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「さ、うちは喋ったで。次はそっちの番や、兄ぃ」「お前等も大変だな。分かった、実は昨夜―――」


 要点を得た説明に、時折僕が補足を入れる。店内が満席になる頃、聞き終えた彼女は一層苦々しい表情を浮かべた。

「その狙撃事件については、一応こっちにも伝わっとるわ。被害者が女子大生とは聞いとったけど、まさか先生んトコのお嬢さんやったなんて……けど、売店のレシートか。わざと落とすにしてはけったいな物やし、確かに信憑性は有るわ」

 お手柄やな、純。発見者の頭をぽんぽん。

「そんな事無いさ。折角先生に車まで出してもらったのに、結局手詰まりだ。とんだ無駄足」

「なあ、その果物ナイフってどれ位刺さったん?―――掌を貫通!?どんだけ剛速球で投げたん、あんたって子は!?」

 驚愕から素っ頓狂な声を上げ、慌てて周囲へ咳払いのアピール。

「分かった、了解や。それだけ深手なら病院行っとる可能性は充分あるし、うちの方でも聞き込んでみるわ」

 声を潜めつつ、暫し思案。

「あと調べられそうなんはあんたが見たその凶器、マウザー何ちゃら言う銃の出所やな。狩猟用なら地元猟友会の名簿に載っとるかもしれへんで」

「流石刑事さんは着眼点が違うね。相談した甲斐があったよ」

 賞賛した所で、丁度注文も運ばれて来た。ドリンクのホットコーヒー四つに、縦長のメロンフロートが一つ。驚嘆すべきは二人の頼んだフレンチトーストDXだ。ふんわり粉砂糖を纏う黄色の炭水化物は、豪快に三分の一程皿からはみ出している。どう見ても一斤分は優にあるそれは、外側の耳部分はカリカリ香ばしく、内側は潤としっとり。確信を持って言おう。絶対美味しいでしょこれ。

「お、おい朱鷺。それ、本当に二人で食う気か?」

「イケるイケる!見た目はヤバいけど、案外胃凭れせえへんし。はい純、取り皿。メープルシロップはこっち置いとくからな」

 テキパキと配膳後、喜色満面でナイフとフォークを構える。そんな義姉の横で少年は胸元へ手をやり、首から提げたロザリオを無言で握り締めた。恒例の食前の祈りだ。前々から気になっていたけれど、一体誰に教わったのだろう?つくづく謎の多い子だ。更に厳粛な顔付きで聖具を握る甥っ子へ、何処か哀しげな笑顔を向ける朱鷺さんも、

「おい純」

「すぐ終わる。雲雀兄達は先に食べてろ」

 パン袋を示し、精神統一のため瞼を閉じる。すると、ゴソゴソ。鎖骨の辺りから錐状の青水晶のペンダントを取り出し、うんうん、女刑事も同じポーズ。

「こうしてると小さい頃を思い出すわ。な、兄ぃ?」

「物好きな連中め。勝手にしろ」

 窓の外へ身体ごと向け、一人漆黒の液体を啜る。そんな態度を意に介さず、大小の肩を寄せ合い、二人は唱和を開始した。


「「―――天におわします我等が父よ。

 皆が聖とされますよう、御国が来ますよう、御心が天に行われる通り、地にも行われますように、私達の日毎の糧を今日もお与え下さい。

 私達の罪を御赦し下さい。私達も人を赦します。

 そして、どうか私達を誘惑に陥らせず、あらゆる悪よりお救い下さい―――アーメン」」


 素敵なハーモニーを奏で、祈りの態勢を解く。同時に、カランカラン。鐘が新たな来客を告げた。

 入店したのは銀の短髪に金目、少し草臥れた黒スーツを纏う若者だ。鎮森兄妹と同年頃の彼はウエイトレスと二、三言会話を経、一直線に僕等の席へ。

「朱鷺ちゃん、待っ―――雲雀、さん……?それに、君は確か……」

 驚愕に立ち竦む男性へ、何時の間にか正面を向いていた雲雀君が顎でクイッ。ジェスチャーに従い、失礼します、恐縮しつつ僕の隣へ掛ける。

「親父の葬儀以来か、シド。達者そうだな」

「ええ、まぁ……と、話し込んでいる場合じゃ無かった。朱鷺ちゃん、後三十分で会議だよ」

「ふぇっ!?」ドンドンドン!「嘘、今日やったっけ!!?」

「今朝の朝礼で前倒しだって言っていたじゃないか、署長。寝惚けてるなとは思っていたけど、案の上聞いてなかったんだね」

 やれやれと頭を振り、ほら、行くよ。手慣れた風にナイフフォークを取り上げ、食べかけの皿へ揃えて置く。

「また長い始末書書かされたくないだろ?」

「まだ一枚目やのに、んな殺生な!?」

「はいはい、次奢ってあげるから。そう言う訳だから純君、一杯食べなよ。このオバサンと違って、君は背がぐんぐん伸びる時期なんだから」

 誰がオバサンや!?相棒に腕を引かれつつ、横目で窺う先には雲雀君。テレパシーが通じたのか、分かった分かった、手で妹を追い払う。

「ここは払っといてやるから、とっとと行け」

 ちゃっかり手付かずの一枚を抓み、兄は素っ気無く言い放った。




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