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 約束十分前。午前八時五十分にアン・ドゥへ到着した僕等は、カランカラン。彼のドアを十数時間振りに潜る。

 昨日と同じウエイトレスは僕等を確認後、お待ちの方はあちらです、右手で奥のボックス席を示す。無言の案内に従い通路、空席の間を縫って進む。

「よう、シド。待ったか?」

 待ち人の呼び掛けに、今日は非番なのだろう。シャツ&ジーンズ姿の青年は文庫本から顔を上げる。今話題の推理小説だ、しかも先月発売されたばかりの最新巻。

「いえ、僕も今し方来たばかりです」手元のベルでウエイトレスを呼び、「今日は奢りますよ、雲雀さん。皆さんも遠慮せず注文して下さい」

「ハッ、安月給公務員が強がるなよ。―――チッ、分かった分かった。俺はブレンドコーヒー、先生方は?」

「僕等も同じでいいよ。朝食を摂ったばかりだし、運転中に眠くなっても困るからね」

「了解しました。ではホットコーヒー三つと、僕はモーニングを。卵はいつも通り、胡椒をたっぷり利かせたスクランブルエッグで」

 注文を取り終え、早速キッチンへと消える女給。その瞬間を見計らい、皆さん、刑事は耳を貸すようジェスチャー。

「店外に人の姿は?」

「……いや。少なくとも見える範囲は無人だったと思うよ。駐車場も僕等の車と、後は銀色の大型バイクが一台」

「ああ、それは僕の物です」

「ハッ、相変わらずのバイク道楽かよ。つかあれ、新車か?」

「まさか。署の先輩に譲ってもらった中古を、自分でコツコツ改造したんですよ」

 中々格好良いでしょう?得意気にフフッ。

「しかし、成程……盗聴器も仕掛けられていないようですし、取り敢えずは大丈夫か」

 テーブル周辺を確認後、改めて腰掛ける。僕等も彼に倣い、店内をザッと見回してから席に着く。おいおい、随分警戒してやがるな。半ば呆れ気味に呟く若頭。

「深夜の電話と言い、本気で一体何が」

「純君は?今日は連れて来ていないんですか」

「?あぁ、家で留守番させてるが、あいつに用があんのか?」

 訝しげに眉根を寄せ、訊きたい事があるなら電話してやろうか、ポケットへ手をやる。

「いえ、その必要は恐らく無いかと。ところで昨夜は大変でしたね、ニー君。大学寮の、しかも君の部屋に爆弾が送り付けられたとか」

「よく御存知で。全く、警告にしても傍迷惑だぜ」欠伸。「ま、実家へは昨日の内に連絡が付いた。特に貴重品も置いてなかったし、仕送りが届くまでの辛抱さ」

 淡々と告げた被害者は、で?感情の読めない視線で葵刑事を貫く。


「スピカの狙撃と、あんた等の抱えている強盗殺人―――二つの事件の接点は何だ?」「「!!?」」「キム君!?」


 遅ればせながら納得した。成程、そう言う事情なら合点が行く。

「そして出来る事なら、懸想中の相棒には知られたくない、と」

 左の米神に指を当て、まぁ大方向こうも勘付いてるだろうがな、嘯く。

「朱鷺ちゃんが?いや、有り得ない。だってあの子はロバートさんが」

 ちょっと待て、シド!?台詞を遮り、肉厚な掌で制す雲雀君。

「お前等だけならまだしも、この上ロバートのオッサンまで関わっているのか!?確かにあの人は探偵だし、情報を掴んでいてもおかしくはねえが」

「情報、なんて生易しい物じゃありませんよ……」

 歯を食い縛り、瞼を強く瞑り、卓上の右手を固く握り締める。


「ロバートさんは―――僕等が追う主婦強殺事件の重要人物、行方不明の目撃者兼通報者なんです」「っ!なっ!!?」


 驚愕に目を剥く若頭へ、しかも、刑事は続ける。

「彼の通報を受けたのは、他でもない僕です。あの日、いつも通り朱鷺ちゃんと街をパトロールしていたら、突然個人用の携帯が鳴り始めて」

 ごくん、唾を飲み込む。

「『やっと尻尾を掴んだぞ、シド!今度こそ奴も御仕舞いだ!!』現場住所を告げた後、そう繰り返し叫んでいました。犯人に見つかっては拙い。一旦落ち着くようにとの僕等の説得にも、全然聞く耳持ってくれなくて」

「奴、ってのはホシだよな、状況的にゃ」

「はい。何分突然の事態だったので、応援を待たず急遽現場へ踏み込みました。でも肝心の彼の姿は無く、その日を境に消息不明のまま」

 それは若しや、犯人に……顔に出た不謹慎な予想を、いえ、刑事はやんわり否定。

「普通ならそれがセオリーですが、今回に限ってはそう断言出来ない証拠がありまして」

 首を捻る知人へ、確か雲雀さんは御存知でしたよね、と続ける。

「刑事になる以前、僕が度々彼の助手を務めていた事。だから預かっていた事務所の合鍵を使って、時々帰宅の有無を」

「もしかして、何らかの痕跡が?」

「ええ。約一ヶ月前、とある私物が無くなっていたんです」

 すぅ、徐に息を吸う。


「そう―――彼の前職の仕事道具、漆黒に塗られたマウザーM98ライフルが」





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