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「―――統治軍ブレーメン、って御存知っすか」
首都への車中。後部座席に悠々腰掛けた雲雀君が、不意に低いトーンで語り出す。
「ま、堅気にはとんと縁の無え名前でさあ。十五年位前まではマヒワっつー、裏世界じゃ結構古株の傭兵団だったんすよ。けど、クーデターを始め色々とありやしてね。名称が変わって以来、組織はまるで別物に成り下がっちまいやがった」
窓枠に肘を、掌に顎を乗せ、遠い懐古の眼差しを青空へ。
「―――コキュートス(絶対零度)部隊、No.072。それが二年前、俺が保護した時の純の名前っす」「……え?」
「ブレーメンは誘拐や人身売買を繰り返し、精鋭の餓鬼共に因る傭兵部隊を作り上げた。その頂点、生え抜き中の生え抜きが、あいつが所属していた通称『十三使徒』。あらゆる戦闘術を叩き込まれた、最凶の人間兵器共だ」
あの純君が?まさか……でもそう言う事情なら、彼の言動にも納得が行く。年齢不相応に大人びた態度なのも、決して笑顔を浮かべようとしないのも……。
「その、救出されたのは彼一人なのかい?他の子達は」
「掃討作戦時、大半は已む無く始末されたと聞いてやす。ただ幹部の大人含め、残党の存在は……先生。あいつさ、昨日みたいにきっかけがあると、未だに昔の夢を見ちまうんですよ。汗塗れで散々魘されながら、子犬みてえにガタガタ震えて」
未発達の、声変わり前の咽喉で、子供に有るまじき恐怖の叫喚を迸らせる、と。
「作戦が終わった後、ウンザリする位他の組の連中から忠告されたんすよ。そいつは丸裸のニトログリセリンより危険な餓鬼だ。これ以上情が移らない内に『処分』しちまえ、って」
舌打ちし、皺を寄せた額を押さえる。
「……親父が巧く場を取り成してくれなかったら、危うくもう一暴れする所だった」
「そいつ等の言い分は正しい。あんたは無意識に重ね合わせているだけだ。純が自分達と同じ、憐れな孤児だから」
キム君は助手席で尚背を丸め、組んだ腕に顔を埋め、悪い、振り返らないまま謝罪した。手前の言う通りだ、雲雀君も同意。
「けどな坊主、同情だけじゃねえ。あいつはあの生死も曖昧な戦場の中、敵の筈の俺の背を守ってくれた。その借りを返すためならこの命、惜しくはねえ」
スーツ越しに懐の拳銃を叩き、覚悟を再確認。
「保護者を名乗るってのはつまり、そう言う心意気だと俺は思うぜ。せめて極普通の、教科書通りの、ありふれた幸せを只管に願って」
「鎮森の兄ちゃん。その覚悟、絶対に忘れるなよ」
バックミラーを介しての視線にビクッ!肩を震わす気配。動揺する若頭を一瞥し、心を強く持つんだ、預言者は静かに続けた。
「そいつを忘れたら一巻の終わりだぞ。あんたも、あいつも……な」




