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 案内先はローラン病院から車で約十分。船着場の真裏の一角、アン・ドゥと看板が掲げられた喫茶店だった。うちの行きつけなんやで、ここ。手を引いた最年少に説明しつつ、カランカラン、ベル付属のドアを開放。

「お邪魔するで、マスター。奥の席空いとる?―――サンキュー。さ、こっちやで皆」

 誘導しつつ、勝手知ったる風にズンズン。そうして最奥の窓際、ボックス席へと各々腰掛ける。通路側で僕の真正面、純君の隣に座る朱鷺さんが備え付けのメニュー表を開く。

「もうじき混み始める時間帯やから、何はさておき注文や。兄ぃ達は何にする?」

「そうだな」ちくわパンを顎で示し、「こいつがあるし、俺はホットコーヒーで」

「なら僕も雲雀君と同じで」

 隣の学生に視線をやり、どうも食欲が湧かなくてね、弁解がましく言う。

「食べなきゃ保たないのは分かっているんだけど。キム君はどうする?」

「………」

「どうした兄ちゃん、顔色悪ぃぞ」

「もしかして酔ったのかい?待って、確か酔い止めなら一錠」

 何時にも増して昏い目を閉じ、薬はいい、大丈夫だ、青息吐息で断る。  

「今朝から色々慣れない事があったせいか、少しばかり疲れたみたいだ……メロンフロート一つ」

「分かった。でも、くれぐれも無理はしないでね」

 外部からは窺い知れないが、何せ今回の事件の被害者は我が愛娘だ。彼も普段以上に異能を行使しているのかもしれない。先程乗車の際もドアに脚をぶつけていたし、心配が募る。

「じゃ、純はうちとフレンチトースト食べよか。甘い物好きやったよな?ちょっと量はアレやけど滅茶苦茶美味しいんやで、ここのフレトー。うちのダントツのお勧めや」

 人数分のお冷を受け取り、ウエイトレスへ注文伝達後。氷水を啜り、さて、公僕は徐にコップを置いた。

「ここならまず聞き耳の心配はあらへん。話してもらおか、どうしてあそこにおったんか」

 肉親の真剣さに、妙に拘るじゃねえか、訝しげに首を捻る兄。

「まさか朱鷺。お前が今追ってるヤマ、あの病院と何か関係あんのか?」

 図星だったらしく、一瞬顔を顰める彼女。数秒後、まぁリビドの人間ならほぼ全員知っとる事やけどな。頬杖を付き、窓の彼方の快晴へ目をやる。

「三ヶ月前の強盗殺人事件、知っとる?―――あそこに入院しとるんや、被害者の旦那さん。今日足を運んだのも、犯人の心当たりを思い出してないか訊く為や」

 せやけどなぁ、右の米神を親指でグリグリ。

「事件発生から大分日も経っとる。元々嫁さんの交友関係も殆ど知らへんかったみたいやし、どう考えても無駄足やろ?」

 被害者の遺族……まさか、ね。でもそれなら、さっきの涙の理由も……。

「朱鷺さん。因みに質問だけど、殺された被害者の名前は」

「六月 ユーリ。元市役所職員で、結婚後はマーケットでパートタイマーやっとったらしいわ。って言うのも旦那さんが」

 画家を。震え声での合いの手に、そうそう、ノリ良く便乗する女刑事。

「せやから出展交渉とか、制作に無関係な雑務は専ら彼女の担当だったみたい―――え、今し方会うてきた?それを先に言うてや、先生」

「御免御免。ついでにその、立場上言い難いとは思うけど……その口振りだと完全に暗礁に乗り上げているんだね、捜査」

 歯に衣着せぬ質問に、返答代わりに無言で残りのお冷を呷る。

「……現場の遺留品は皆無、動機のある容疑者も浮かんで来ん。おまけに事件の通報者とも未だ連絡が取れへん始末や。こんな事言いたないけど、上はもう半分諦めとる。恐らくこのまま迷宮入りや、ってな」 

 はーっ、盛大に息を吐く。

「捜査しよるんも、最早新米のうちとシドの二人だけ。それも他の仕事の片手間にや。薄情な話やろ?」

「朱鷺姉」

「あ、御免なぁ純。あんたに愚痴ってもしゃーないのに……はぁ」

 疲れ切った様子で頬杖を外し、脱力した手で以って少年の頭を撫でた。




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