表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/67

2



 爆発から遡る事五分。三人と別れたキム・ニーは男子学生寮のロビーにいた。

 常の習慣で入口から向かって左側、集合私書箱を開ける。八割方は空だが、偶に急を要する通知が入っている事がある。一度それで危うく単位を落しかけたので、以後は帰宅時に欠かさず確認する習慣を付けていた。

 学食の微妙な割引券を手に階段を昇り、自室のある三階へ。帰宅の足音を聞きつけ、お、やっと御帰宅か名探偵、隣室の三○二号室からひょっこり阿呆面が覗く。

「成果はどうだった?」

「まあまあだな。お前こそ補習はどうなった、ゴンザレス」

 すると劇団長は分厚い己の胸板を叩き、一発OKに決まってるだろ勿論、自信満々に歯を剥き出した。

「俺に掛かればあの程度の課題、お茶の子さいさいだぜ」

「へえ。で、現実は?」

「GW空けにロハで図書館の書庫整理だよ、畜生め!!」

 自業自得、いや寧ろ有情的措置に憤る身の程知らず。指摘代わりに苦笑い、キムは自室の鍵を開け、ドアノブを回す。

「おい副団長、捜査報告!」

「悪ぃ、何か今日物凄えダルくってさ。頼むから寝かせてくれ」

 がっくん、がくん。重たげに左右へ首を振る彼は、今この瞬間にも睡魔に屈しそうだ。親友の見慣れぬ異変に、おい、流石に床で寝るなよ!?親友歴通算五年のアンタレスは太眉を顰めて怒鳴った。

「ああほら、しっかりしろ」

 よろめきと同時に腕を伸ばし、細身を支えながら室内へ。取り敢えず手前の椅子に座らせると、“緑の北極星”はぐんにゃりと背凭れへ上半身を預けた。晩飯は?要らねー。蚊の鳴き声にも似た返事にガシガシッ!訳の分からぬ苛立ちから頭を掻き毟る。

「ったく、そのザマじゃ仕方ねえな。手前宛の小包が届いているんだが、明日の朝まで預かっといてやるよ」

「……小包?」

 ピクッ。片目を億劫気に開け、誰から?僅かながら張りを取り戻した声で尋ねる。悪ぃ、覚えてねえわ、あっけらかんと答える団長。

「ただ、少なくともお前の実家からでなかったのは確かだ。ベアトリーチェお母様は、そりゃもう見事な達筆だからな。俺様が見間違える筈」

「気色悪い自慢は後で聞いてやるから、すぐにそいつを持って来てくれ。ナマモノだったらいけねえし」両目を擦り、「一応確認してから寝る」

 うーん、伸び。疲れ切った身体に鞭打つ親友を残し、アンタレスは一旦自室へと引き返した。

 そして三分後。来客用テーブルに置かれたのは、茶色い梱包紙に覆われた立方体。貼り付けられた宛名用紙を確認し、何だこりゃ?預かり人は首を捻った。

「この小包、部屋番号と名前以外空欄だぞ。一体どうやって寮まで届いたんだ?―――あぁ、んなの一階の管理人に決まってるだろ」

 ポリポリ、困惑した風に頬を掻く。


「手紙以外は基本的に全部、あの爺さんが一旦預か」「!?アンタレス、そいつを外へ放り出せ!!爆弾だ!!!」「っなっ!!?」


 反射的に小包を掴む豪腕。同時に、若くして幾度か修羅場を潜って来た彼は察知する。掌下の小空間で息を潜めた、電気仕掛けの冷たき殺意を。

 咄嗟に親友を抱え、出入口へタックル。投擲された凶器の窓硝子貫通と、爆発はほぼ同時だった。鼓膜を破らんばかりの轟音。解放された火炎の狂舞。そして部屋中を吹き荒れる、皮膚を焼き焦がす灼熱の波。


 ガンッ!ドンッ!!「ぎゃっ!!」「おい、アンタレス!?」


 追い熱風に押しやられ、勢い余って額から廊下の壁へ激突。無傷の親友をその場で下ろし、何故か彼は頭ではなく腰へと手をやった。

「お、おい……?まさかギックリ腰かよ、その若さで」

 確かに補習のお陰でここ数日、体育会系ゴリラにしては異例の長時間座位が続いていた。しかし痔ならまだ分かるが、直接腰に来るか普通。

「何ボサッとしてんだ手前!?早く救急車呼べ!痛ててて……」

「はいはい」

 火の海と化した自室扉を蹴りで閉め、一先ず重症の親友を立たせる。吃驚仰天で現れた同級生達へ、同時進行で簡略に事情を説明。彼等の肩を借りつつ、爆心地から充分な距離を取る。他に怪我は?煤塗れの巨躯を視認し、キムの異能なら一目で判別可能な筈だが、切迫した声で尋ねた。

「無えよ。けど、お前も隅に置けねえな。あんな素敵なプレゼントを贈って来るなんざ、相当入れ込んでるぜ相手さん」ニヤリ。「爆弾なだけに、そりゃあもうアッツアツだ」

「全くだな。これだから色男って奴は辛いぜ」

 はっはっは。二種の嘲笑に共鳴し、ウー、ウー!外から上がる唸りにも似たサイレン。通報を受け急行した消防車だが、まだ距離は遠い。到着に最低あと五分は掛かるだろう。室内の荷物が残らず消し炭になるには充分過ぎる猶予だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ