ、携帯を開いて告げる医師。
「おい、オッサン共。さっきから一体何の話をしてるんだ?」
一人置いてけぼりの団長が、なあ、同級生へ向かって顎をしゃくる。
「お前だってそう思うだろ、キ」「スピカが撃たれた」「……は?」
憤怒の臨界点をとうに突破済みの副団長は、無表情で言葉を続ける。
「手前は起きたばっかで知らねえだろうが、今大学はそのニュースで持ち切りだぜ。犯行は昨夜。現場は―――どうやらあんたの家らしいな、鎮森さんよ」
「ちょ、ちょっと待て!何でスピカがヤクザの所なんぞに?大体撃たれたって、あいつは無事なのか!!?」
唾を飛ばし詰問するアンタレスを、落ち着け、冷淡に突き放す親友。
「で、半死半生の娘を置いてまでここに来たって事は、プロキオン。手前、俺に犯人を見つけろってか?」
「御明察。僕等も昨日散々頭を捻ったんだけど、サッパリ心当たりが無くてね」
「おまけに現場が現場なだけに、担当刑事からは早々に見切りを付けられる有様だしよ」
「は?おいおい、一般人が怪我してるのにか?ヤバいだろそれ」
疑問符塗れで困惑するアンタレスへ、最初から順を追って話すよ、被害者の親族が口を開く。
「まずは何故、一般人のナナちゃんが白虎会の本部にいたのか。その辺の顛末から始めようか―――」